クサイ豚骨ラーメンを科学する。part 6.好気性芽胞形成菌の死滅と臭気成分の生成方法


前回、Part 5ではさまざまなテストスープに関して報告をした。
最後に記した高濃度の枯草菌液を添加した豚骨スープの結果

枯草菌や添加のテストスープ

初日は高濃度の好気性芽胞形成菌を検出したが
5日目は300未満。
ほとんどが死滅していた。
にも関わらず発酵には成功している。

一体何故なのか?
調べてみると
好気性芽胞形成菌の死滅条件は
一般的には圧力鍋などを用いて作り出す2気圧の環境下で
121℃まで温度を上げて20分の加熱が必要である
とされている。
しかし、死滅条件はこれだけではなかった。
食品微生物センターの担当によると100℃でも長時間加熱を続ければ上記の条件を満たしてしまう。とのこと。

長時間加熱の話が出てきたので
ここでpart.5でもふれた「ある施し」について説明する。
コレは仕込んでいるテストスープの4日目から5日目にかけて長時間にかけて行う長時間加熱の事であるが
少し複雑なので簡単には記すが飛ばしてもらっても構わない。
具体的には以下の通り。

豚骨ラーメンなどにおける豚由来のスープには
豚肉や骨などから抽出されたタンパク質が豊富に含まれている。
このタンパク質は熱により分解されアミノ酸やペプチド(簡単にはアミノ酸の集合体)生成される。
※健太スープからは素材の肉由来のグルタミン酸が多量に抽出されているが一般的には同じアミノ酸のバリン、ロイシン、イソロイシンなどが生成される。

さらに長時間加熱による酸化的脱炭酸という化学反応により
アミノ酸から二酸化炭素が除かれイソ吉草酸やイソ酪酸とい匂い成分が生成される。それこそがスープに風味に深みを与えてくれる要素となる。

全くもって意味不明だと思うが
要は加熱によるタンパク質や脂質の酸化が博多ラーメン特有の鼻を突く獣臭の生成には必要不可欠なのである。
という話だ。
私も詳しくは良くわからないので勉強中である。

以上の事から
高濃度の好気性芽胞形成菌を添加したテストスープに
5日目には90℃で12時間の加熱を最後の工程として施す。
なんとコレも冒頭で記した死滅条件を満たしてしまうらしい。

新たな発見。というよりも我々が知らなかっただけで
感覚だけでは想像し得なかった情報である。
ただしスープ自体はしっかりと発酵に至る。

ここで、察しの良い方は
ある事が頭をよぎるはず。

私も樹庵氏もこの話を知り「あの店のスープ」が頭をよぎった。
そう、武蔵境の「きら星」である。
きら星のラーメンを食べた事のある方なら容易に想像がつく、あの趣向性の高い獣臭(博多ラーメン特有の鼻を突く匂い)。
あれだけの獣臭を纏いながら検査では好気性芽胞形成菌は陰性という矛盾に満ちた結果。
きら星店主の星野氏もこの結果には驚いていたことから
長時間加熱をによる菌の死滅が該当するのではないか!?
という可能性が急浮上。
材料に頭骨を用いる事から、我々の仮説ではきら星からも枯草菌が検出されて当然であった。
しかし、驚愕の陰性。
長時間の加熱による死滅が該当するならば
コレは少し解消できた用に思えた。
きら星のスープの具体的な調理方法は開示されていないのでこれ以上は星野氏のスタンスを尊重し追求するつもりもないが、仮説から色々と合点のいく話ではある。

研究の序盤で樹庵氏と私が菌が検出されただけで喜び、何パターンもの菌検査を繰り返した後にきら星のスープが陰性となり落胆していた。

その際の星野氏の助言
「菌に囚われすぎだ」
一気に腑に落ちた。

そしてここからが長いテストスープの試作期間の始まりとなる....

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