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海に溶ける


男M:真っ暗な防波堤、小さく灯る灯台に目をやる。
男M:僕は今、海に来ている。
男M:海に来たことに意味なんて無い。ただ、”何となく”という理由だけ。
男:あぁ、涼しいな……潮風の匂いも心が落ち着く。
男M:防波堤に腰掛けながら、暗い海を見つめる。
男:……彼女は元気かな?幸せになっているかな……?
男M:最近、自分からフった彼女のことを思い出すことが多くなった。
男M:別に深い意味なんて無い。ただ、6年付き合ったのに急に熱が冷めた自分が居るだけ。
男:あー……思い出すのも辛いな。
男M:僕はそう言うと、防波堤に寝転がった。
男M:一目惚れだった。僕から彼女に猛アタックして、付き合ってもらっていた。
男M:けど次第に僕の熱が冷め始め……決定的だったのは、彼女に結婚を迫られた時。
男M:僕は”結婚”というワードに、急激に嫌悪感を抱いた。
男:恋人という関係で良いじゃないか。僕はまだ結婚なんて考えていないよ。
男M:僕がそう言うと、彼女は大粒の涙を流して泣いたんだっけ。
男M:そして次第に彼女との関係が気まずくなり、ちょっと前にフったんだ。
男M:でもやっぱり、彼女が忘れられない。
男:……どうしたもんかな……。
男M:連絡しようにも、連絡先をブロックされているし。
男M:アパートも引っ越したみたいだから、会うことも出来ない。
男:……幸せだったんだけどなぁ。
男M:儚い夢の様な恋と愛だった。
男M:思い耽る僕を笑うみたいに、波は飛沫を上げる。
男M:暗い闇の中、そのまま海に溶ける様に、僕は静かに目を閉じた。


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