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Casemiro:責任

加入以来、モドリッチとクロースの後ろをカバーし、チームを助けてきたカゼミロ。持ち前の守備能力だけでなく、配球能力等の足元の技術も年々向上しており今や欠かせない存在となっている。彼なしではCL3連覇はなし得なかっただろう。ここぞという場面でチームを救うゴールを決めるといった勝負勘もあり、頼もしい存在だ。ヴィニシウスなどの若手選手を導く側に回り、ピッチ内だけでなくピッチ外でも頼もしい。今や、彼のいないマドリーを想像するのは難しく、彼がいない試合では彼の不在の在を痛感するのである。攻撃性能の高い両SBが果敢に攻撃参加できるのは、カゼミロの傑出したカバー能力のおかげであり、クロースやモドリッチは彼がいるおかげで攻撃に専念できる。カゼミロはいとも簡単に広大なスペースでスピードに乗ってボールを運んでくる相手を阻止し、マイボールにする。かわされたらピンチに陥るときでもことごとく止めて見せる。

カゼミロは相手に思考する時間を与えない。正対した相手のボールをことごとくとって見せる。相手を一方向に進むように誘導し、相手の体が開いたところでするりと間合いに入る。フィジカル勝負になればカゼミロの独壇場だ。そこからマイボールにし、チームのカウンターの起点となる。彼の予測力と洞察力、フィジカル的なアドバンテージによって為せるディフェンスで相手を封じ込める。

冒頭でも述べたように、彼は攻撃の面でもレベルアップしている。元々ボールのミート感覚は優れていたが、いかんせんスペースのないところでボールを渡されると詰まることが多かった。パスワークが彼の位置で澱むことが少なくなかったし、相手のプレスのねらい目にされることもあった。だが、マドリーでの在籍年数も長くなり、モドリッチやクロースといった最高の選手と組んで経験を積み洗練されていくにつれ、窮屈なところでもパスを出せるようになった。運ぶプレーもでき、相手のボックスに攻め上がっていくこともある。ボールの出しどころがなくなり詰められた場合は相手からファールをうまく誘い出すなど、とてもクレバーな対応を見せる。また、ターゲットマンとしても機能しており、セルヒオ・ラモスの抜けた今では、ミリトンとともにセットプレー時のターゲットとして信頼されている。

ループシュートや、ヒールパスなどブラジル人らしいプレーを見せることもあるが、カゼミロのプレーはどちらかというと堅実でヨーロッパ風に近い。彼自身、次のようにインタビューで答えている。

「フットボールのピッチで育った自分は30〜40メートルのロングボール、ライン間のプレー、ストライカーへのスルーパスなどを好んできた。股抜きとか違う側のフットボールは、好きになったことがないね。僕はもっと垂直なフットボールが好きだけど、それはどちらが優れていて、どちらが劣っているかという話ではない。僕がそういうタイプの選手ってことなんだよ」

彼のこなす堅実なカバーリングはたしかに派手さはないが、マドリーの守備と攻撃への第1手としての大きな意味を持っている。常に状況を確認し、味方が明けたポジションを埋めリスク管理をすることでマドリーの選手がプレーしやすいようにする。3連覇のシーズンではマルセロのカバーを行うラモスのカバーを行うなど、今よりも守備的なタスクが多かった。タスクが増えた今でも実直にこなすカゼミロの姿にマドリディスモを感じるのは私だけだろうか。

カゼミロが気を抜くことはほとんどない。真面目さそれは彼の人間性の奥深くにあるものだろうし、プレーからもそう感じる。ヨビッチからのパスをループで決めた時は、彼は自分でなくヨビッチを指し彼に称賛を、と求めた。周りを気遣える優しさ、そしてヴィニシウスを叱りつける厳しさ。チームでの自分の責任を感じ、凄みを増す世界最高のアンカーは年々凄みを増し、チームを文字通り縁の下の力持ちとして支えてくれる。

彼のフットボールはピッチの外でも続いている。ピッチ外での健康管理にもかなりの気を配っており、その姿がロドリゴなどの後輩にも影響を与えている。また、これ以外にも、19-20シーズンのPSMでアトレティコに大敗したのを見て家族での旅行を切り上げて戻ってくるなど、カゼミロの責任感やプロ意識についてのエピソードはこれ以外にも多くある。

また、マドリーにいるロドリゴやヴィニシウスのような若手選手については次のように述べている。

彼らには参考とすべき選手が必要だ。なぜなら彼らはこの先4,5年でマドリーのリーダになる。だから我々のようなベテランが彼らの手本とならなければならない。

そんな責任感もありピッチ内外での貢献度が素晴らしいカゼミロだが、その存在の大きさゆえ、不在時にチームが穴を埋め切れていないのも事実だ。彼のレベルのカバーリング能力や戦術眼を持つアンカーはおらず、新たなフォーメーションやバランスを見出す必要があるだろう。フェデがカゼミロのポジションで計算されていたように思うが、そのフェデについてカゼミロは次のように述べている。

「彼みたいに見事にボールを蹴ることができ、力強いフィジカルでボックス・トゥ・ボックスを実現できる彼がチーム内にいることは、とても素晴らしい。思うに、彼に最も適しているのは8番のポジションだと思う。そのクオリティーに鑑みれば中盤のどこでもプレーできるけど、両ペナルティーエリアを行ったり来たりすることが最たる特徴だろう。5番や6番ではなく、8番の選手だ」 

カゼミロがいないときのソリューションをどうするか。その問題は永遠に続いている。怪我での離脱も少ないため、良くも悪くも彼ありきのチームとなってしまっている。そのような状況のマドリーが新たな形を見せることができるかは、PSG戦で問われるだろう。カゼミロの代役として期待されていたカマヴィンガは機動力に優れボール奪取能力も問題はないが、IHでの起用が多く代役として穴を埋められるかは未知数だ。マドリーはカゼミロの代役というよりはカゼミロがいないときの戦い方を模索する必要性があるだろう。

地味だが、確実に重要な仕事をひたすらこなすカゼミロには一種の職人気質を感じる。縁の下の力持ちとしてマドリディスモを体現する彼がいなければマドリーに攻守の安定は生まれない。2021年8月27日には新契約も結んだ。これから先もマドリーをピンチから救い、自身の役目を果たしてくれるはずだ。





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