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へんけん!!ご!ご


世の中には "酷な" ことで溢れかえっている。

"無意識が意識に変わった瞬間" は、
その内のひとつだろう。


西:まいやん先輩、まっちゅん先輩。

神妙な面持ちで私とまいやんの前に立つ七瀬ちゃん。
部室ではなく態々教室までやってきたということは、
何かしらの重大発表を持ってきたのだろう。

松:どないしたーん。
西:あの…今更って言うか、アレなんですけど…
白:うんうん。

口篭りながら伏し目がちになる。
その姿を見ると、
直感的に私の身体の奥底にある
言い表し難い何かが熱を帯びた。

西:私…〇〇に告白します。

口は閉じたまま、目はこれでもかと開いている。
今の私は全世界中で1番ブサイクだろうと思ったら、
真横にも同じ顔をした女神が居たから
とりあえず一安心かな。

松:へ、へぇ。
  なぁちゃんならきっといけるんちゃうかな!
白:そそそう!なぁちゃんなら〇〇君もイチコロだね!
西:ホンマですか!よかったぁ、先輩らに相談してぇ…

頬を緩めながら安心する七瀬ちゃんに対して、
私の内側はじわじわと針山に落ちていくようだった。

嬉しそうに教室を去った七瀬ちゃんが残したものは、
教室に漂うドンヨリとした空気と、
私とまいやんの微妙に空いた物理的な距離、
そして私の中の開けてはいけない扉の鍵だった。

白:ねぇ、まっちゅん。大丈夫…?

やめて。そんな潤んだ瞳で見つめないで。
その伸ばした手が私に触れたら、
きっと気付きたく無かった事に気付いてしまうから。
七瀬ちゃんの置いていった鍵で
重い扉を開いてしまうから…

松:んん?何が?いけんでー!
白:そっか。今日、部活休んでもいいよ。
松:… 。
  まいやんは何でもお見通しやなぁ。
白:伊達に親友やってないから。私、先行ってるね。

多くを語らずに出ていくまいやん。
その後ろ姿を見届けながら、一滴の雫が頬を伝った。

「ここに居るよりは気、楽なるかな。」

灰色と群青が混ざった様な空気の中に
数十分程浸ってみても、気持ちが晴れることは無い。
寧ろ、一切光のない世界に
堕ちていく気分にさえなってしまったので、
振り切るように教室を出た。

「嫌よ嫌よも好きのうち、かぁ。」

無意識に部室へと向かう途中、
タイミング悪く彼に出会ってしまう。

「なぁにが好きなん?〇〇ちゃんっ。」

いつも通り。いつも通り。
口角の角度、目の閉じ具合、醸し出すオーラまで。
少しだけ上擦った声はきっとバレてないでしょ?

〇:なんでもないです。
  それより珍しいですね、
  いつも俺が部室行く頃にはみんな揃ってるのに。

突然の事に身体をビクつかせる彼に
思わず笑みが零れてしまう。
ただ、無神経で純粋な疑問が
グサリと音を立てて身体中に刺さった。

松:レディーには色々あるんよぉ〜

悟られないようスグに目を逸らし彼の前に出た。
出来ることなら今はこれ以上一緒に居たくない。
自然と部室へと進む足が早くなった。

西:あれ、まっちゅん先輩遅かったですね。

本日二度目の純粋な凶器がぶっ刺さる。

んふふ。と話題を無理矢理に流し、
まいやんの対面へと腰掛けた。

白:大丈夫なの?
松:一人で居るよりマシやから。
白:無理もないね。
松:ま、今は切り替えよっと。
白:そーだ、彼処に新しいお店出来たらしいよ…!

ほんと最高の親友を持ったと自覚する。
この瞬間ばかりはどんな薬が出来上がった時よりも喜びに溢れた。

「お疲れ様でーす。」

白:〇〇君やっほー!
松:遅かったなぁ〜
〇:松村さんもそんなに変わらないでしょ。
松:まちゅはとっくにお茶してるもーん。

いつも通り、おふざけしながら笑い合う。
自然と心の曇り空が晴れていく気がする。

白:なになに〜、〇〇君まちゅのこと見すぎじゃない?
松:そんなに見られたら…まちゅ、ドキドキしてまう…
〇:はいはい、
  俺で良かったらいくらでも
  ドキドキさせてあげますよー。
白:あーあー、〇〇君がスレてきちゃった〜

楽しい空気に身を任せ、考え無しに発言してしまった。
彼の背後に俯き小さく肩を震わせた
七瀬ちゃんを見た時、
一瞬前の自分に後悔が押し寄せる。

〇:てか、七瀬は?
西:ずっと後ろに居るねんけど。

暗く重い声が鋭く彼に突き刺さった。

西:なんだか今日は体調悪いんで先帰りますね。

七瀬ちゃんはそう言うと
既に手にしたカバンをわざと〇〇ちゃんに
ぶつけながら振り向き出て行ってしまった。

白:お大事に〜
〇:軽いですね。
白:そういう日もあるのよ。
松:わーわー、なんか今日は気分乗らんわ〜
白:そうねー。
  明日はお休みだし今日は早めに終わりますかぁ。
〇:早めにって、来たばっかりなんですけど。
松:まぁまぁ、帰ってゆっくり出来るならええやん〜

あんなに素直に感情を吐ける七瀬ちゃんが羨ましい。
目の前のどちゃくそ鈍感野郎を
1発ぶん殴ってやろうか。
なんて思う方が余計に悲しくなった。

白:あ、気の利く優しい男の子が居たら
  なぁちゃんにお見舞い行ったりするんだろなぁ。

そう言えばこの女神、時々悪魔なの忘れてた。
横目で彼女を見つめると
悪巧みしたにやけ顔で〇〇ちゃんを弄っている。

〇:言われなくても行きますよ。
白:おぉ〜かっこいい〜
松:惚れるわぁ〜

違う。そんなこと言いたい訳じゃない。
くそ。
くそくそ。
だけど、私よりも
七瀬ちゃんの方が何枚も上手だから。そう。

松:ちょっと待ちーや!

ムキになって出ていこうとする〇〇ちゃんを引き止め、
カバンから1つ封筒を取り出す。
本当は私が行きたかったけど、まぁ、仕方ないか。

松:明日までやから使ったってや!
〇:あの、これ。
松:ええからええから!はよ行ったり!

出来るだけ全力の笑顔で彼を見送れば、
ばたん。と勢いよく扉を閉めた。


「良かったんだ?それで。」

「ええの。これで、ええの。」

「ま、ぱーっとケーキでも食べに行きますか!」

「勿論奢ってくれるんやんな!ほら行くで!」

「あっ、ちょっと!」

次の瞬間、私は笑顔で廊下を走っていた。
後ろには美の女神様を連れて。


「はぁ、ホンマに行くんやなぁ。」

翌日の朝。
たまたま、本当偶然に、
偶然なんかじゃないけど。
中庭で笑顔の2人を窓から眺めた。

これで良かったと何度も言い聞かせ、
再び眠りに落ちようとした時だった。

「まっちゅん!早く準備して!」

女神が扉を蹴破って叫んだ。

白:ほらこれ!
松:それ、って。
白:あんな楽しそうなイベント見過ごす訳ないでしょ!
松:ホンマ悪い人やなぁ!
白:早く行くよ!
松:でもどーしたん、それ。
白:みゆみゆ揺すった。
松:流石やわ。

本当、この部活は最高だ…!

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