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現場と制作が溶けていく関係性へ。ダンサー・鈴木陽平は、なぜデジタルハリウッド大学で「踊る」講義をやるのか。

デジタルハリウッド大学は「デジタルクリエイティブの大学」として社会的に認知されています。その中でも「デジタルではない」講義もたくさんあります。

今回は、その中でも特にアナログな教養科目である「身体表現」をご紹介。なぜ、デジタルハリウッドで「踊る」授業があるのか。そして、数々の経歴を持つダンサーの鈴木氏はなぜデジタルハリウッドで教える道を選び、学生たちに何を学んでもらおうと考えているのか。その裏側に迫ります。

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鈴木 陽平(すずき ようへい)
デジタルハリウッド大学非常勤講師・ダンサー。大学では「身体表現」を担当。SKY-HI・MAN WITH A MISSION・シシドカフカ・黒夢・阿部真央・BUMP OF CHICKEN・安室奈美恵など、多くの著名アーティストのMVにダンサーとして出演するなどの経歴を持つ。シルク・ドゥ・ソレイユ登録アーティスト。金子ノブアキ「オルカ」ではオルカを躍る。犬が好き。

ダンサーから大学講師へ。「なぜか分からないけど、ここが自分の戦場だ」と思った

——早速ですが、SKY-HI、阿部真央、安室奈美恵、シルク・ドゥ・ソレイユとキャッチーな経歴に目を惹かれています。そんな鈴木先生がDHUで講師をはじめるきっかけは何だったのでしょう?

DHUで社会哲学の授業を担当されている渡辺パコ教授との出会いですね。

僕、ダンサーとしてスタジオでダンスを教える仕事をやってたんですけど、そこの生徒がたまたまパコ教授の娘さんだったんです。それで、パコ教授と面識ができて、デジタルハリウッド大学という存在も知って。

その後、今の「身体表現」にあたる、アナログな人間の表現を学ぶ授業を開設したいという話が耳に入り、採用面談に伺ったという流れです。

——もともとは、現場で踊るダンサーだったわけじゃないですか。ダンサーとしての活動をしながら、大学で講師をすることに迷いみたいなものはなかったのでしょうか。

それが、なかったんです。初めてキャンパスに来て、話をさせてもらったときになぜか分からないけど「ここが自分の戦場だ」みたいな気持ちにすらなりました。まだ採用もされていないくせに(笑)。おっしゃるとおり、踊るのが仕事のダンサーだったわけですが。学校の雰囲気も、建物の感じも、全部好きで。

——実際に講師として採用されて、講義を持つことになってみてどうですか?

採用されてよかったな、と思うと同時に、自分を採用するなんて冒険するな〜とも思いました。「大学で鈴木陽平が講師になって、大丈夫?」みたいな。多分、講師として活動するダンサー像って世の中には存在するんですけど、自分自身どう考えも大学で教える系のダンスの先生じゃないと思うんですよ(笑) でも、実際オーディションも経て選んでもらって。今は4年くらいやってますね。

クリエイターと表現者がリスペクトを持って溶け合う関係性

——普段はどんな感じで授業を行っているのでしょう?

オフラインのころは、みんなで駿河台ホールに集まってみんなで踊っていました。オンラインになってからは、僕がZoomで配信して、みんなは各自自宅とかでやる感じです。

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——授業風景を見学していましたが、かなり踊る授業なんだなという印象です。授業の内容は、踊ることがメイン?

それだけじゃないですね。オンラインになって改めてやれること考えたらいろいろ可能性も見えてきて。各自が各自の環境で何かをやる、という取り組みもあって。

学生は、デジタルクリエイティブをやる方が多いですよね。映像だったり。たとえば撮影において「被写体側」を理解することでより表現の幅が広がると思っていて。ついこの間、オンライン授業の課題のひとつで「自分のアーティスト写真を撮影する」っていう課題を出しました。

——自分のアーティスト写真の撮影、楽しそうですね。どのような思いでその課題を出されたんでしょう?

「被写体側の理解」を通した総合的な制作の体験ができるかな、と思って出しました。この課題においての学生は「ディレクター・制作・被写体」のすべての役割をひとりで担っていることになります。

そのときは「夢を叶えた自分のアーティスト写真」というテーマだけ決めて、あとは各自が思い思いに取り組んでいました。

——楽しそうですね。授業を見学させてもらって、みんな楽しそうにやっているなと感じました。こういう表現活動って心のハードル高いと思うんですけど、そんなこともなさそうで。

みんな、全然「流してない」んですよね。適当じゃない。一生懸命やってる。すごくキラキラしているものを感じます。

——学生との関わり方には比較的フランクさも感じました。

ただ何か指導し続けるだけというよりは、雑談したり、語り合ったりするときもありますね。何してるときが楽しい?何食ってるときが嬉しい?みたいな、本当に雑談です。で、盛り上がってきちゃって僕が延々語り出して、先生そろそろ授業戻りましょうよ、っていう流れもよくある。

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——(笑)。現場でやってきた鈴木先生からみて、ダンス経験のほとんどない学生たちと関わっていくことに何か感じることはあるんですか?

