詩: 6 BPM 94

  BPM 94

 堂々巡りの噂話に
 あの子があくびをしている夜は
 身のほど知らずの予言でいっぱい
 危険も時計も見えなくなって
 神さま気取りの誘惑者たちは
 煙草とお酒を内臓に詰め
 ライブハウスは楽園を真似て
 朝焼けが来てもふるえ続ける

 退屈な嫉妬
 回復してきょうも
 こころばかりが汗ばみだして
 からだは夏でもいつも冷え冷え
 エアコンの風はたぶんおそらく
 毛細管にはよくないのでしょう
 小指の先がしびれるまえに
 未知のコードを開発しなきゃ

 夜道では
 月じゃなく
 火星ばかりに目が行って
 梅の花
 とよく似た香りの
 あの子の歌なんて思い出したり
 決定的な別れもないまま
 ひとは大人になれてしまうし
 セミがシューシュー鳴いてたことも
 二ヶ月後には忘却の川

  電波塔 のうえから見たら
  街はきっ とはがゆさに似て
 正論暴論 詭弁強弁
 なんでもござれのそうぞうしさよ
  高いところが好きだといって
 煙になっ たつもりはないし
  まして天使を気取りたいなら
 だれにも聞けないことばが足りない

 ブルース
 ロック
 ファンク
 フリー ジャズ
 アール アンド ビー から
 ’65年のヒット曲まで
 歌いたい 胃がいたい
 すがりたい 不甲斐ない
 不快な愛 つらい出会い
 苦海深い 愉快な灰
 
 十字路で
 すれちがいを
 くりかえすことにはみんな長けてる
 八月の
 夜風には
 眠るあの子の熱が溶けてる
 革命家たちの迷走神経は
  ズタッ ズタッ とやられて
 紙風船より軽い命を
 持てあまし族のさまよいだらけ

 スニーカーの紐が乾かないこと
 ツイッターの嘘がバズらないこと
 プリンターの蓋が閉まらないこと
 フリーターのままでかまわないこと
 アコギのチューニングはいつも
 微妙 にうねって決まりきらない
 五弦と二弦のあいだの二本で
 すべての悩みを網羅したいね

 堂々巡りの噂話に
 あの子があくびをしている夜の
 裏側にいつも奇跡はあるが
 人見知りだからあつまってこない
 神さま気取りの誘惑者たちは
 愚鈍を競って金をふり撒き
 ライブハウスに夕焼けはない
 明日の天気を知らないために

 堂々巡りの噂話に
 あの子のあくびも尽きてしまって
 惰性でやってる曲のあいだに
 鼻歌混じりのバイバイが来る
 神さま気取りの誘惑者たちは
 嘘つきの顔を隠さなくなり
 ライブハウスは廃墟となっても
 夜のまんなか踊りつづける
 
 (2023/2/15, Wed.; 26:07)