安井息軒〈地動説〉07

原文-07:然則人處地球、而不覺其動者何也。曰此西人巨船之說也。乘巨船於江、唯見岸移於彼〔、〕而不覺船行於此。船行且猶不覺、又安能覺大地之爲動哉。故月以地爲心、地以日爲心。而運轉之際、一南一北、以蓄其勢、冬夏生焉、薄蝕出焉。其精不違毫釐、則西人之說備矣。

訓読-07:然らば則ち人の地球に處りて、其の動くを覺らざるは何ぞや。曰く此れ西人巨船の說なり。巨船に江に乘り、唯だ岸の彼に移るのみを見れば、而(すなわ)ち船の此に行くを覺らず。船の行くことすら且つ猶ほ覺らず、又た安んぞ能く大地の動たるを覺らんや。
 故に月は地を以て心と爲し、地は日を以て心と爲す。而して運轉の際、一南一北し、以て其の勢を蓄へて、冬夏生じ、薄蝕出づ。其れ精にして毫釐も違はざれば、則ち西人の說備はれり。

意訳-07:それならば、ヒトが地球にいて、その地球が動いているのを感じ取れないのはなぜか。〔答えて〕言う、これは西洋人の巨船の說である。長江で巨船に乗っていて、ただ河岸が向こうで〔後ろへ〕流れていく様子だけを見ていると、船がこちらで〔前へ〕進んでいるのを感じ取れない。船が進んでいることさえ感じ取れないのだから、またどうして大地が動いていることを感じ取れるだろうか、いや、感じ取れはしない。

 だから月は地球を中心として〔周回し〕、地球は太陽を中心と〔して周回〕する。そして公転〔運轉〕の際、少し南北へずれ、そのずれた勢いで、夏や冬〔といった季節の変化〕が生じ、日蝕や月蝕(薄蝕)が出現するのである。その〔理論は〕精緻で〔現実との間に〕ごく僅かな(毫釐)違いもなく、西洋人の説は実に行き届いている〔と言うべきである〕。

余論-07:地動説の解説
 地球が動いているのを感じ取れない理由を、船に乗った時に、川岸の方が動いている様に感じるという事例を挙げて説明する。
 また季節によって南中高度に変化が生じる生じる原因を解説しているが、ここにも誤謬がある。息軒は、地球の公転に際して南北方向にブレるからだと説明するが、実際は、地球の地軸が公転面に対して傾いていることが原因である。この誤謬から、息軒が参照した西洋天文学の書籍を特定できるかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?