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コラム 患者給食の残飯は豚のエサ??

 もう20年も前のこと。新卒で委託給食会社に入り、一番初めに配属された病院で洗浄作業をしていた時の話です。洗浄業務には「はたく」という仕事があります。下膳された残飯を「はたいて」捨てる作業のことです。大きなポリバケツ(ごみ箱)の上に、同じサイズくらいの大きなざるを載せておき、残飯が乗ったお皿を逆さにして、中の残飯をはたき落とす作業を「はたく」といいます。
 残飯は水分と固形物の塊です。各病棟から下膳されたトレーには、色々な残飯が乗っています。お粥や肉じゃがの残りやら手つかずの味噌汁・・・。洗浄業務の一番初めの作業がはたきなのです。はたいて→空っぽになったお皿を下洗いして→食器洗浄機のベルトコンベアに並べて→ベルトコンベア(通称ベルコン)が動いて→機械の中で洗浄され→すすがれ→ベルコンで流れてきた食器を受け取り→食器カゴに入れて→食器乾燥機に運び入れ→乾燥させる。というのが一連の流れです。これがまたすごく重労働。というかスポーツに近い。食器の流し手と受け手の息が合わないと、ベルコンの安全装置が働いて機械は止まるし、えいっさー、えいっさーとリズムよくやっていかないと、仕事が終わらないし外は真っ暗。
 
 なぜ大きなポリバケツと大きなざるが必要かというと、残飯は水分を含むためとても重いのです。ポリバケツに溜まった水分は排水溝に流し、ざるに残った残飯は生ごみとして捨てるのです。
 当時勤めていたその病院には変な決まりがありました。固形物は厨房の外のゴミ捨て場に運び出し捨てるのですが、専用の大きな蓋つきのドラム缶に捨てるのです。当然、ドラム缶の周りにはいつもハエが数匹いたし、非常に臭い。蓋を持ち上げて、大きなドラム缶の中に残飯を入れるのですが・・・。入れるまでが大変。う~~~ん、よいしょっと持ち上げて、ざるの中の残飯をそのドラム缶に入れるのです。とても重いですし、毎日の三食分、つまりこの作業は一日3回必要でした。
 新卒でほとんど机上の勉強しかしてこなかった私にとって、この作業は衝撃でした。ドラム缶に残飯を移す時には、ぴちぴちと水分が飛び散るのです。もちろん、顔にもとんできて、まさにバイオハザード。何度仕事を辞めようと思ったことか。
 
 ある時、頑張って残飯をドラム缶に入れていたとき、先輩に注意されました。「あ、待って。オレンジの皮は入れたらだめだよ。豚が食べると死ぬんだって。」・・・・・・・・・・・・
 (はぁ????)「この残飯は豚のエサで、豚はオレンジ食べられないんだってさ」・・・・(えぇ???)。
 
 それから20年経過したつい最近、現在勤める病院に、老舗のとんかつ屋を営む亭主が糖尿病で入院されました。栄養指導でお話しているときに、豚のエサの謎が解けたのです。 
 亭主は昔、豚を飼っている農家に、直接豚を買い付けに行っていたそうです。養豚農家に「おたくの豚のエサはなんですか?」と聞くと、必ず「うちはもちろん標準配合飼料です」とか何とか言うそうですが、それは高価なものらしく、ほとんどの豚は残飯を食べさせているというのです。亭主いはく「ろくなもん食わせてもらってない。そんなところの豚は水豚ばかりで、どの豚が美味しいかなんて、最初は全く分からなくて、若いころは損ばかりさせられていたよ」とのこと。そこで思い出して、給食残飯を豚用に捨てていた話をしてみたところ、どうやら本当の話らしいのです。「ただ、すべてぐつぐつ加熱するよ、しないと生では食べられないからね。」などど教えてくれたのです。オレンジの皮はやっぱり食べないのだそうです。
 軽い衝撃でした。色々な疾患で入院されている患者さんの残飯を、ぐつぐつ煮て、それを豚が食べていて、その豚をもしかしたら私たちも食べているというわけですよね??最近それだけが理由ではないのですが、何となく豚を食べにくくなりました。

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