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クサイ豚骨ラーメンを科学する。part 1

博多ラーメンを作り続けて15年(2022年現在)
とあるラーメン店の店主との出会いから始まった研究について記しておく。

福岡県を中心に発展してきたさまざまな豚骨スープのラーメン。
長浜ラーメンや久留米ラーメンなどさまざまな呼び名があるが、ここでは博多ラーメンという総称を用いる。

博多ラーメンといえば
乳化して白濁したスープにそうめんのように細くストレートな麺。
そして何と言っても店の付近を通るだけで香る強烈な「匂い」
全ての博多ラーメン店から「あの匂い」が出るわけではない。

博多ラーメンのスープには大きく分けて2つの製法がある。

①ひとつは「取り切りタイプ」と呼ばれる製法。
大きな寸胴に材料の骨や背脂、水などを入れ火にかけて長時間炊く。完成したスープを用いてラーメンを作る訳だが取り切りタイプのスープは減ってなくなってしまえば骨も捨て、寸胴は洗い、また新たにスープを炊く。

②もうひとつは「呼び戻し」と呼ばれる製法
簡単に言うと、完成して使用した後の寸胴の中に骨やスープを一定量意図的に残置し、そこへ新たに骨や水などの材料を足してスープを炊く製法である。

強烈な香りを醸す博多ラーメンは後者の製法を用いて作るラーメンに多く見られる。※後に触れるが例外もある


私は紆余曲折あり
現在は東京都新宿区高田馬場で博多ラーメン店の店主をしている。
高田馬場はかつてラーメン激戦区と呼ばれ今でも早稲田エリアも含めるとかなりの数のラーメン店が存在する。
8年前、私が高田馬場に店を出した時でもラーメン店は44店舗存在した。

話は戻り、私が毎日店舗で作る博多ラーメンは呼び戻しの製法をアレンジした臭いタイプの博多ラーメンである。
古いスープを新しくスープと混ぜるという点においては同じだが私の呼び戻しは、寸胴は洗うし骨も残さない。洗って綺麗にした寸胴の中に新たな骨や水などの材料を入れて炊き、ある程度仕上がった段階で古いスープを「種」として加える製法を用いる。
感覚的には90年代半ばに流行った「ヨーグルトきのこ」をイメージするとわかりやすい。
あれは牛乳に種となるヨーグルト(ケフィア)を入れると一晩ほどで牛乳がヨーグルトに変わるというもの。

当店のスープも2日に分けて炊く中で、一日目の工程が終わったスープへ夜の時間になると「種スープ」となる古いスープを、作りかけのスープ10に対し1の割合で加える。
そうする事で翌日になるとスープは発酵し独特な匂いを醸すスープへと変わる。

ただ、それを毎日続けることで発酵タイプの博多ラーメンを維持していた。


そんなある日。(2021年10月3日)
Twitterでこの様なツイートを見かける。

私と同じく高田馬場でラーメン店を営む大先輩、渡辺樹庵氏のツイート。
なにやらクサイ博多ラーメンを作っている。とのこと

私の経験上、種スープを作るか貰うかしないと樹庵氏の言う「あの匂い」は出ないのを知っていたのでTwitterで種スープの提供を提案した。

すると樹庵氏からは
まさかの「丁重なお断り」を頂いてしまった。

どうやら博多ラーメンの特徴的なあの匂いをロジカルに解明したい為に、種スープをもらってしまうと意味がない。という事だった。

この日から私と樹庵さんの
「クサイ豚骨ラーメンを作りたい」という
アカデミックで先の見えない研究がスタートすることになる。

part1はここまで。

実は私を含め世のラーメン店の店主は
あの匂いが出る理由をちゃんと説明できないのであった。
材料も作り方もわかる。作れている。しかしなぜあの匂いが出るのか。長年、判然としていなかった「クサイ」理由をpart2以降記していく。


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