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瞬間、君に晴れ。


 その日は、えらく綺麗に星が映る日だった。君から突然かかってきた電話で、少しだけ会話が弾んでいた。君に誘われる様にカーテンを少し開けた時、一筋の流れ星が光っては消えた。「ちゃんと唱えれた?」なんて少しだけ笑いながら君が言うから、「まぁね、そのくらい余裕だよ」と少しだけ強がった。時刻は午前一時三十二分。ふわあと欠伸をひとつこぼした君は少しだけ恥ずかしそうに笑った。


「あ、起きた。」
 聞き覚えしかない声が微かに囁いた。夢現から戻るとその正体が一晩中繋がったままの電話だとすぐに気がついた。途端に僕の顔がみるみるうちに熱くなって「おはよう」と充電器を引っこ抜いたスマートフォンに向かって、まだかさついた声で返事をした。

「ごめんね、昨日付き合わせちゃって。」
「ううん。声聞けて嬉しかったし。」
「……私も。」

 少し照れくさそうにしていて欲しいと思った。本当はただの社交辞令なのだろうが、たった一秒にも満たないその間に何度も何度も頭の中を、君の言った「私も」が駆け巡った。。額に付けた手の甲すら熱いことで今度は顔だけじゃなく身体さえ火照り始めていることに口角が緩んだ。

「ねぇもう今日、さぼっちゃおうよ。」
 その言葉でようやくスマートフォンに表示された時刻を確認した。午前九時四十七分、密かに楽しみにしていた一限の写真論はとうの前に始まっていた。
「こんなに寝てると思わなかった。」
「起こしちゃうのも悪いかなって。」
「麗奈ちゃんこそ、いつ起きたん。」
「んふ、秘密。」

 画面を見つめながら口角をつり上げ、早まった呼吸音を悟られぬ様にと必死に息を押し殺した。間の悪い母の襲来に怯えることもない、一人暮らしの特権をフルに活用して、ただ純粋にその瞬間に浸っていた。

「はるくん、今日暇?」
「うん、お陰様で。授業無くなったしね。」
「うわあ、さぼりだ。」
「誘った張本人が言う?」
「れなはいいのぉ。
 ねぇ、さぼった記念にどこか遊びに行きたい。」
「あーいいやん、行っておいでよ。」
「もう。そこは、一緒に行こうか?
 くらい言ってくれてもいいのにねぇ。」

 きっと唇を尖らせて言ったであろう君を想像して、また口角が上がる。昨晩から力が入りっぱなしの口角が嬉しい悲鳴をあげていた。

「仕方ない。
 暇で寂しそうなはるくんと遊んであげようっと。」

 わざとらしい溜め息をひとつついたあと、衣擦れの音が響いた。君が伸びをした唸る声が微かに聞こえる。ふふっと漏れた笑い声に気がついた君は、少しだけ照れくさそうに、早口で場所と時間を告げて電話を切ってしまった。
 ほんの数秒前まで響き渡っていたジリジリという電子音と君の声が、途端に失われた部屋はどこか急激に広く感じてしまう。カーテンを勢いよく開けると青々とした空が目の奥をジンとさせた。瞑った瞼に白黒がチカチカとスパークした。陽光に包まれながら伸びをすれば、君のことが頭をよぎった。またふふっと表情筋が作用した時、メッセージアプリの通知音が鳴った。

- 今日楽しみにしてるね! -

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