当然、皆さんプロを目指すダンサーではないですし、技術的にもビギナーなんですが、みんなキラキラしているなと思います。僕はこれまでプロを目指す舞踊学生とは接してきましたが、彼らにはできなくなった初心のリアルな表現をDHUの学生はやってくる。素敵です。

——そんな「踊りのプロを目指す存在ではない」からこそ、この授業を通してどういうことを学んでほしいとかいうものもありますか?

制作の現場だと、カメラマンやディレクターと関わっていくわけですが、座組によってはダンスのことも、キャストがどういう人であるかも、何も知らない人がいることがあります。そういった関係性でも、やっぱり各々与えられた役割で仕事をしていくわけで。何もわからないけれど、自分のやり方でいろいろ注文や指示を受けたり、といったこともしばしばあります。

でも、我々はもうずっと踊ってきているので、任せてもらって大丈夫なんだけどな、と思いながら試行錯誤する瞬間もあるわけです。そういう現場に立ったときに、僕の講義の中での「演じる側」の経験を思い出し、作り手と演者の間にリスペクトが生まれて、よりよいものを作ってもらえたら嬉しいです。

——リスペクトと言えば、授業をサポートする大学事務局スタッフさんとの関わり方にもリスペクトを感じました。

前任の方も含めて、スタッフの方々に「ここまでやってくれるのか!?」というレベルでのプロの仕事をしてもらっていたんです。配信準備、カメラワーク、細やかな気遣いまで学ばせてもらったので、僕自身もリスペクトを持って関わっていきたいなと思って。

——私自身この取材で撮影させていただくとき、邪魔になるだろうと思って隅っこから撮ってたんですけど、もっとこっちで撮って大丈夫ですよ!と声をかけていただいて安心したんです。私がどのように撮影したいかを理解してくれてるんだなと。

取材してくれる方にもそうだし、もちろん学生にもそうですね。安全な場作りというか、そういうのは気にします。居心地の悪い講義だと、表現は上手くできなくなっていきますから。

「表現」と「制作」とのコラボレーションで、より深い学びへ

——鈴木先生自身は、これからどんなことがしたい、というのはあるんですか?

改めて、この授業を経て、実際に制作に落とし込んでみるのが面白そうだなと思っています。ほかの専門分野の先生とコラボレーション授業とかやれたら面白そうですよね!せっかくいろんな人がいる大学ですから。

たとえば、撮影にあたって「どういう指示をしたら、理想のポーズで撮れるんだろう」とか試行錯誤するのも、すごく現場で活かせる学びだろうと思います。

——それを聞いて、まさにデジタルハリウッドで専門分野以外を学ぶことの意味だなと感じました。結局は各々の専門領域に融合していくというか。

学生たちはクリエイターであって舞踊学生ではないんだから、ダンスができるようになる必要は無いですしね。そういう意味でも、じゃあ私みたいなダンサーがわざわざ大学で教えるにあたりできることってなんだろうって考えてる瞬間はすごく面白いですよ。

——とはいえ、今まで接してきた人たちとまるっと属性が異なるわけじゃないですか。最初は違和感もあったのではないですか?

最初はね、身体表現のレッスンとしてかくあるべき、みたいなものを考えていた時期もあって、YouTubeとかでいろいろな指導動画を見てたんです。でも、やっぱりこうじゃないなって(笑)

クリエイティブに向き合う彼らにとって、もっと活かせるものがいいなあと。たとえば、悲しい感情をクリエイティブに落とし込むときってどうやったらいいんだろうとか。そういうのを学生自身が「表現者側」の立場で味わっておくことで、作り手の自分に戻ったときに活かせる。

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——クリエイターとして、感情の表現ができるようになることを期待している?

そうそう。ちょっと話変わるんですけど、僕、本読むのが好きなんです。エッセイスト・コラムニストの文章を読んでたりもよくするんです。彼らの作った文章でもなんでも、感じ取って、それを表現するために踊るっていうことはできる。文章を読んで、感情が湧き出て、こういう風に表現できそう、踊れそう、と思うことも多々あります。そういう感覚を知ってもらえて、将来的にクリエイターとしての幅が広がったらいいなと。

——かなり「クリエイターである学生自身」の可能性に注目されているんだな、と感じています。身体表現の講義は、どういう学生に受けに来てほしいなと思いますか?

無意識的に「心を開きたい」みたいな感情がある人が履修してくれるとすごく嬉しいですね。心を開く、っていう体験をしてほしい。その手前まではもっていく手伝いをします。そこでどうするかは決めてもらったらいいかな。そういう人の手伝いができたら先生冥利につきますね。

——改めて、なぜデジタルクリエイティブを学ぶ学校で身体表現なのか、ということが分かるお話でした。ありがとうございました!

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