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忘れない、最後の〇〇を。

A(M):夏の終わり、人気(ひとけ)の少なくなった海辺。
A(M):凪いだままの海を見つめ、私は彼にキスをした。
A(M):……した、と言うと誤解が生まれる。
A(M):……気づいたら……気がついたら……キス……していた……。
A(M):自分でも何でかわからない。
A(M):ただ夕日に照らされた彼が綺麗で……。
A(M):気がついたら、彼の合意も得ずに……キス、してた。
A(M):唇と唇が離れ、思わずハッとしたように息を呑む。

B:お前……!!何すんだ……。

A:(被るように)ごめん!!

B:ごめん……って……。
B:彼女以外の奴とキスしたなんてバレたら……何言われるかわかんねーよ。

A:ごめんって言ってるじゃん!!

B:謝って済む問題じゃねーよ。

A:(大きな声で)ごめんって!!

B:……っ!

A:アンタが……、アンタがあんまりにも綺麗だから……。

B:俺のせいかよ……。

A:私は……アンタのことが……。

B:俺が何よ?

A:……っ、何でもない。

B:お前、俺が彼女にフラれたら、どう責任取ってくれるんだよ?

A:それは……。

B:ったく……。
B:もう良いから口拭け。口紅、取れてんぞ。

A:……。

B:あー、お前とついにキスしちまったかー。
B:お前とはずっと友達で居れると思ってたのによー。

A:ごめん……。

B:もう良いって。
B:……お前ってさ、誰にでもキスすんの?

A:……え?

B:いや、だって今も不意にキスしてきただろ?
B:だからお前……キス魔なんかなー?って。

A:違うわよ!!アンタだから!!

B:ほぉ、俺だから……か。

A:あ……。

B:何?お前、俺のこと……好きなの?

A:……うぅ……。

B:なぁ、言えよ、正直に。
B:言っちまえば楽になるぜ?

A:私は……。

B:うん?

A:(小さな声で)……アンタが好きだった。

B:ふぅん。

A:アンタがあの子と付き合う前まで、ずっと好きだった。
A:今日キスしたのは忘れて。……気の迷いよ……。
A:夏の夕日が綺麗だったから、絆されたのよ。
A:今のアンタは……別に……好きなんかじゃない……。

B:気の迷いねー……。
B:その割にはがっつりキスしてきたな。

A:う、うるさい!!

B:俺とキスしてどうだった?

A:は?

B:だーかーら、俺とキスしてどうだった?って聞いてんだよ。

A:(恥ずかしそうに)そ、それは……。

B:教えてよ、正直に。

A:(小さい声で)……だった。

B:ん?

A:(徐々に大きく)……きだった。

B:何?聞こえないけど?

A:(大きな声で強くハッキリと)やっぱり好きだった!!
A:(ごにょごにょと尻窄んで)……と思いました……。

B:お利口さん、良く言えました。

A:(不意にキスされ)ん!

B:(不敵に笑い)……最後のご褒美。
B:……もうお前と二人で出かけること、出来ねーから。
B:やっぱ、彼女に悪いし……。
B:ずっと友達だと思ってたから……さ。

A:……うん。
A:ありがと、今日付き合ってくれて。

B:良いよ、別に。
B:これからも良きお友達で、な?

A:うん……。

B:さてと……そろそろ帰りますかー。

A(M):砂浜を歩く彼の後姿を目に焼き付ける。
A(M):好きだった、ずっと、大好きで仕方が無かった。
A(M):あの子に盗られた私の欲しかった場所。
A(M):隠しても隠しても、溢れ出てきて……気づいたら涙が一筋頬を伝っていた。
A:あー、アンタなんか嫌いだー!!!
A(M):海に向かって叫ぶ。
A(M):叫び終わると彼が振り返り私を見つめ「ふっ」と不敵に笑った。

B:おい、早く帰るぞ、キス魔。

A:ちょっと!その呼び方やめてよね!
A(M):彼の親指が私の目元に触れる。
A(M):そっと拭かれた涙に顔が熱くなるのが解かる。

B:俺より良い人、見つけろよ?

A(M):そう言われたので彼の脇腹に一発パンチを入れると、彼は痛そうに笑い、

B:ははっ、そんなじゃじゃ馬じゃあ、貰い手ねーぞ!

A(M):と言う。
A:良いもんねー!べー!!
A(M):ケラケラとお互い笑い合い、海辺を後にする。
A(M):忘れられないキスを交わした夏の終わり。
A(M):私の恋はまだ始まらない。


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