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「デザイン経営」を特許庁のレポートから解説〜【後篇】『「デザイン経営」の課題と解決事例』に関して〜

前篇では、2018年5月23日にも『「デザイン経営」宣言』と題した経済産業省・特許庁による産業競争力とデザインを考える研究会のレポートを発表に関してご説明しました。

前篇はこちら。

今回は、後篇です。
2020年3月23日に発表された『「デザイン経営」の課題と解決事例』。特許庁による我が国のデザイン経営に関する調査研究のレポートに関してお伝えできればと思います。

『「デザイン経営」の課題と解決事例』


レポート概要

これから「デザイン経営」にチャレンジする方の疑問解消と参考事例を紹介しています。「デザイン経営」に取り組んでいる96社へのアンケート回答と21社および3名の専門家へのヒアリングを8つの課題に分類してまとめています。

デザイン活用に関する心構えに関することは「マインドセット(mindset)」、デザイン活用の方法に関することは「アプローチ(approach)」と表記しています。

また、引用文は前述の特許庁による『「デザイン経営」の課題と解決事例』レポートより引用してしておりますので、ご了承ください。
 

課題1:経営層の理解不足

「デザイン経営」の導入が早い企業は、社長や創業者がデザインへの関与が積極的な事例が多いです。

【mindset】三井住友フィナンシャルグループ

"経営層の過去の経験とデザインの活動を紐づけて理解を促す"

経営層がデザインを意識せずに活動してきた経験と、ユーザ目線に基づいた企業がやりたいことは、リンクする部分が多くあるので、これを理解すればデザインの必要性が自然と受け入れられたと伝えてます。

【approach】パナソニック

"経営層に理解してもらえる言葉でデザインを説明する”

お客様への説明時に専門用語を使わないということと同様に、社内でも「デザイン用語」ではなく、「一般用語」で伝えるということ。特に経営層には「経営理念」や「事業戦略」に関連した共通言語で伝えることが重要です。

【approach】Hamee

”経営層向けのワークショップなどでデザインに理解を得て、全社的な取組を進める”

【approach】メルカリ

”デザインの視点を持ったものが経営会議に参加し、課題提起を行う”

【approach】自動車業界企業

”経営層にデザインの論理的な解釈の仕方を伝える”

【approach】サイバーエージェント

”デザイン部門やデザイン責任者が経営層や事業部門とコミュニケーションする機会を定期的に設ける”


課題2:全社的なデザイン理解度・関心度のレベル不統一

社内でのデザインに対する意識統一は最も頻出した課題の一つ。プロダクト開発におけるデザインの「重要性」は浸透しつつあるが、それをどう組み込めば良いか分からないので躊躇する企業が多いようです。

デザインがただ単に「見た目」を良くすることではない事を啓蒙・教育する必要があります。

【mindset】ビズリーチ(Visionalグループ)

”経営資源としてデザイン人材を活用するという共通認識をつくる”

ビジネスの上流から顧客の課題発見・解決にデザイン人材が企業経営に欠かせないリソースであるという共通認識が必要です。常にユーザ目線で物事を考える事が必要という事もその要因の一つだと思います。

【mindset】ソニー

”デザインを製品原価に対するコストとして捉えるだけではなく、ブランドの価値や顧客体験の価値向上に寄与する投資として考えてみる”

ブランド価値向上や顧客体験価値向上などに対する投資、このように評価してもらえるようにするには様々な企業の成功体験を数字なしで説得する必要があるのかなと思います。

【mindset】早稲田大学 入山教授

”問題解決のための活動としてデザインを捉え直す”

海外におけるデザインは「問題解決」であり、私もデザインは「問題解決の手法」と捉えて着地点を決めて取り組んでいます。

”何をしたい会社なのかという「意思」が重要”

必ずしも企業のあらゆる部門、事業でデザインが活用できる訳ではなく、何をしたいのかという暗黙知を形式知化させる(デザインする)ことが重要だと思います。

【mindset】D4V 太田氏

”事業のあらゆる側面に対してデザインが関わると捉え直す”

デザインの対象がモノだけではないということ、無形の体験やビジネス、組織作りなど「人」が関わる全てのモノやコトを指すと伝えてます。

”デザイン思考の導入において大事なのは、組織のマインドセットだという事を理解する”

【mindset】貝印

”デザインの活用は社員満足度向上や離職率抑制にも効果がある”

【approach】スギノマシン

”顧客の現場を観察し声を聴くことで、新たな商品やサービスの開発にニーズを反映させる”
”技術者が顧客の現場を訪問してニーズを把握し、営業も技術提案を行える自律的な多能工を育てる”

【approach】TOTO

”小さな成功事例を積み上げる”

海外競合他社に自社製品から乗り換えられる機会が多くなり、各国顧客の文化やニーズをふまえたデザイン戦略を強化し業績が伸びた事を成功事例としたようです。これにより、社員のデザインへの重要性に対する理解度が高まった。

【approach】三井住友フィナンシャルグループ

”外部評価を積み重ねる”

ユーザ本位の姿勢を維持して、外部からの受賞などを積み重ねることで、社内社外からの評価が高まり良い流れになるようです。

【approach】パナソニック

”社内サイトを使った密な情報発信”
“他部署の社員が興味を持つオフィスを設計"

【approach】福永紙工

”顧客からの評価がわかるような展示などを社内に設ける”

【approach】アサヒ興洋

”経営者が新たなプロジェクトを先導し、生まれた製品やサービスを外部に評価してもらう”

