戻れない現実、変わらない現実

私はBUMP OF CHICKENが大好きだ。
2019年11月4日、私は東京ドームにいた。
1年後の2020年11月4日、その日の公演が収録された映像作品が発売された。
初回限定盤のパッケージはまるでaurora arkのお土産のような、贈り物のような小包だった。あまりの愛おしさにしばらく抱きしめてしまった。

小包の中に大切に大切に包まれたディスクには、戻れない現実ばかりが記録されていた。
コロナウイルスの影響で、今やライブは無観客生配信がほとんど。お客が入れたとしても従来通りの定員は入れられないし、歓声も上げられない。歌うなんてまず出来ないだろう。満員の東京ドームで、お客ひとりひとりの腕に着いたPIXMOBの光で会場内が幻想的な空間となり、バンドとお客で歌う。もしかしたら二度と見せてあげられない景色かもしれない。もしかしたら二度と手に入れられない時間かもしれない。今では味わえない本当に“魔法のような夜”になってしまった。だからこそあまりにも愛おしくて、儚くて、まぶしくて、恋しく映る。

この1年間に起きたバンドメンバーの変化も大きかった。もう二度と、ステージ上で純粋に音楽を楽しみ、笑い合い、称え合う、そんな4人を観られなくなってしまうかもしれない。ちゃまのMCも聴けなくなってしまうかもしれない。彼らに対する気持ちが変化してしまった人がこの会場内にいるかもしれない。「今日この会場でこのメンバーで集まれるのは今日限り」彼らが毎回話し、当たり前のように思い、大切にしていたことも、急に生々しく感じる。

けれど、変わらない現実もたくさんあった。

ディスクに記録されていた映像は、私が1年前にもらった、あまりにも大切でかけがえない記憶と全く同じだった。その場にいたからそれは当たり前のことだけど、その記憶は全く色あせることがなく、私の中に残っていた。自分の記憶と答え合わせをするようなこの気持ちも、またかけがえない感覚だった。
aurora arkというツアーがとても素晴らしいツアーで、たくさん笑ってたくさん泣いて特別な時間を過ごして、今日の自分が生きるための力となっている現実は1年前からずっと変わらなかった。

“俺のバンドかっこいいだろ?”アンコールでメンバーを呼び、即興で「スノースマイル」を歌い始めた藤原基央は曲中にそう投げかけた。超かっこよかった。ずっとずっと前から、中学1年生の頃に出会った時からずっと、私にとってBUMP OF CHICKENはかっこいい。そしてそれは、東京ドームで藤原さんに投げかけられた、あの日から1年経った今もずっと変わらない。私にとってBUMP OF CHICKENはこれからもずっと超かっこいい。

コロナ禍で世の中は一変してしまい、先の見えない不安ばかりで溢れた。コロナがなくても毎日生きることへの不安や辛さが絶えないのに、勘弁してほしい。そんな時にも私のそばにいてくれたのは、BUMP OF CHICKENの楽曲だった。残業で遅くまで仕事した帰り道、「ジャングルジム」を聴いて思わず泣いてしまったこともあった。眠れない夜に「メロディーフラッグ」を聴いて泣き疲れて寝た。逃げ込んだ毛布の内側で「流れ星の正体」を聴いて、輝く流れ星の存在に救われてきた。毎朝「新世界」を聴かないと出勤出来ない日が続いた。今は「アカシア」ばかり聴いている。いつもそばにいてくれた。何度助けられただろう。
9月はいろんなことを考えた。私は4人個人個人のプライベートには執着はないし当人たちが幸せであれば何だっていい。とやかく言えるほどの人間でもない。けれど、私は自分が思っているよりもずっと4人のBUMP OF CHICKENに執着がある。正直、3人でステージに立たれたら、ちゃんと観れるかわからない。
彼が活動休止の選択をして、3人のBUMP OF CHICKENでいることは、彼の戻る場所があることは、すごく嬉しい。BUMP OF CHICKENが存在し続けてくれていることがすごく嬉しいし、安心したし、今だって応援している。だけど同じくらい、恐怖がある。彼らのプライベートな話を聞いた当初にはそれほど感じなかったダメージが、時間が経つにつれて私の目の前を暗くしていった。
それでもBUMP OF CHICKENの曲は、私の側にいてくれた。何度聴いても感動する。何度聴いても心に響く。言葉では言い表せない、絶対的な信頼が彼らの曲にはある。もし裏切られてもそれがわからないくらい、私はBUMP OF CHICKENの曲に惚れ込んでいて、何度も救われてきた。それは例え、未知のウイルスが世の中を一変してしまっても、メンバーの知らなくていいことを知らされても、何ら変わりはなかった。
暗闇の中で手を差し伸べてくれたのは、やっぱりBUMP OF CHICKENだった。

私はBUMP OF CHICKENが大好きだ。愛してる。それは一生変わらないだろう。変化ばかりの不安定な2020年は、私のこの気持ちをまた確信へと近付けた。

例えコロナがなかったとしても世の中は変わり続けていくもので、時に変わらないことは停滞とも取られてしまうかもしれない。だけどこの変わらない現実は、間違いなく私の心を強くしてくれる。

戻れない現実ばかりでも、変わらない現実もたくさんある。aurora arkはそう気付かせてくれる映像作品だった。笑い合ったあの日はずっと、今日という未来まで守ってくれている。

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