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【美しい彼 考察1】沼へ誘う圧倒的「美」の暴力 Season1 – 1

ドラマ「美しい彼」沼への誘い

2022年8月。それは暑い夏の夜だった。
0歳児を抱え実家に帰省していた私は、その日とにかく暇だった。
赤ん坊も十人十色、息子はありがたいことに本当によく眠る赤ん坊だった。
暇を持て余していた私にNetflix(※1)がオススメしてきたのが「美しい彼」、そう、沼への入り口である。

高校時代、いわゆる腐女子として青春時代を送った私だったが、大学に入ってからはジャニヲタに移行し、社会人となった今BLは本当に嗜む程度になっていた。
それでもジャニーズ主演の「消えた初恋(※2)」は狂ったように見ていたので、今思えばやはり魂は残っていたのかもしれない…。
しかも「美しい彼」というタイトルは、イケメン好きのジャニヲタとしてはかなり気になる。

美しい彼とは誰なのか?本当に美しいのか?

1話25分という短さもあって、気軽な気持ちで再生ボタンを押したのが終わりの始まりだった。

視聴者を屈服させる圧倒的「美」

本作の主人公は平良一成(萩原利久※3、「吃音症」をもっていて、友達のいないスクールカースト最底辺の高校生。

唯一の趣味はカメラで、ドラマ冒頭にて、汚い用水路を流れるアヒル隊長(アヒルのおもちゃ)にシンパシーを感じ写真を撮るシーンが印象深く収められている。

高校3年生の始業式、クラスの自己紹介で言葉に詰まり、絶望しかけたときに「救世主」として現れるのが、もう一人の主人公「清居奏」、スクールカーストの頂点に君臨する「美しい彼」である。

このドラマ/原作のストーリーラインにはそもそもかなりの無理があって、それは底辺と頂点が恋をするからではなく、平良が清居(とその周辺)に「底辺」としてみなされパシられるからである。

ドラマ中でもバスケのユニフォームを平良が清居達に投げつけられるシーンがあったり、日常的に飲み物や食べ物を買いに行かされたり、「キモイ!」と言われるのはしょっちゅうだし、一人だけ別テーブルでハブられてたり、イジメに近しいヒドイシーンがわんさかでてくる。

普通この状況で相手を好きになるやつはいない。憎むことはあっても、好むやつはいない

…はずなのだが。

俗っぽくいえば平良は清居に「一目ぼれ」してしまうのである。
「引力めいたものに引きずられ」、一目みて清居から目が離せなくなってしまう。
結果、清居になら喜んでパシられるし、利用されているだけだとしても、平良からしたら清居の近くにいられることが何よりも幸せで…
だから平良を見ていても悲壮感がなく、むしろ二人のやりとりがエモく楽しく感じてしまうという仕掛けになっている。

つまり、平良の「一目ぼれ」に視聴者が説得力を感じなければ、このドラマは崩壊する。

圧倒的な「美の暴力」で視聴者を黙らせなければならない。

しかもただの「好き」ではダメなのだ。
ひれ伏してもいいと思えるくらいの、「信仰心にも似た気持ち」を引き出さなければならない。
そうじゃなければ、平良が喜んで清居の「理想のスレイブ」になる理由が立たない。

この無理難題をやってのけたのが、「美しい彼」清居奏役の八木勇征(FANTASTICS from EXILE TRIBE)。なんと本業は歌手で、本作が役者としてはほぼ初デビュー作品らしい(※4)。

桜の花びらを背景に舞い散らせ、遅れて教室に入ってくる清居は、平良と視聴者の視線を釘付けにした。
花を背負って登場なんて昭和の少女漫画みたいだが、とても透明感があって、肩に落ちた花びらを清居が手にとって飛ばすシーンなんて、本当にベタな演出なんだけど、ベタがベタとして成立していてとてつもない納得感

一方でちょっと不機嫌そうな、神経質そうな眼差しは、簡単には触れてはいけない気高さを感じさせる。

平良とともに清居に心を奪われた視聴者は、ここからしばらくは平良の目を通して、平良の気持ちにシンクロしながらドラマを視聴していくことになる。

ギャップ萌えを生み出すミスリーディング

平良は清居にパシられるが、あまり辛さを感じさせないのは、平良が清居(とそのグループ)以外からはパシられないことも理由として挙げられる。
というか、クラスの他のグループから掃除を押し付けられそうになるのだが、そこを「救った」のが清居である。

平良はそのことが嬉しくてルンルンで清居に頼まれたドリンクを買いに走り、清居が返さなくて良いといったお釣りを大事そうにフラスコに貯め始める。

BLでは「攻め」「受け」という概念があるが、主人公の危機を救ったのは「受け」の清居で、ハッキリとした上下関係も相まって、うまくミスリーディングを誘っている。
後回しにされるのが嫌だったから気まぐれで清居は自分を救った、と平良は思っていて、平良の目から見る清居は常に尊大で気高く美しい。
このクールなキング清居が、どう平良に恋に落ちて「受け」に転じていくのかが、美しい彼全体としての注目萌えポイントである。

1話のラストシーンでは、「攻め」の平良の自慰行為が描かれている。
じっとりとした目で清居の写真を見つめ、ゴクリと喉仏を鳴らしてコトに及ぶ平良(※5)。
平良の清居への想いが「友情」から派生する単なる「あこがれ」ではなく、「相手に欲情するタイプの好き」であることがここでハッキリと示されて1話は終わる。

さあ、ここまで見たら、もう見るのを止めることはできないだろう。
平良と同化し、清居に心を奪われた視聴者は、2話への再生ボタンを押さざるを得ない。
次回はもっともっとエモーショナルな展開が待っている…!!

(続く?)

※1現在、Netflixでの配信は終了。Huluはシーズン1から2までを一気見できるのでお勧め(2023年3月31日現在)。シーズン1はBlu-ray/DVDも絶賛発売中。Blu-ray Boxでは、今回紹介した第1話のビジュアルコメンタリーも特典でついてくる。

※2「消えた初恋」こちらも素晴らしい青春BLドラマなのでぜひ見られたし

※3トップコート所属の注目若手俳優。子役の時代まで含めると芸歴は長く、演技力は確か。オタクとしては平良役を引き受けてくれて本当にありがとうという気持ち。    

※4新人ながらエモーショナルな「動」の演技が天才的で目を引く

※5といってもこのドラマのラブシーンは基本的にかなり軽め。詳細なラブシーンを見たい方は原作へGO      


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