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ケイトウに惚れた日


#写真が好き


今から
2年前の9月のことです。
その日わたしは出先からの帰り道に普段は走らない道を運転していました。

時刻は夕暮れに差し掛かかり、西日に向かうカーブの左手に広がるその光景が目に入った瞬間、わたしは思わず路肩に車を停め持っていたスマホで写真を撮りました。

その時わたしが一瞬で心を奪われたケイトウ畑。

夕映え空と色とりどりのケイトウの花


先日ふとその事を思い出し、あの風景をもう一度この目で見てみたいと、通った道の記憶を辿り、少し遠回りをしながらふたたびあの場所へ向かいました。

おそらく2年前と同じ時間帯、夕方の秋空を背景にたくさんのケイトウがあの時と同じようにわたしを迎えてくれました。



また見ることができた。来てよかった。


わたしはケイトウ畑に沿った車道の脇を、時々うしろを走り過ぎる車を気にしつつ夢中で写真を撮りました。





撮る時に明るさ調整したら空が白飛びした一枚



そろそろ日が暮れるので帰ろうと自分の車に向かっていると、反対側に停まっている軽トラから農家帽子を被った年配の女性が降りてきて

「あの花か?」
と声をかけてきました。

わたしはすかさず

「お母さんが作ってるんですか?」
と訪ねると、その方は、うんうんと頷きました。

そして道路を渡ってそのお母さんに駆け寄り

「実は2年前にここを通った時偶然見かけてあまりにもきれいで写真を撮らせてもらったんですよ」

とスマホを開いてその時の写真を見せました。

お母さんはわたしの写真を見て感心し

「ここはもう時期、畑をこいでしまうから好きなだけ持っていってもいいよ」  
と車から花切り鋏を持ち出して畑の方へ歩きだしました。

わたしは予想外の展開に驚きながらもお母さんと一緒に畑の中に入りました。


このケイトウは地元のJAにお彼岸用の花として卸しているとの事。
その日はすでにお彼岸も過ぎ、役目を終えたらしいです。

まだこんなにきれいに咲いているけど…

「どれがいい?」
とお母さんは聞いてくれて、わたしはその時に釘付けになった普段決して買わないような濃い色のピンクの花を選びました。

「私はこっちの色が好きや」
と少し薄いピンク色を指さしたお母さん。

そして

「もっと持っていけばいいよ」
とわたしの選んだ花の色を四、五本切って渡してくれました。


ケイトウのことをあまり知らないわたしにそのお母さんは、花首に種が付いていること、種の保管方法や種まきの時期など、色んなことを教えてくれました。


帰り際わたしはお母さんに何度もお礼を伝えて車の停めてあるほうに歩きだしました。

すると先ほどの軽トラの横にご主人らしきお父さんがニコニコした顔でこちらを見ていました。

わたしは道の反対側にいるお父さんに聞こえるよう大きな声でお礼を言ったあと、助手席の足元にケイトウの花をそっと置いて車に乗り込みました。



2年前のあの日、あの道を通らなければ出会わなかったケイトウの花。

そして2年後にそのケイトウと一緒に素敵な思い出を作ってくれた農家のお母さん。

来年は分けてもらったケイトウで、お母さんみたいに種から上手に育てきれいな花を咲かせる目標ができました。


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