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私が唾する人情

今日も天気だけは良い、予期せぬ日常
ここは地方都市の地方にしかないスーパー
様々な人が触れ合い、それぞれの事情を共有している
店長、副店長、部門ごとのリーダー、パート、アルバイト、警備員、清掃員
それ自体は本当に平和な光景
ちょっとした諍いも、愛憎も、分母のでかい平和に呑み込まれる

ところで以前からこのスーパー、どこぞの不審者から頻繁に危険物が贈られてくる
決まって店長宛に
だから店長宛の荷物が来たらそれが誰からの何であろうと必ずその時に周りにいる人間が確認を怠らない、というのが暗黙の決まりだった
店長はもう30年近く一緒に働いている旧知の仲の警備員、近藤さんと相談に乗ってもらいがてら、2人で居酒屋に来ていた
例えゴブリンが紛れ込んでいたってそれは知り合いとしか思えないほどの小さな居酒屋
ひとしきり相談し終えたあと最後に、近藤さんが今月末で退職する覚悟がある事を知った

2ヶ月後、近藤さんはもういない
例の嬉しくない贈り物はぱったりと途絶えていた
近藤さんの同期の警備員、梶原さん
彼もまた店長とは旧知の仲で今日も従業員入口の警備に当たっていた
午後1:00を過ぎた頃、なんと近藤さんが挨拶にやってきた
梶原さんは店長のいる事務所に招いたが、近藤さんは何やら照れくさそうに笑うと、そっとお土産のような小さい紙袋を店長に渡すよう、梶原さんに差し出した
少し気まずい思いもあるのだろう
そう悟った梶原さんは簡単に別れの挨拶を済ませ、店長へ土産物を渡しに事務所へと向かった
店長は話を聞くとさぞ喜び、早速中身を開けてみようと梶原さんから土産物を受け取ろうとする
しかし店長はふいに暗黙の決まりであった、店長宛の荷物は中身を点検してから、というのを思い出して、念の為決まりだからと今更ながら梶原さんに開封を迫る
それを聞いて梶原さんは一笑に付し、近藤さんからの荷物なのだから万が一でも危険な事などありえない、店長宛なのだからこれは店長が開けるべきだ、と一点の曇りもない笑顔で店長へ荷物を差し出したのだった


私が唾する人情!!!


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