ユーモラスかつインクルーシブであること。Pablo Stanleyのデザイン観に迫る
リードデザイナー、そしてイラストレーターであるPablo Stanley氏が、彼の作品を通してラテンアメリカのデザインシーン、そして彼自身の軽やかなアクセシビリティのデザインについて教えてくれました。
メキシコ生まれのPabloはInvisionのリードデザイナー(*記事執筆当時。現在はBlush Designの共同創業者)であり、ヘルスケアをよりシンプルにするために設立されたテクノロジーベースのヘルスケアサービス業者であるCarbon Healthの共同創業者でもあります。彼をデザイナーとしてユニークにしているのは、滑稽なマンガとカラフルなイラスト、それにSketch Togetherと呼ばれるYouTubeのデザインチュートリアルです。Pabloはまた、Latinx Who Designの創業者としてスペイン語で発信するデザインについてのポッドキャストを配信している、ラテンアメリカ系デザイナーにとっての生き字引のような存在です。
Pabloと一緒に私たちは、ラテンアメリカのデザイン、より具体的に言えばメキシコのデザインシーンについてより多くを知ることができました。また、ユーモアや軽快さを保ちながらアクセシビリティやインクルーシブなデザインなどの重要な問題を彼がどのようにデザインしているのかについても話をしました。
――あなたはアメリカ(US)とラテンアメリカの両方のデザインシーンをご存知なわけですが、ラテンアメリカのデザインコミュニティとはどのようなものなのですか?
ラテンアメリカには多くの国と文化があるので、一括りに一般化することは難しいです。言語ひとつ取っても、スペイン語を話すコミュニティもあればポルトガル語を話すコミュニティもあります。ですが確かに言えることは、多くの才能あるデザイナーがいる場所だということです。
メキシコ、特にバハカリフォルニアについてはよく知っているのでお話しできます。メキシコシティは世界でもっとも美しい都市のひとつです。文化とアートに溢れていて、誰にでもインスピレーションを与えてくれます。ここに住む人々は思いやりがあって、世話好きです。人々の見た目のスタイルは「外向き」で、独特かつカラフルです。必ずしも個性的なわけではありませんが、多くの特徴があります。
――メキシコのデザインシーンはアメリカのそれと比較してどうなのでしょうか?
私は17年間アメリカで過ごした後、最近メキシコに帰ってきました。この国のデザインコミュニティの人と話をしていますが、彼らにアメリカのデザイン界隈、あるいはUXデザイン界隈のことを伝えるのは難しいと感じています。彼らが持っている情報は限られていてアップデートが進んでおらず、デザインと言えば未だにプリントやポスター、雑誌や新聞の広告と考えているのです。個人的には、もっとデジタルな思考をすべきだと思います。また、学校にもこのマインドセットを取り入れるべきです。いま学校では、アートとデジタルデザインがわけて考えられています。ブランディングとマーケティングもデジタルデザインとは別です。ですが、いまやすべてがデジタルなのです。学生たちが今後実社会で出会うデザインはデジタルな形を取っているに違いないので、これらの科目は一緒に教えられるべきなのです。残念ながら、ユーザビリティやUX、UIなどについて教えるべく講義のラインナップを見直した学校はほとんどありません。それは彼らの教えるべき内容ではないと考えられているからです。
学生たちは必要なスキルをすべて備えており、ビジュアル、デジタル言語、その構成、メッセージの伝え方も理解しています。彼らが持つスキルとデジタルプロダクトとの親和性は非常に高いです。広告デザインからデジタルプロダクトのデザインの世界に飛び込む人を何人も見てきました。これは、特にバハカリフォルニアで見られる課題のひとつですが、メキシコシティのデザインシーンははるかに進んでいると思います。EC、デジタルデザイン業者と一緒に仕事をする代理店を持つスタジオが数多くあります。代理店の方はデジタル時代に適応しているのに、学校を卒業してやってくる学生の方は十分に準備できているようには見えないので、それが私には残念なのです。
――あなたの楽しい作品には多くのファンがいて、あなたはデザインコミュニティでよく知られています。楽しませる一方で、オーディエンスがあなたのメッセージを真剣に考えられるようにすることも必要だと思いますが、両者のバランスをどのように取っているのですか?