【approach】サイバーエージェント

”他社のサービスとの比較を通じて、デザインの重要性に気づく”
“デザイン部門やデザイン責任者が経営層や事業部門とコミュニケーションをする機会を定期的に設ける”
“デザイン責任者が事業部のプロジェクトに参加して、実績を少しずつ積み上げる"

【approach】コニカミノルタ

”階層ごとの研修を行い、デザインの意味と立場や役割に応じた関わり方、為すべきことを理解してもらう”

【approach】ディー・エヌ・エー

”デザイン組織の長が経営層の言葉を翻訳する”


課題3:デザイン用語の解釈の不統一

用語の異なる解釈により、取り組む課題の優先度や活動への理解が得られない。

【approach】デンソー

”複数部門のメンバーで構成されるチームで取組を進める”

【approach】ソニー

”議論の場でデザインのビジュアライゼーション力を活用する”

【approach】パーソルキャリア

”全社にミッションやバリューを伝え共感を高める議論を、デザイナーがファシリテートする”

【approach】富士フィルム

”様々な組織の人が集う場をつくり、アイデアを創発する”

良いデザインを生み出すには、デザイン組織単独のクリエイティブな環境が必要と考え、本社とは別にデザインスタジオを作ったとのこと。外部クリエイティブや様々な部署とのコラボレーションでアイディアを創発する場になっているというからすごい。


課題4:人材不足・人事

人材不足による実行スピードの遅さやUXデザインをできる人材がいない、デザイン活動への理解が人によって異なることなど、単に「デザイン」を入れるだけでなく、その理解を得ないとなかなかコトが進まない状況。

【approach】D4V 太田氏

”デザイン人材の採用プロセスでは、経験とスキルはもちろん、課題に対する姿勢も見ることが重要”

【mindset】Unipos

”デザイン人材の考え方、発想の仕方を共有する”


【approach】日本電気

”デザイン、技術、ビジネスの混合チームを構成し、取組を進める”


課題5:効果の定量化の難しさ

以前転職活動をしてた際に「デザイナーの評価はどうしてますか?」という質問をされましたが、どうしても定量的ではなく定性的な評価になりがちだと思います。こちらのレポートでは、「経営理念との整合性」「プロセス改善に対する効果」「ブランド価値の向上」という観点でデザイン効果を説得するという意見があると伝えています。

【approach】ビズリーチ(Visionalグループ)

“定量的に捉えることに拘らず、経営計画との整合性や顧客の評価で成果を説明する”

【approach】本多プラス

“顧客の購買部でなく、デザインの価値を理解するマーケティン部に向けて提案し売上増につなげる”


課題6:組織体制・評価指標がない

デザイン導入部門をどこに組織するのか、どの程度の権限を与えるのか、デザインのKPI整備が遅れているなどの課題を挙げています。クリスチャン・ベイゾンによると、一番やってはいけないのは「マーケティング部門の中にデザイン部門を置くこと」。

【approach】デンソー

“複数部門のメンバーで構成されるチームで取組を進める"

【approach】パナソニック

“非デザイン人材とデザイン人材が交流する人事を行う”

【approach】メルカリ

“初めからデザイン組織をつくるのではなく、個別サービスのチームにデザイン人材が入ってプロジェクトを進める”


課題7:ビジネス(「売れるもの」と「良いもの」)の両立

デザインが経営にどのような影響を与えるのか、ビジネス観点での落とし所の判断、デザインの質向上がもたらす効果の明確化などが課題として挙げられています。

【mindset】パナソニック

“長期的な収益につながる活動としてデザインを捉える”

【mindset】Kontrapunkt 濱口屋氏

“デザインの手法をなぞるだけでなく、仮説構築から検証までのプロセスを踏んで成功事例を作っていく"



課題8:既存業務プロセスへの組込

製品などの表面的な「見た目」に対する理解は高いが、無形物へのデザイン活用、課題解決手段へのデザイン活用などの多面的活用による貢献は認知されておらず、既存プロセスへどのようにデザイン活用を組み込むかが課題です。

【approach】オムロンヘルスケア

”「デザイン思考」や「デザイン経営」といった言葉を自社業務に即して解釈し、プロセスを体系化する”

【approach】ヤンマーホールディングス

“デザイン推進組織を設置し、製品デザインだけではなく企画、販売、プロモーションまで統括的に活動する"


まとめ

レポートのコラム以外をざっとご紹介いたしました。各企業の言葉(引用部分)を読んでいるだけでも色々と刺激を受けます。

「デザイン」という言葉の範囲が広すぎるので、それをしっかり理解している人も少なく、デザイン活動と同時に啓蒙・教育などを行う必要があるのだと知ることができました。

各企業の取組も様々で、サイバーエージェント社で実践している「デザイン責任者が経営層や事業部門との定例実施」は絶対に必要だと感じますし、福永紙工社の「顧客からの評価がわかるような展示を社内に設ける」は啓蒙活動としてコストをほとんどかけずにできる活動だと思います。

やはりデザイナーと他部門のコミュニケーション量を増やすことは、デザインを理解してもらうためには必要なことだと感じますし、デザイナー側も経営層の使う言葉でデザインを説明するなど、両方からの歩み寄りを活発に行い、有機的な組織を作っていくことが良いのではないかと思います。

有機的な組織ができれば、デザインが当たり前になり、また企業もブランド価値向上などの恩恵を自然と享受できるようになるのではと思います。


終わりに、

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