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家の近くのクレープが食べられなかった

家からあるいてすぐのところにクレープ屋がある。別にオシャレって感じでもない。正直店名は覚えてない。昔からこうなんだろうなって感じのこじんまりとしたクレープ屋だ。でも俺はそんなクレープ大好きだ。でも京都の今の家に越してきてから1年と8カ月、ずっと存在は知っていたがそこのクレープを買うことはなかった。

その日はルームシェアをしてる友人と昼飯を食いに外に出た。あいにく目当ての店は休みだったがそのおかげで新たなおいしい店を発掘することができた。また行こな、と言うフワフワした帰り道にそのクレープ屋はあった。それが見えてきたあたりから、あんまり話に神経を使えてなかった。あとひとつ信号を渡れば通り過ぎてしまう、ギリギリのタイミングでやっと言えた。
「あとさ、あっこにクレープ屋があんねんけど」
友達は間髪入れずに
「俺も全くおんなじこと考えてたわ」
取るに足らないことなのに、何だかとても嬉しかった

あとは何を食べるか選ぶだけだ。2人ともカスタードチョコにした。焼き上がりを待つあいだ、聞いてみた。
「ここ食ったことある?」
「いやないな、あるのは知ってたけど」
きっと俺たちは同じ理由でクレープを食べられないでいた。2人とも甘いものは好きなのに。家の近くのクレープを食べなかったのは、男ひとりでクレープを食べることに対しての何らかの気恥ずかしさを感じていたからだろう。別にそんなのどうでもいいじゃんと思うかもしれないが、たしかにどうでもいいのだ。どうでもいいとわかっていても、食べたい気持ちを無かったことにして歩を速めてしまうのだ。

そんな本当に存在するかもわからない誰かの視線が気になる、という話をしたら同意してくれた。やっぱりそう思うよな。俺だけじゃないよな。ほっとした。ほんの少しだけこれまでの俺も救われた気もした。別に取り立てて話題にあげるほどではない、でも日常のすきまでもやもやするこの気持ちを共有してくれて嬉しかった。クレープを焼く甘い香りがふわっと鼻に抜けた。

皮がパリッとしててクリームたっぷりで美味しかった。歩きながらできたてを食べたからけっこう熱い。包装紙をじりじり破きながら、うまいこと食べてたつもりだったが、終盤は形が崩れてしまい、口の周りがべたべたになった。そしたら友達が
「クレープって最後食べるのむずいよな、最初はきれいに食べてるなと思っててんけど、これ俺だけちゃうよな、やっぱそうやんな」
「そうやねん、モスバーガーもな」

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