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幸せ葦名計画

ご注意
本稿は2019ゲーム・オブ・ザ・イヤーを受賞したフロムソフトウェア作のアクションゲーム『SEKIRO SHADOWS DIE TWICE』の二次創作小説です。
ゲーム中の描写と異なる部分がございます。

 後の歴史家は語る。 
葦名一心は心によって起ち、武によって身を起こし、時によって滅びたと。
即ち彼は"人間"であり、時を超えて語り継がれる"君主"ではなかった。織田信長をはじめ、優れた君主は時に不死性を帯びるものなのだ。

 では君主の不死性とは何か?それは個である"人間"一人が滅びるとも、その志と権能を引き継ぐ次代が連綿と続いていくことであろう。

 歴史に"もしも"は存在しない。しかし葦名の伝承にはこうある。

 葦名の古き土地には小さな神々が宿る。やがてそこに、西方より神なる竜が移り住んだ。此方の神々、これ不滅であったという。

 血と硝煙けぶる大手門、押し寄せるは内府の赤備え。その数およそ千。後続いまだ途上にあり、帥は万に上るであろう。

 そを迎え撃つは剣聖の御子達。葦名の名を以後語り伝える者たちである。

 一の廓を破り躍り込む赤備えの一番槍。その首にひょうと突き立つ矢有り。放ちたるは大手門屋根上。怜悧沈着な美丈夫の持つ、不釣り合いに巨大な大弓である。

「内府の方々、よくぞ参られた」

その低き声は、音声に似合わず戦場の隅々まで届いた。

「巴流、葦名弦一郎。葦名が源の雷を見せて進ぜよう」

 はるか遠き、葦名の水源。その頂の上で雷光きらめき、それを合図として大手門より騎馬隊がほとばしり出た。

「葦名七本槍が末席!鬼庭主馬雅次でああある!」

駿馬が炎の如き息を吐き、雅次が手にした剛槍を振るった。

「大手門、この主馬が通さぬ!」

「カカカッ、赤ん坊どもめが押し寄せて参ったわ!」

 葦名城天守より、城主葦名一心は盃を掲げて笑った。その身は細くやせ細り、肌合いは青黒い。
 だがそれは偽りのもの。忍びがもつ仮死の秘薬と、稀代の薬師が弟子による蘇生がそうさせているのだ。

「偽報がうまく伝わったようでございますね」

 弟子らは2名。僧服姿は金剛山仙峰寺が密教僧、道順。その傍らには見目麗しくも峻厳な女薬師。道順の同門にして葦名流免許皆伝、エマ。

「忍びはそのまま、内府方へ留まっております」
「おう!梟の倅がどこまでやるか、楽しみじゃ」

「がッ…ふ……」

 織部正就の胸元より白刃がほとばしり、瞬きの内に引き抜かれた。
代わって赤黒い血潮が噴き出ては、ぐらりとその体が傾いでいく。

「く、曲者!」

 葦名攻め前軍が侍大将、赤備えの重吉は咄嗟に大刀を手繰り寄せるが、気づけば忍びは空を飛んでいた。力士の如く大柄の重吉を蹴りあがり、正就の血で盲いたその目を踏み、背後に降り立つ。

「御免」

 重吉が寒気を感じた時、全ては終わっていた。陣幕の内側には死体が二つと、返り血に染まる孤影衆の一人が立つのみ。忍びは血で汚れた紫の外套を脱ぎ捨て、陣屋の柱を蹴り、幕外へ消えた。

 赤備えがたどり着く。重吉が呼ばわってから一呼吸ほどの出来事であった。死体を検め、赤備え達は思わず身震いして己の背後を返り見た。

「…影めが。忌々しい」

 はっきりとした記録には残っていない。しかし赤備え達の間では長くその噂が残る、恐るべき葦名の忍び。

 影の狼。

 それが成した、慈悲深き一撃必殺の技であった。


あとがき

 現実の蘆名氏は北の関ヶ原、慶長出羽合戦に参加することなく、摺上原の戦いで敗走しました。
 現実でもゲームでも現実は厳しいものです。それでも一心の語る酒宴の様子があまりにも眩しくて、気づけば文書が飛んでいた。

 葦名、世代交代がうまくいってないと思うんですよ。
一心の息子、弦一郎の父はどうしたというのか。薬師道源の後釜が年若いエマしかいないのはなぜか。ワンマン君主一心がその全ての元凶なのか。

 ともあれ、次代の若手は揃っておりました。彼らが力を合わせれば、伊達政宗とだって交渉の席に立てたと思うのです。

 以下は本記事とあまり関係ない考察記事です。


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