詩: 3 八月の光

 去るものばかりがまばゆいわけではない
 陽炎すらが水の音に似て
 八月は風の疼き

 ちりばめられた緑葉どもの
 讃歌を 一息も意に介さず
 季節はひたすら多幸に踊り
 時間はふるえる 受肉のごとく

 炎天も影も艶をまぬがれない
 ものたちはのこらず官能を知った
 鳥のすがたが路上をすべる一瞬とはよろこびなのだ
 夏はいま 水であり
 昼が止んでも呼吸は止まず
 波打つ夜の底にはもう朝が沁み
 雲がやって来る 空を慕うため

 春花のうぶな繚乱の
 なじんだなつかしさは厳に捨て置け
 しるべとしるしを欠いた生でも
 まぶしさのなかに連帯を知ろう

 だから 風よ
 かがやきよ
 在るものの在ることをあまねく許し
 来るものの声をこばむな そして
 去るものをひとしお まばゆく照らせ

(2022/1/29, Sat.)