わかりません。私のマンガには深刻なものも、完全に皮肉なものもありますが、基本的に内容はジョークです。もちろん、真剣なメッセージの場合にはそのように言います。ですが基本的には、マンガに込められたメッセージの受け取り方はオーディエンスに任せています。明確になるように努力はしていますが、オーディエンスは賢明ですから、私は彼らを信じています。しかしジョークの中にさえも、普通は真剣なメッセージが込められているものです。私は自分が本当に信じていることについて語る時に、それをコメディの形にしているのです。コメディは、非常に深刻な内容を他の人にわかりやすく伝えるためのツールに過ぎません。
――あなたはかつて、自身が色覚異常であることが持つ意味と、そのことを楽しむと同時に、同じように色を認識することに苦労している人たちを代表するということに活かしていると言われていました。色覚異常を持たない人にその苦しさを伝えるためになにかツールを使ったことはありますか?
誰でもアクセシビリティをデザインするときには、特定のユーザーグループだけではなくすべての人にとってアクセスし易いようにデザインすると思います。ある特定の能力を持つユーザーグループにとってわかりやすくなるように変更を加えるときには、大抵他のすべての人にとってもわかりやすくなるものです。たとえば色覚異常を持つ人は、色で塗りわけられた円グラフのデータを理解することに苦労します。ですからこれに対応するためにはドットやタテヨコの線を使ったパターンによる区分などが考えられますが、これは他の人にとってもわかりやすくなる変化です。
UIを変えることは色覚異常を持つ人たちだけでなく、アイコンを理解できない人や、よりわかりやすい言語を必要とする人など、さまざまな認知の仕方をする人にとっての体験を向上させることができます。
ですから、ある種の認知能力やアクセシビリティを持つ人を念頭に置いてその人たちのためのツールを作ることは、すべての人にとってより良いデザインを作ることだと私は思います。
――パターンを使うことについてのご意見は非常に興味深いですね。特定の色覚異常を持つ人に見えるものをシミュレートして、カラーパレットをその人たちに合わせて調整するようなツールもあります。問題は、色覚異常にもさまざまな種類があるということです。ある色覚異常を持つ人に見える色が、また別の種類の色覚異常を持つ人にとっては別の色に見えるということもあります。パターンを使えばこの問題を解決できますね。
必ずしも色を使って解決しなければならないわけではありませんから。円グラフであれば、パターンやレイヤー(積み重ね)を使ってみましょう。データがなにかの「ポジティブ」または「ネガティブ」な状態、「Yes」または「No」を表しているときには緑と赤がよく使われますが、私にとっては非常に見わけにくいものです。こういう時には変わりにラベルが使えます。ただ「成功」「失敗」、「Yes」「No」といったラベルを使えば良いのです。繰り返しますが、こうした工夫は色覚異常を持つような人たちだけでなく、すべての人にとってのわかりやすさを向上させます。
――デザインにおけるアクセシビリティについて議論することは、すべての人、そして既存の社会規範の中でカバーされないあらゆる人にインスピレーションを与えるものだと思います。一般的な規範に合わせるのではなくその在り方を尊重するということは、機会を見つけ出す方法のひとつだと言えるでしょうか。
これは、なにかをデザインしようとしているデザイナーにとっては難しいことです。デザイナーは自分独自の視点しか持ち得ない一方で、他の誰かにとって世界がどう見えているかについても考えなければならないのですから。私たちの脳にとっては、既に知っていることの範囲に留まるほうが簡単なのです。このことを意識して、私たちの中にはバイアスがあることを認めなければなりません。他人の目線を理解するためには、リサーチとインタビューが有効です。自分だけですべてを知ることはできませんし、すべての人の動きや考え方について理解し、あらゆることに答えを持つ必要はありません。しかし、ツールを使って他人と自分以外の物事に対する理解を深めることはできます。人間に限界があるのは当たり前のことで、私たちの脳が余計な仕事をしないで怠けようとすることも自然なことです。だからこそ、私たちは自分の脳に言い聞かせるべきです。
「気持ちはわかるけど、世の中がもっと良くなるためにもうひと仕事しようじゃないか」
Written by Giorgia Lombardo (Design Matters)
Translated brought to you by Flying Penguins Inc. 🐧
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