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MarcoAsensio:証明

軌跡

アセンシオに期待せずにはいられない。パンチのあるミドルシュート、左足のクロスの精度やダイナミズムは彼の持ち味だ。ポジショニングも素晴らしく、常に相手の嫌がる位置にいる。頭もよくチームのために動けるのは彼の持ち味だが、一方で自分をのプレーを自らオフにしてしまう嫌いもあり、いい意味でのエゴを身に付けられれば、さらに上のレベルへと上がるだろう。私のように彼の覚醒を望むマドリディスタは多くいるのではないだろうか。

そんなアセンシオが2014年8月に今現在大火事の起きているバルセロナに移籍する可能性があったのは懐かしい話だ。一時はほぼ移籍確定のような状態になったものの、マジョルカ側が450万€の一括払いを求め、それに対しバルセロナ側は250万€プラス出来高200万€の形に固執し、交渉は棚上げ状態になった。(当時のバルセロナのスカウティングレポートにはアセンシオは自己主張をあまりせず周りに気遣ったプレーができる、と書いてあったらしい)その間、ナダルの進言もありペレスはアセンシオの獲得を決断。ナダルがマジョルカのSDを務めていた彼の叔父にその旨を伝えたことで、マドリーとマジョルカ間の交渉が加速。2014年12月、約350万€でマドリーへの移籍が決まった。その後のU-19欧州選手権でMVPを獲得しマドリー入団を果たした。ちなみにアセンシオと交渉した同月に、バルセロナは550万€の移籍金を払ってブラジル人SBのドウグラスを獲得している。さらに補足すると、ドウグラスがバルセロナに移籍してから出場した試合数は8試合である。

話が逸れた。

その後、2015-16シーズンには経験を積むべくエスパニョールへとレンタルされ、リーガでは34試合に出場し4G10Aを記録。エスパニョールで1シーズン戦ったのち、ジダンのもとで11回目のCL制覇を成し遂げたチームに復帰。UEFAスーパーカップのセビージャ戦では鮮烈なミドルシュートを決めてみせた。チームもその後、ラモスとカルバハルのゴールで延長戦の末優勝した。その一週間後の2016年8月16日に入団セレモニーが行われ、ヘセがつけていた背番号20をつけることが発表された。その入団会見ではペレスから期待の表れともいえる大きな賛辞の言葉が贈られた。

「知っていて欲しいことは、君が君自身の力でレアル・マドリードの選手なる権利を勝ち得たということ。このユニホームは最大限の責任と努力を象徴するものである。そしてレアル・マドリードは私たちが築いてきたクラブとしての歴史と価値、私たちのサポーターの情熱を裏切らない規律を大事にしていることは知っていると思う。すでに、スーパーカップの素晴らしいゴールは、マドリディスタの多くの心を掴んだものであり、欧州大会でゴールを決めたレアル・マドリード選手の最年少記録となるものだった」

アセンシオはこの入団会見中に亡き母を思い涙を流し、支えてくれた家族に感謝するとともにマドリーでプレー機会を得られるようアピールしていきたいと述べた。2016-17シーズンはジダンからも高評価を得て、控え選手として活躍。主にサイドのプレーヤーとして起用された。CLでもバイエルン戦でのドリブル突破からの右足でのゴールや決勝での途中出場からのゴールなど印象的なゴールを決め、シーズントータルで38試合に出場した。

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(↑入団時の日本語公式によるツイート。#WelcomeMorataとは)

2017−18シーズンは前年度の活躍もあり出場機会が大幅に増加。シーズンで53試合に出場した。8月13日と8月16日に行われたスーペルコパではバルセロナ相手に2得点。3年前に自分を取り逃したチームに対して自らの真価を証明して見せた。バスケスとともに運動量を武器に、442 のフォーメーションの左サイドハーフを務めた。多少の浮き沈みはあったものの継続的に起用された。CLのバイエルン戦ではロングカウンターからまたもやゴールを奪って見せた。史上初のCL三連覇に大いに貢献し、クリスティアーノの後釜候補として挙げられるほどにもなった。

挫折

クリスティアーノがトリノへと旅立った2018-19シーズン。マドリーはレジェンドに別れを告げ、新たな時代を築くべくクルトワやマリアーノを獲得し、さらに監督にはロペテギ(14試合)、ソラーリ(32試合)、ジダン(11試合)の3 人を1シーズンで獲得。悪夢のシーズンを過ごした。このシーズン、アセンシオはリーガでは1ゴールのみ。彼にとっても文字通り最悪のシーズンとなった。

