安井息軒〈文会社約〉02

(02)

原文-02:然則我數人者之聚首於此都、不宜不早爲之計也。況今天假我以歳月、優我以閒散。所在雖異、其業則同。則亦我曹千載之一時矣。諺曰、「臨戰作翦」。誚其不及時也。
 請月一爲會。會必以文、已從曾子「輔仁」之義、庶乎得免離群多過之歎、與文人詞客撫今慨昔之感也。
 夫會宜有約。請試言其略。


訓読-02:然らば則ち我が數人の者之れ此の都に聚首すれば、宜しく早く之が計を爲さざるべからざるなり。況んや今天我に假するに歳月を以てし、我を優するに閒散を以てす。在る所は異なると雖も、其の業は則ち同じ。則ち亦た我曹千載の一時なり。諺に曰く、「戰に臨みて翦を作る」と。其の時に及ばざるを誚(せ)めるなり。
 請ふ月に一たび會を爲すことを。會は必ず文を以てし、已に曾子「輔仁」の義に從へば、離群多過の歎を免れ、文人・詞客と撫今慨昔するの感を得るに庶(ちか)からん。
 夫れ會には宜しく約有るべし。請ふ試みに其の略を言はん。

意訳-02:そうであれば、〔今、幸運なことに松崎慊堂先生の門弟たる〕我々数人がこの〔江戸という〕大都市に会しているのだから、一刻も早くこの計画を実行しなければなるまい。まして現在、運よく(天)我々の寿命にはまだ〔みんな40歳前後ということで〕歳月があり(假我以歲月)、境遇にはまだ〔みんな公職に就いていないということで〕暇(閒散)がある。〔我々は、私息軒と藤森弘庵は藩士、羽倉簡堂は旗本、塩谷宕陰と芳野金陵は儒医、木下犀潭は農家というように出自を異にし、〕立場は異なるといえども、〔文人として詩文を創作するという〕その仕事(業)は同じである。つまり、我々は〔志を同じくする友に囲まれ、かつ創作にかける時間が充分にあるという、人生において〕千載一遇の好機を得ているのである。諺に「戦を見て矢を矧ぐ」(臨戰作翦)という。肝心な時に間に合わないことを責める言葉である。

 どうか月に一度、会合(會)を開催させてほしい。会合(會)は必ず文芸(文)をテーマとし、孔子の弟子である曾子が〔《論語・顔淵》で「知識人(君子)は〔商売や出世のためではなく、それらから最も縁遠い純粋な〕学術や文芸のために交友し、友人を〔金儲けや求職のためのコネではなく、〕自らの道徳性(仁)を高めるための支えとする」(君子以文會友、以友輔仁)と〕説いた「輔仁」云々の意義に従うなら、“集団を離れて独力で事を進めようとすれば過誤や過失が多くなる”(離群多過)という嘆きから開放され、文人や詩人(詞客)と目の前の情景から昔日の事を思い浮かべて懐かしむ(撫今慨昔)という感覚に近いものが得られるだろう。

 そもそも会合(會)には、ルール(約)があるべきだ。どうか〔本会のルール(約)について〕少し簡略に説明させてほしい。

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