日本版DBSの"おそれ"について思うこと

1.日本版DBSとは

 最近日本版DBSというものが国会などで審議されているようです。これについて気になったので調べてみました。
 政治に疎い私が調べたところ概要は以下の通りのようです。(間違いがあったら教えてほしいです)

「子どもを性犯罪から守るために
①性加害をした人は、一定期間子どもと関わる職業に就けないようにします(再犯から守る)
②性加害をする"おそれ"のある人に対し、配置転換などで子どもとの関わりから遠ざけます(初犯から守る)」

 とても良い趣旨だと思いますので、理念自体に反対はしません。(むしろ大賛成)
 また①については色々議論の余地があるところかと思いますが、おおまかな方向性としては賛成です。
 私が気にかかったのは②の"おそれ"という表現でした。おそれ=可能性のことですが、これが非常に曖昧であり、また大変に問題含みであると思うのですが、あまり議論がされていないようですのでここで取り上げてみたいと思います。

2."おそれ"について

 突然ですが以下のことについて考えてみてください。

  1. あなたはロシアに行きますか?
    現在ロシアとウクライナは戦争中であり、日本はウクライナ側を支援しています。ロシアとは間接的に敵国であり、訪れた場合いろいろな被害を受ける"おそれ"があります。それでも美しいサンクトペテルブルクに観光に行きますか?

  2. 家から外に出ますか?
    警察庁によると2023年には2,678名の方が交通事故で亡くなられているそうです。あなたはあなたは家から外に出ると交通事故にあう"おそれ"があります。それでも外に出ますか?

  3. 窓をつけますか?
    1954年11月30日にアラバマに落ちた隕石、通称ホッジス隕石は、屋根を貫通し、屋内でお昼寝していた人にあたり酷い打撲を負わせた。その"おそれ"があるのに、あなたは頑丈な地下室などではなく、窓付きのお家に住みますか?

 いかがでしょうか。
 みなさまお分かりのように全て被害を受ける"おそれ"があるものですが、それぞれ2つの違いがあります。
 1つ目は可能性の高さ、2つ目は被害の大きさです。 

 1.については、なんらかの被害を受ける可能性は高いと言えます。間接的とはいえ敵国ですし、戦時下という非常事態の中です。どんなことが起きるか分かりませんし、何をされても文句は言えません。(文句は言ってもいいけど、誰もまともに取り合ってはくれません)
 また被害の大きさについては(戦地からの近さにもよると思いますが)最大で殺される、最低でも身包み剥がされて五体満足で帰ってくることができれば御の字でしょう。

2.について、私は数十年生きてきましたが、いまだに交通事故にはあっていません。現在日本には1億2000万人ほど住んでいますが、そのうち昨年亡くなった方が2,678人ということは可能性は大きくはないでしょう。
 また被害も、死亡者は2,678名ですが、負傷者は36万5,595人と死亡者より圧倒的に多く、そのほとんどが軽傷者です(33万7,959人)。。

 3.については可能性としては極めて低く、被害も重度の打撲であり、死ぬほどではありません。

 つまり"おそれ"という言葉は非常に曖昧であるということがわかります。
(念の為申しておきますが、「こいつは法には冗長性があってはいけないと考えているのか!?」と考える方がいらっしゃるかもしれませんが、私は法にはある程度の冗長性はあって然るべきだと考えます。
 あまり雁字搦めにしすぎると、逆に法の抜け穴のようなものが生まれてしまうからです。
 例えば暴行罪における「暴行」という言葉の定義を「骨が一本以上折れたこと」と厳密にしてしまうと、骨が折れない程度の暴力を暴行罪で裁くことができなくなってしまいます。そのため「暴行」という言葉である程度の冗長性を持たせているわけです。(ただ解釈がブレブレも良くないので、日本では前例主義を採用しています))

3.犯罪者について

 さて、話は戻って今回の日本版DBSでは、子どもを性犯罪の初犯から守るために何をしようしているかというと、「性加害をする"おそれ"のある人に対し、配置転換などで子どもとの関わりから遠ざけ」ようとしています。
 性犯罪の初犯から子どもを守ろうとしているため、ここでいう「性加害をする"おそれ"のある人」とは未だ性犯罪を犯していない人のことを指していると考えられます。(そうでなければ①の条件に当てはまるため、こちらはいらないと思われます)

 日本では罪刑法定主義を採用しており、法律上に記されていることに違反した場合に罰則があります。ここでいう性加害をする"おそれ"のある人は違法行為をしていません。(違法しているのであれば"おそれ"ではないため)
 違法行為をしていない人間に対して職業選択の自由を縛るというのは大きな問題があるのではないかと思います。

 もし、仮に違法なことを想起させるものを多数所持していたとしても(レイプや幼く見える女優・男優が出演しているセクシービデオ、殺人をメインにしたゲームや空気銃など)、
 それは所持のみでは全く問題はなく、それを現実に行なった場合のみ初めて違法であり、犯罪者となります。それ以前はただの人間にすぎません。

4.まとめ


 ここまでをまとめますと、日本版DBSの
「②性加害をする"おそれ"のある人に対し、配置転換などで子どもとの関わりから遠ざけます(初犯から守る)」
には大きく2つの問題があると考えています。

1.基準が曖昧であること
2.犯罪者でない人に不利益を及ばせてしまうこと

 この2つが重なってしまうと、思想信条によって職業選択を制限することが可能になってしまいます(実際起きるかはわかりませんが)。

 この点について考えていただいた上で、日本版DBSについてご検討いただいただきたいなと日本人の1人として思います。

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