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ウルフズ・ワンナイト・スタンド ep-5 #ppslgr

◆前回までのあらすじ

 スーパーロボット、ソウルアバター(略称:SA)乗りロックミュージシャンのリキヤがリハーサルの最中、何者かの襲撃を受けた。仕事のために居合わせたA・Zは自らのSAを起動。鮮やかに襲撃者の1機を仕留める。だがその機体からなんらかの搭載物がこぼれだし……

 ■

 無傷のモグラSAがゆらりとのけぞる。胸部装甲板の観音開きが動き、大口径の発射機構があらわになった。2機目へのとどめに動いていたラフィングジェミナスは、それを警戒して急ターンし散弾銃で照準する。

 胸部展開したモグラSAはそれに構わず、何かをリキヤのステージ向けて射出する。アイネの目が葉巻かカヌーのような砲弾を捉えた。

「ミサイルじゃ、ない?」

 推進機構もなければ安定翼もない。およそ殺傷能力とは無縁そうな形状だった。しかし迷いはほんの一瞬。つぶやきが発せられる間に彼女はトリガーを引いていた。

 だがゆるやかに飛翔するそれは空中で突如発光!輝きは飛来する散弾すら取り込み瞬間的に膨張!
 灰色の光渦がマーブル模様に歪み、中から巨人の影が飛び出したかと思うと砂漠の上へ無様に転がった。泥人形と見紛う質感の巨人。ぶよぶよとした外装甲をフルプレートアーマーのように装着したそれは不格好で鈍重ながらも、確かにソウルアバターだった。

 アイネが横転させたモグラが同様のマーブル光を放つ。砂丘の向こう、最初に1機目を撃破した辺りでも灰光がきらめく。レーダーにぞくぞくと増える光点が、SAの群れが顕現したことを伝えた。

「あのモグラ、輸送用だったわけね」
「A・Zのほうも同じだ」
「アイネちゃんの方もか。じゃ、こっちは俺ひとりで……」
「みんな!また出たぞ!!」

 リキヤの怒声が通信を震わす。アイネのレーダー上に、新たな光点が浮かび上がった。ステージの後方と右方向に3体づつ。アイネとA・Zが振り返ってステージの方を見やれば、銀の天蓋を挟んで反対側にいくつもの砂煙が上がっている。いまやステージは包囲されつつあった。

「仕方がねえ。まっとうなライブは今回もお預けだ」

 ライブステージが帯電する様が見えた。ステージ中央に立つ冥王が戦斧の如きギターを打ち振るって弦を押さえる。三頭の狼首が低く唸り声をあげ、男女混声合唱となって戦場に響きだした。

「待って。そっちの連中も私が片付ける」
「無理すんな。そっちを片付けてからでいいぜ」
「まだ奥の手があるのよ。貴方はクライアントでしょ?手を出さないで」
「なおさらだ。その奥の手ってやつは最後までとっといてくれ。
 D・A、ステージを動かす。掴まってろ!」
「いつでもどうぞ」

 噴射音がリキヤとD・Aの回線から轟く。ステージが真白いスモークを噴き上げ、かすかに動き出した。そのままステージは高度を上げていく。ジェットエンジン音が頂点に達したとき、高らかな噴射炎を放った!

「全力で行くぜ!サン・シーカーッ!!」

 ステージが空中を滑走!同時に冥王機のギターが全天を叩くような音を挙げる!低く唸るベース音は遠雷の如く、ギターを飛び回る運指の音は雷光の如し。リキヤの十八番が戦場と化した砂漠をライブ会場へと引き戻す!

 紫電を帯びる貝殻状のステージは増援のモグラSA達の上空を通過ざまにスモーク雲を残していく。真綿のような雲は下降してモグラ達に纏わりつくと、突如氷結してその動きを止めた。ステージはバレルロールしながら高度を下げ速度を増していく。その進路上には氷結モグラの一団!

「いっけえええ!!」

 激突!電光が弾ける!
 吹き飛ばされ、粉と砕かれたモグラ達は粒子化して消えていった。

「イヤッホー!!たっのしーこれ!」
「騒ぐな。舌を噛むぞ」

 狼達が口々に喚く。ギターをかき鳴らす冥王がステージを強く踏み込めば飛行ステージは急ターンし、突撃を免れたモグラ達へ止めを見舞うべく加速する。

 その時、ステージにしがみつくD・Aは砂丘の向こうに影を見た。真っ直ぐに屹立する塔のような影を。塔は積み木を立てるように組み上がっていき、最後に不穏な膨らみを頂部に載せた。

「あれは……まずい!」

 D・Aが鋼色の腕をふるい、建設用ドローン群が飛行するステージの側面を覆う。だが無意味だった。ドローンの薄い壁は貫かれ、大きな衝撃と共にステージ側面が爆発し、傾いだ。

「うお?!」
「む、砲撃か?」
「えーやだー!」

 狼狽えながらも冥王機は演奏を続けるが、そこを第2射が襲う。ステージ底部の円盤が崩壊し、ばらばらと残骸を振りまいていく。推力とバランスを失ったステージは砂地に向かって落ちていった。
 なんとか柱に捕まりながら、D・Aはスーツの望遠で塔を捉えた。彼方にそびえる石造塔。中世の見張り塔のようなそれが、天辺に備えた巨砲でこちらを睨むのを。

 ステージは盛大な砂煙を上げて不時着、砂の大地を滑っていく。時折岩にぶつかって下部構造が吹き飛ぶ。ようやく滑走が止まった時、銀色のステージは屋根とそれを支える柱しか残っていなかった。

「……ライブ終わる頃にはこうなるかも、とか思ってたけどよ」

 冥王機は傾いだ屋根の下から這い出し、首を振った。狼主達も残骸を払うように身震いする。

「まさかリハでぶっ壊しちまうとは……」
「ねーねー。もう飛べないの?」
「残念だけど今回はもう無理ね。諦めなさい」
「目的はわかりませんが、どうやら相手はかなりの準備をしていたようですね」
「ああ……」

 コクピットでうなだれるリキヤの目の前へD・Aが3つの画像を並べる。モグラ型SA、灰色泥人形のごときSA、そして彼方にそびえ立つ砲撃塔。

「リキヤさん、自分はあの塔をなんとかします」
「いや、大丈夫だ。あんな奴ら俺とアイネでどうにでもなる」
「承知しています。ただ」

 倒壊したステージの傍らで白い光が起こり、ワイヤーフレーム上に編み上げられていく。

「連中は自分の仕事を台無しにしてくれました。是が非でも責任を取らせたいと思いましてね」

 光が静まると2台の重機が姿を見せた。1機はステージ設営に使われていたクレーンを装備する無限軌道機。もう1機は流線型ダブルローター機。D・Aは後者に乗り込んだ。

 回転翼が折りたたまれて天を指し、絡まるように錘状へ変形する。ローターが動いて水平になると、螺旋回転円錐は砂丘の腹を照準して回転をはじめた。

「地下からあの塔を崩してきます。リキヤさんはここで迎撃を。ステージの屋根は盾にも使えますから」
「おう。気をつけてな」

 ドリルローターが砂を掘り、あっという間に砂地へ潜り込んでいく。それを見届けると冥王機はギターをかついで立ち上がった。

「さーて。2曲目、いくぜ」

本稿は以下の物語の二次創作小説です。スーパーロボット活劇!

筆者は以下の物語を連載中です。


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