⑩ 体の全体性を取り戻す
この記事は武蔵武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース『クリエイティブリーダシップ特論』の講義内容と私自身の心得や気づきについてまとめてみました。
ゲスト講師|稲葉 俊郎 1979年熊本生まれ。医師、医学博士
1997年熊本県立熊本高校卒業。
2004年東京大学医学部医学科卒業。
2014年東京大学医学系研究科内科学大学院博士課程卒業(医学博士)。2014年-2020年3月 東京大学医学部付属病院循環器内科助教
2020年4月 軽井沢病院 総合診療科医長、信州大学社会基盤研究所特任准教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員、東北芸術工科大学客員教授(山形ビエンナーレ2020 芸術監督)
2021年1月 軽井沢病院 副院長
東大病院時代には心臓を内科的に治療するカテーテル治療や先天性心疾患を専門とし、往診による在宅医療も週に一度行いながら、夏には山岳医療にも従事。医療の多様性と調和への土壌づくりのため、西洋医学だけではなく伝統医療、補完代替医療、民間医療も広く修める。国宝『医心方』(平安時代に編集された日本最古の医学書)の勉強会も主宰。未来の医療と社会の創発のため、伝統芸能、芸術、民俗学、農業・・など、あらゆる分野との接点を探る対話を積極的に行っている。 2020年4月から軽井沢へと拠点を移し、軽井沢病院(総合診療科医長)に勤務しながら、信州大学社会基盤研究所特任准教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼任。東北芸術工科大学客員教授(山形ビエンナーレ2020 芸術監督 就任)を併任。
医師でありながら芸術活動も続けている稲葉さんは異色の経歴を持っていて、今までの講義内容と少し異なる「生きることは?いのちとは?」人生の本質的な問いについてとても貴重なお話を聞かせてもらいました。
稲葉さんは熊本の本妙寺の近くで生まれました。子供の時は病弱で、同じ病室の子が死んでいったことを見て、なぜ自分だけ生き残ったのか?なぜ人間は生きているか?なぜ勉強するのか?なぜ結婚をするのか?色々なことに疑問を持って、現実逃避もした稲葉さんは、東大に見学しに行く時にまるでデジャヴを感じたように東大に入らなければいけないと決意しました。
「人の命を助けたい」という強い思いで東大の医学部に入りました。ミクロの世界に憧れ、心臓のスペシャリストになりましたが、「自分は本当にこれをやりたかったのか」とモヤモヤし初め違和感を感じました。この違和感をきっかけに、稲葉さんがやりたいのは病気学ではなく健康学ということを気づきました。
一般的に思われる健康というのは、病気がなく、もしくは医者に完治してもらう客観的に判断できる状態ですが、しかしWHOは健康を以下のように定義しています。
「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)」
稲葉さんも肉体的健康だけではなく、真の健康は何なのかを考え続けています。特に印象に残ったお話として、自分が病気を患う時人々がよく家族や友達に迷惑をかけないように行動しようとしますが、この考え方自体が不健全な社会を表していると稲葉さんが指摘ました。
「生きるということ」 とは
生きることは「人生の全体性を取り戻していく」ということ。人間は生きて死ぬというサイクルからは逃れられないと。そして、死というものは他者のものであり、自分の死というのは難しいですが、それを考え続けることは自分の人生がになりますと。個人的話ですが、中学時代に同級生の死から衝撃を受け、生と死はなんなのか?自分が死んだ後はどうなるのか?色々考え始めモヤモヤしたこともありましたが、今回稲葉さんのお話で新しい視点を得られるのは、私にとっては非常に貴重でありがたい経験でした。
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