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介護の責任は、一番目の親か二番目の親かで違う?〈介護幸福論 #27〉

「介護幸福論」第27回。父が亡くなり、ここからは母とふたりの生活に突入していく。母は在宅での介護だ。最初の親=父の介護は、施設に任せたい。もうひとりの親=母に負担をかけたくないからだ。しかし、次の親の介護は、できるなら施設に任せずに何とかしたい。自分が負担をかぶれば何とかなるからだ。そんな思いがあった。

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■施設に入れるか、在宅介護にするか

 介護の必要な親を、施設に入れるか、自宅で世話をするか。

 このテーマで文章を書くと、コメント欄が荒れることを知った。書き方を間違えると、想像もしなかったほど、ひどく荒れる。

 自宅で世話をすることをまず考えるべき、ふうのニュアンスを含ませれば、「まともな仕事を持っている人間が介護なんかできるわけがないだろ!」と、一斉に叩かれる。

「在宅介護をするのは、仕事のできない人や、たいした仕事を任されていない人だけだ」という、驚くような意見も飛んでくる。

 反対に、介護施設に入れるのが正解だ、と書いたほうが攻撃はされず、賛同も得られるが、そうすると「いかに施設に問題があるか。実状を知っていれば自分の親は預けない」ふうの内部告発や、経験談が届く。

 そして、その意見を紹介しようものなら、今度は介護の現場で働く人たちからの激しい反論を浴びる。

 どの立場にも、うっかり同意できない。施設入所をどう考えるかは、とてもデリケートな問題なのだと思い知らされた。

■本連載のここまで

 本連載のここまでの内容を整理しておこう。

 第1回から11回。両親が病気になり、帰郷。認知症の父と生活し、父を施設に入れるまで。1章。

 第12回から20回。母の病気や治療について。一進一退の後、深刻な転移が判明する。2章。

 第21回から26回。父が脳出血で倒れ、死へ向かう。母も一時は治療をあきらめるが病状が好転。退院へ。3章。

 ここから先は、母とぼくふたりでの自宅生活が始まる。

 母はまだ自力で立てず、介護ベッドの上で一日を過ごす。週に2日、デイサービスへ通う以外は、ずっとぼくと一緒。食事の世話も当然、同居息子の役目だ。あとは週に2度、訪問看護の看護師さんが自宅に来てくれて、医師と連携しながら様子を見てくれる。

 母を介護施設にあずけるプランも相談されたが、その選択肢はなかった。認知症の父と、脳に問題のない母とでは、状況が違う。一番目と、二番目の違いもある。

■親の死に直面する機会は2回ある

 介護の議論で忘れられがちなのは、親はふたりいるという事実だ。親の死に直面する機会は2回ある。

 在宅介護をした人によく聞くのは「父親には何もしてあげられなかった。だから母親には自分ができることを全力でしてあげたかった」という、身につまされる声である。

 父と母どちらが先に逝くかはそれぞれの家庭によるとして、一番目の親にできなかったことを、二番目の親にしてやりたいと思うのは自然な感情だろう。

 両親がふたりとも健康な段階では、子供はまだ介護を現実的にとらえるのが難しい。もし、父親が要介護の状態になっても、母親が元気なら、介護人の第一候補は母だろう。

 離れて暮らしている息子は「自分が介護人の候補だ」という思考にならない。だから「在宅介護は大変だからさ、施設に入れてもらいなよ」と、気軽に意見できる。

 しかし、先に父親が逝き、残された母親が介護の必要な状況になったら、どうだろうか。

 この時に初めて、息子は「自分も介護人の候補なのではないか」という現実に気付く。そうすると「在宅介護は大変だからさ、母ちゃん、施設に入りなよ」などと気軽に言えなくなる。親を施設に入れるのは、もしかしたら子供の責任放棄ではないかという、少々の罪悪感にもさいなまされる。

 ややこしいので、まとめよう。

 最初の親の介護は、施設に任せたい。もうひとりの親に負担をかけたくないからだ。しかし、次の親の介護は、できるなら施設に任せずに何とかしたい。自分が負担をかぶれば何とかなるからだ。

 親はふたりいる。一番目の親と、二番目の親の場合では、子供にかかる介護の責任感も、施設入所に関する考え方も、おそらく変わってくる。

 そんな視点も、在宅介護を語る際に交えて欲しい。

*プロフィール
田端到(たばたいたる)。1962年、新潟県生まれ。大学を中退後、フリーライターに。競馬や野球を中心に著書は50冊以上。競馬の分野では「王様」の愛称で知られる。ほかにテレビドラマや映画のセリフ研究家、アスリートの名言コレクターの肩書きを持つ。両親の介護をするため、40代後半で帰郷。6年間の介護生活を送る。
ツイッターアカウント:https://twitter.com/4jkvvvypj6cdapf

※本連載は毎週木曜日に更新予定です

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