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クサイ豚骨ラーメンを科学する。part 4.きら星と健太のスープ検査と菌の同定。

part 3で解説し当店のスープからも検出された
「好気性芽胞形成菌」

他のお店のスープからも検出されるのか?
という疑問と興味は、私も樹庵氏も言葉を交わさずとも必然と抱いていた。特に打ち合わせをする事もなく私たちは各人、交流のあるお店に依頼を出した。
樹庵氏は「ラーメンきら星」
私は「ラーメン健太」
言わずも知れた極悪スメルの双璧をなす二店舗である。

健太の店主は私と同年齢。
遡ると約20年前、健太氏が杉並区高円寺の早稲田通りにお店を出した頃に、私も高円寺に勤めていた為、友人とお店に伺った事がある。
ラーメンはもちろん美味かったが、それ以上にいい意味でパンチの効いた店主だとも記憶している。
その後、数回お互いのお店を行き来して自然と言葉を交わすようになった。
今では、近くで本場の博多ラーメンを作る数少ない尊敬出来る同志だ。

今回のスープの検査にも健太氏は協力的で
検体提供も快諾。
さらには、少し高価なアミノ酸成分の分析検査にも積極的に取り組んでいた。


健太のスープの検査結果はこちら。

ラーメン健太 仕込みスープ
ラーメン健太営業スープ

以上の結果の通り
好気性芽胞形成菌が陽性。
仕込みスープからは320cfu/g
営業スープからは1,100cfu/gが検出。

想定通り菌が検出され、私と樹庵氏は狙い通りに事が進み得意気だった。


しかし、樹庵氏が依頼した都内一の豚骨臭と言われる
きら星のスープの検査の結果が衝撃的だった。

これは是非ともYouTubeチャンネル
「渡辺樹庵のここだけの話」の
クサイ豚骨を作りたい!part4「衝撃の検査結果」を是非見てほしい。
動画内で結果を知らされる私の素のままの驚きが、この動画に収録されている。

あれには相当に驚いた。

その検査結果がこちら。

きら星スープ結果

なんと都内一を誇る豚骨臭のラーメンスープからは
菌が未検出という衝撃的な結果であった。

きら星の店主、星野氏は
菌は出るだろうと思っていたが陰性という結果には驚いたという。
そして我々の研究について「菌に捕われすぎだ」と言及。
※後に菌が検出されなかった理由についての有力な仮説も説明する。

この「菌に捕われすぎだ」という言葉が暫く頭から離れず
他の方法もあるか?と我々は数日模索し続けた。

ちなみに樹庵氏は納得がいかず後日、別の検査機関にきら星スープを検査に出した結果、微量の好気性芽胞形成菌が摘出された。

きら星スープの別機関の結果


好気性芽胞形成菌の正体が判明する。


part 3で説明した好気性芽胞形成菌
これは一つの菌の名前ではなく「総称」であると記したが
2021年12月末に、私の店の豚骨スープに含まれる
好気性芽胞形成菌の同定を依頼していた結果が届いた。
※この場合の同定とは菌種の特定のこと。

好気性芽胞形成菌の同定結果

好気性芽胞形成菌の同定結果は
バチルス・サブチルス又はバチルス・アミロリクエファシエンスという菌であった。
この二つの菌は類縁菌である事から、ほぼ同じ扱いだという。
バチルス菌、日本では枯草菌と言う。
この枯草菌、実は日本人には馴染みのある菌で納豆菌も枯草菌の株の一つだというのだ。
言われてみれば経験上、何となく博多ラーメンには納豆の臭気成分を感じる事があるのはその為ではないかと思う。

しかしだ、一体何故?どのようにして枯草菌が博多ラーメンのスープに含まれているのか。
材料は豚の頭骨と背脂と水だけ。
枯草菌が付着していそうな根菜類や藁などは使っていない。

少し調べてみると
どうやら多くの養豚場で飼育されている豚様の餌には
発酵飼料というモノが与えられているとの事。
この発酵飼料は食品加工副産物を原料として用いた餌で
具体的には即席麺や菓子類の加工時に出る端材や、おから、魚粉、パンなどに枯草菌を散布し30〜40℃、湿度40%で発酵させた餌だという。
この発酵飼料を豚様に与えている養豚場から出荷され、お店に納品される豚様の頭骨は下顎は無いが、頭骨なので上顎はあり歯牙もそのまま残っている。
※参考飼料で写真を載せたいが、グロテスクなので今は控えさせて頂く。要望が有れば掲載する。

その頭骨の上顎に餌経由で付着し僅かに残存した枯草菌達が博多ラーメン特有の、呼び戻しの製法で増殖しスープが発酵するメカニズムなのでは無いかと納得のいく仮説が立ってしまったのである。

この仮説を裏付けるのが至難の業。
ロジックの解明もここからスタートする。

part 4はここまで。
part 5をお待ち下さい。

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