美容師さんと私の仕事

美容室を変えてみた。息子を妊娠するまでは自由ヶ丘まで遠征していた。息子が19歳だから、約20年地元で同じ人に任せていたことになる。自由ヶ丘も渋谷でお願いしていた方が独立したのに着いて行った。人生においてお任せした美容師さんは片手ぐらい。

それはそれは勇気のいる決断ではあった。でも決心したのは、その美容師さんとお話してみたかったから。

ミヤケランジェロと言われるその方。芸術家っぽい佇まいをされている。既に何人かの知人がカットに行っていて絶賛していたし、何より素敵に仕上がっているのを見て、私も私も!と思ったのだった。わりと単純。

元々、美容室と歯科医院には共通点が多いと感じていた。前のサロンからたくさんのことを学んでいたし、オーナーである美容師さんとも人材教育を含めいろいろなことを話してきた。

その視点からもすごく興味深かったミヤケランジェロこと三宅さん。

サロンには、一度伺ったことがあった。令和元年の初日。ガチャガチャしていない落ち着いたサロンだった。そう感じたひとつ。私が通っていたサロンは手描きPOPでいろんな物品の紹介なんかがされていた。それが悪いわけではないと思うけれど視覚としては、どう考えてもガチャガチャ感が否めない。ケラスターゼも全面推しだったからドーンとディスプレイされていた。悪くないけど、ついつい買ってしまうことになる。悪くないんだけど。

ドキドキしながら扉を開けたシェリーさん。

いつもの三宅さんが、出迎えてくださった。
普通に…いや静かに。

その時にも以前のサロンがガチャガチャしていたんだと気づいた。視覚だけじゃなく音も。

美容師さんに自分の要望を伝えるのって実はめんどくさい。どちらかと言えばお任せしたい派。だから、20年も通ったのだと思う。
でも三宅さんに何か伝える必要がある。

突破口は三宅さんがうまく聞き出してくださった。

それが至ってシンプルで、細かく注文しなくていいのがありがたかった。歯科医院における医療インタビュー。

もちろん学びどころ満載。
瞬時にクセを見抜き、それをカバーすることを考えてくださったのだと思う。

仕事中は結ぶと伝えた。マスクをするかとの質問あり。

それが関係あるのかないのか、たぶんあると思うけど、そんな程度で作業に突入。
いや、三宅さんにしたら作業って言葉は的確じゃないかも。私は、自分の仕事を作業とは言わないから。

そのうちに、三宅さんは私の髪の気になる部分をやんわりとうまく出来るというようなポジティブな表現で伝えてくださった。悪いダメだとは全く言わない。客商売だから当たり前なんてことではない。

前のサロンで若い女性からメイクをしてもらったときに、

欠点は眉毛の位置です。理想的にはこうなんですけど、こうだから修正するために、こうします。

と言われ、け…け…けってん?

と苦笑いしたことがあった。

そんなことを話しつつ共通の話題である落合塾の話もしつつ、私は手さばきを観察していた。

触り方がとにかく丁寧。恐縮するほど。
それは落合さんが作品を触る手と似ているように見えるし、職人とも思える口腔外科医である夫の手とも重なって見えた。

丁寧だけどムダな動きはない。

あー。こうあるべきだと心底思った。学びどころしかない。

そのうちに、三宅さんの作業のない待ちの時間があって、雑誌をスタッフの方が用意してくださることになった。

落合さんがいいですか?

いえ、三宅さんが対談された雑誌をお願いします。

最初から見せていただくつもりだった。

読ませていただき、ますます共通点を発見した。私も手で感じ仕事をしているから。
もちろん視覚でも感じているのだけど、特に今力を入れている口腔周囲筋ケアは指を使い、筋肉の具合、体温、唾液、などさまざまな状態を感じ自分の指を使い、痛みの軽減、機能回復の手助け、そしてオキシトシンの分泌を促し、セルフケアへのモチベーションに繋げる。指がすべてで凶器であってはならない。だから使い方に全神経を集中させる。

そんなことを話していたら、左手が重要だと三宅さんは言われた。そう言えば左利きフェチ。考えたあわことがなかったけれど、確かに三宅さんは左手がすごく繊細なことに気づいた。もしかしたら一般的な美容師さんと違うのは左手なのかもしれない。

なるほど…これまた気付きになった。

そして、さらに唸ったのが余計なことはしない方がいいという点。

これまで、サラサラにするためにケミカルなものをあれこれ使用していて、サロン滞在時間が異常に長かったのだけど。今回は、その半分以下で終了。

minimal intervention(最小限の侵襲)歯科においても大切な考え方である。私も常に強く意識している。口の中はシンプルな方が手入れしやすいし、私たちがガリガリ削り過ぎてダメージを与えるなんて本末転倒。

そういうことなんだと思う。カットでサラサラにする。ドライヤーのかけ方のポイント。
余計なことをしたり、つける必要はない。

あらー。楽ちん!
もちろん、それが有難い。

部屋をシャンプー室に移動した時のこと。水の音が聞こえる。シャワーから出る水の音?
それがすごく心地よくて、うとうとと別世界にいくかいかないかのタイミングで、

お湯加減いかがですか?
(だったかな?正確には覚えていない)

お湯加減なんて全く気にならないぐらい気持ち良かったと思った。

っていうかさー。

流し足りないとこないですか?

とか

お痒いところないですか?

という接客講習で習った言葉がおもてなしじゃないよなー。逆にうるさい場合もあるよなぁと思った。

あまりに静かなので、ここは草原か?と思うぐらいだった。緑があるし、落合さんの写真それも好きな海のヤツ…

あー。ここにも学び。写真集が自宅で眠っている。こういう風に飾れば人を和ませることができるのに。

この静かさを体感したら、今までのサロンはスタッフ教育がよくされていて、いろんな言葉をかけてはいたけど過剰でガチャガチャしていたのかも、そう思った。BGMの音量も。

そしたら、自分の声量も大きいことに気付いた。赤面…

そして職場を振り返った。音への配慮。
香り。そして視覚。

たくさんの学びがあった。静かな佇まいに美学を感じた。兼ねてから、鋭さとボソッとおもしろい絶妙なバランスがあると思ってもいたのだけど。

20年。良いと思ってお願いしてきたサロン。
悪くはないと思うけど、井の中の蛙であった部分もあったかも。

こうして新たな出会いをきっかけに私もまだまだ成長出来たらなぁと思っている。

明日、白衣を着て縛ってマスクをしたらどうなるんだろ? それも、ちょっと楽しみ!

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