
プルーストをおすすめしたい人:もっと他愛ないハナシ(その1)
自分がそれを好きだからという理由で、その好きなものを「万人に(たくさんの人に)すすめる」というようなことは、僕はあまりしたいと思わないんです。その理由をいつも「僕は趣味が悪いから」なんて言うんですが、もっとちゃんと説明しようと思ったら、多分ものすごく長い話になると思います。そういう話はそういう話としていずれするとして……。
今日は、自分が好きなプルーストを、「こういう人限定ですすめたい」ということを書いてみようと思います。「こういう人」というタイプを三つ挙げます。
以下の3タイプです。
(1)エンタメ小説に違和感を感じている人
(2)自分でも何か書きたいなと思っている人
(3)二十世紀文学の特徴を理解したい人
それでは、以下でそれぞれの説明をします。
ちなみにプルーストというのは、20世紀のフランスの小説家で、フルネームはマルセル・プルーストです。『失われた時を求めて』という、世界文学史の中でも飛び抜けて長い小説を書いた人です。
(1)エンタメ小説に違和感を感じている人
エンターテインメント小説は多くの場合(すべてというわけじゃないけど)、分かりやすく面白い話を作るために、小説内で起きる出来事をついつい派手にしてしまっているように思われます。
例えば、病気を取り上げるなら、風邪ひいたっていう話より、余命一年の病気にかかっちゃった、みたいな話が語られがちだったり。死を取り上げるなら、もういつ死んでも仕方なかったうちのお爺ちゃんが死んじゃったという話をするより、若くして自ら命を絶ってしまった人を登場させちゃったりしがちだったり。
お話としての面白さっていうのを追求しちゃうと、こういうことが、あらゆるテーマというのかトピックというのかにおいて、採用されがちかなって、思うんです。派手な話の方へと。
プルーストはこの反対のことをやります。派手な話をこしらえなくても小説は書けるということを、証明してくれます。
(2)自分でも何か書きたいなと思っている人
何か書きたい人で、すでにもう書けている人は、このタイプに入れてません。書きたいんだけど、自分が書けるくらいのことに、どんな価値があるっていうんだろう? みたいな逡巡のために書けないでいるような人に、プルーストをおすすめしたいです。
(1)で言ったように、プルーストは派手な話を書くという方向に行かなかったわけです。それじゃあ、プルーストは何を書いたの? という話です。プルーストは、自分が関心を持っているあらゆることを書こうとしたように見えます。だからあんな長い小説になったんだと思うんです。
「どんなことについても書くことができる」ということを、プルーストは示してくれました。だから、「何か書きたいけど、何についてどう書いたらいいか分からない」と思っている人は、プルーストから学べることが、きっとあると思うんです。きっと。
(3)二十世紀文学の特徴を理解したい人
『失われた時を求めて』という小説は、読もうとしてみたけど読めなかったとなることが特に多い小説のように思います。それってなんでだろう? って考えるとですね。十九世紀文学の小説の書き方と、かなり違っているからかなと思うんです。
つまり、スタンダールとかバルザックとかユゴーとかフロベールとかを読むのと違って(これらの作家も当然それぞれぜんぜん違うんですけど)、プルーストの小説は、ちょっとクセが強すぎるのかな、と。
しかし、まさにそのクセのゆえに、プルーストの小説はその後の二十世紀の小説家たちに大きな影響を与えたんだと思います。
つまり、プルーストのクセを理解したり、慣れたりすることで、プルースト以降の小説家の書きぶりについても、どうしてそういう書き方になったのかなというのが、分かりよくなる気がします。
そんな気がするな、という僕の主観の話ですけど。でも、そんな気がする。みなさんもぜひ確認してください。
以上、プルーストをおすすめしたい人3タイプでした。
どれかに、あるいは全部、当てはまるなーという人は、ぜひプルースト読んでみてください。
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