そのため、2019-20シーズンは彼にとって勝負のシーズンとなるはずだった。己の力を再度証明するべく、イタリアで行われたU-21欧州選手権も辞退して、プレシーズンに臨んだ。しかし、7月24日、プレシーズンマッチのアーセナル戦で前十字靭帯を断裂。回復までには1シーズンを要するものとされ、シーズン中の復帰は絶望的とまで言われた。マドリーは攻撃の核となる予定だったアセンシオを欠きチームの構想の練り直しに、、、アセンシオは長い長いリハビリに打ち込むこととなった。アセンシオは怪我の直後にSNSで次のようなメッセージをマドリディスタに送った。

「レアル・マドリードのファンと僕にとって素晴らしいシーズンにするため、細かいことも準備し、今シーズンに新たな希望を抱いていた。人生で最高の状態にあっても、思いがけない不運な巡り合わせによって、突然全てが変わってしまう。ここ数日の出来事を受け入れるのはとても辛い。だけど、僕は人生における新たなチャレンジを始めるんだ。僕はまだ今シーズンが素晴らしいものになると期待している。みんなのメッセージや愛情のこもった行動は、このチャレンジに立ち向かうためのさらなる勇気を与えてくれる。みんなの支援に心から感謝します。」

昨シーズンにどれほど彼が懸けていたかわかるだろう。そんな中での大怪我だった。怪我の状況はひどく重い怪我で、SNSで彼の痩せ細った左足や手術痕を見た人もいるのではないだろうか。一ヶ月ほどは怪我したことを受け入れられない状況が続いたが、家族や恋人のサポートもあってようやく立ち直り、リハビリに打ち込んだという。リハビリでは、熱が入りすぎるあまりに医師がストップする事も幾度となくあった。そのリハビリの経過状況についてはSNSに度々アップされた。プールでのトレーニングから筋肉を増強するトレーニングへと徐々に変化していき、2020年1月24日にはピッチに復帰。ボールを使ったトレーニングができるようになった。その後もリハビリを重ね、コロナにおける中断期間中も自宅でできる事全てを行ったという。怪我する前の時とほぼ同じ体重で中断明けの5月11日の練習再開で復帰した。

アセンシオはこの長期に及ぶリハビリ期間について次のように述べている。

「24時間膝のことを考えていた。自分自身と向き合う作業はこの段階の僕にとってすごく助けになったし、この先に直面するものに対して役立つだろう」

これからも付き合っていかなければならない膝の怪我を受け入れ、マドリーでまたプレーするためにできること全てをやったアセンシオのことをフットボールの神様は見捨てなかった。復帰戦のバレンシア戦ではファーストタッチでゴール。投入後、すぐさまゴールを決めて見せた。メンディからのクロスを呼び込みボレー気味のシュートをゴールネットに突き刺した。

できすぎたストーリーだ。確かに彼はラッキーボーイ的なところもあるのかもしれないが、運に恵まれているだけと片付けるのは些か乱暴だろう。彼には運を掴み取る力があるのだ。できることはなんでもやり、運を掴み取れる位置にいたからこそ、最高の形で復帰することができたのだ。「運も実力のうち」これが真実のように思う。なぜなら、目の前に転がってきた運を掴み取ることができないものだっているのだから。。。

何はともあれ、アセンシオはスタート地点に立った。復帰戦以降も継続的に結果を残し、3ゴールを記録。順調な滑り出しとなった。シティ戦ではチームの救世主となることはできなかったものの、新シーズンに向けてリーガ再開後も継続的にアピールできたのではないだろうか。スペイン代表に招集されるという嬉しいニュースがあったものの、トレーニングで膝に腫れがあり離脱。復帰に向けて調整してもらいたいところだ。彼はこれからも怪我と向き合いつつ、右WGのポジションを争わないといけず、彼自身焦ってもいるだろう。今回の怪我がさらに焦りをもたらす可能性もある。これからのキャリアを考え、無理をせず適切に身体をコントロールして欲しいところだ。

精神的にも逞しくなったアセンシオが、今一度、自らが白いユニフォームを着るに値することを証明するシーズンがもうすぐ始まる。

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