見出し画像

初期対応と皮膚科コンサルトのタイミング

拙著「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」の読者から、皮疹をみたときの初期対応と皮膚科コンサルトのタイミングが知りたいとのご意見をいただきました。

そこで書籍の内容にもとづいて紅斑を3つに分け、それぞれの対応を解説します。

①表皮の病変

<緊急性のある病態>

初期対応を考える上で重要なのは緊急性です。
表皮に病変があり表面がザラザラした紅斑には、書籍で述べたように4つの鑑別診断があります。
 
①湿疹
②真菌症
③悪性腫瘍
④炎症性角化症
 
この中で危険性が高いのは③悪性腫瘍です。ですが数日以内に進行するわけではないので、緊急性としては高くはありません。
つまり緊急性が高い病態は少ないと考えよいと思います。
したがってコンサルトのタイミングには比較的余裕があると言えます。


<初期対応>

それでは書籍のフローチャートに沿って初期対応について考えていきましょう。

初期対応には以下の3パターンが考えられます。

  1. 真菌検査

  2. 何もせず皮膚科医の診察を待つ

  3. ステロイド外用

それぞれについて見ていきましょう。


①真菌検査
まず必要なのは真菌検査です。
真菌検査が陽性であれば外用抗真菌薬、陰性であればステロイド外用薬を使用してください。

②何もせず皮膚科医の診察を待つ
次に真菌検査ができない場合はどうすればよいのでしょうか。
緊急性が高い疾患の可能性は低いので、近々皮膚科医の診察を受けられるなら何もせずに様子を見てもよいでしょう。

③ステロイド外用
しかし真菌検査ができず、皮膚科医の診察を受けられない場合は、何かしらの外用薬を処方する必要が出てきます。
ただ真菌検査で確定診断がついていない段階での抗真菌薬の使用は避けるべきです。
したがって湿疹か皮膚真菌症か判断できない場合は、まずステロイドを使用します。


 <皮膚科コンサルトのタイミング>

次に皮膚科コンサルトのタイミングについて解説していきます。
 
①真菌検査を行った場合
 抗真菌薬あるいはステロイド開始後2週間で改善しない場合、診断を見直すべきです。その時点で皮膚科コンサルトが必要です。

②何もせず様子を見た場合
 皮膚科受診が可能なタイミングでコンサルトしてください。

③真菌検査ができずステロイド外用を行った場合
 2週間以内に改善しない場合は、真菌検査を行い診断を確定する必要があります。その時点で皮膚科コンサルトしましょう。


②真皮の病変(蕁麻疹)

真皮の病変は蕁麻疹と中毒疹に分けて考えます。

まず蕁麻疹について見ていきましょう。


緊急性のある病態

蕁麻疹で緊急性のある病態はアナフィラキシーです。
皮膚症状に対しては抗ヒスタミン薬が有効ですが、呼吸、循環症状には効果がないので注意してください。
アナフィラキシーに対しては至急エピネフリンを使用する必要があります。


初期対応

それでは蕁麻疹の初期対応について考えていきましょう。

  • 呼吸・循環器症状の確認(アナフィラキシーならエピネフリン)

  • 病歴の確認

  • 抗ヒスタミン薬処方

まず行うのは呼吸・循環器症状の確認です。
もしアナフィラキシーであればエピネフリンを使用します。

全身症状がなければ通常の蕁麻疹として抗ヒスタミン薬を処方します。

また同時に即時型アレルギーを疑う病歴がないかを確認してください。
即時型アレルギーの場合、ほとんどが2時間以内(薬剤は10分以内、食物は30分以内が多い)に症状が出現するされています。
(アレルギー 71(2): 120, 2022)


皮膚科コンサルトのタイミング

次に皮膚科コンサルトのタイミングについて解説していきます。

①即時型アレルギーを疑う場合
まず即時型アレルギーを疑う病歴がある場合は皮膚科にコンサルトしてください。
血液検査や皮膚テストを行う必要があります。

②抗ヒスタミン薬が効かない場合
蕁麻疹患者の約20%は抗ヒスタミン薬の効果が乏しいと言われています。
抗ヒスタミン薬の効果が乏しい場合はコンサルトしましょう。

③抗ヒスタミン薬を処方して1週間以内
また必須ではありませんが、抗ヒスタミン薬が有効であっても一度皮膚科受診を勧めるのがよいでしょう。
急性蕁麻疹はほとんどが2週間以内に治癒しますが、6か月以上続き慢性蕁麻疹に移行する症例が数%程度あります。
初診時には経過は予想できないので、皮膚科に経過観察を依頼するとよいと思います。


③真皮の病変(中毒疹)

次に中毒疹について、書籍のフローチャットに沿って考えていきます。

緊急性のある病態

書籍で述べたように、中毒疹には薬疹、感染症、膠原病の3つの鑑別診断があります。
この中で最も緊急性が高いのは重症薬疹です。

軽症の薬疹であれば薬剤の中止のみで治癒しますが、重症薬疹ではステロイドの全身投与が必要になります。


初期対応

それでは中毒疹の初期対応について考えていきましょう。

  • 薬歴の確認

  • 薬剤中止

  • 重症薬疹の徴候(発熱、粘膜病変)の確認

まず行うのは薬歴の確認です。
薬疹を疑う薬歴がある場合は、まず薬疹を考えて薬剤を中止します。

そして発熱や粘膜症状があるかどうかを確認してください。
もしこれらの症状がある場合は重症薬疹を考えます。


皮膚科コンサルトのタイミング

次に皮膚科コンサルトのタイミングについて解説していきます。

①重症薬疹を疑う場合
原因薬剤を中止して至急皮膚科にコンサルトしてください。

②薬疹を疑い、重症薬疹の所見がない場合
軽症の薬疹は原因薬剤の中止で1週間程度で治癒します。
まず原因薬剤を中止して経過をみてもよいでしょう。
ただ後から重症化する場合もあるため、できれば数日以内に一度皮膚科にコンサルトしておいたほうがよいと思います。

③薬歴がなく判断がつかない場合
薬歴がなければ感染症や膠原病を考えます。
診断は一筋縄ではいかず、皮膚科だけでは完結しない場合も少なくありません。内科と皮膚科の協力が必要になります。


④皮下組織の病変

皮下組織の病変は単発性と多発性の2つに分けて考えます。

緊急性のある病態

単発性の皮膚疾患の鑑別診断は蜂窩織炎と静脈うっ滞です。
この中で緊急性のあるのは重症の蜂窩織炎(壊死性筋膜炎)になります。

一方、多発性の鑑別診断は自己免疫疾患(結節性紅斑、血管炎)と静脈うっ滞です。
緊急性のある病態は血管炎になります。


初期対応

それでは初期対応について考えていきましょう。

①単発性の場合

  • 急性関節炎の除外

  • 壊死性筋膜炎の除外

  • 抗菌薬開始

単発の病変の場合、まず急性関節炎の鑑別が必要です。急性関節炎が除外できれば、蜂窩織炎を考え抗菌薬を開始してよいでしょう。
ただし壊死性筋膜炎疑う場合は高次医療施設への搬送が必要です。
以下の所見を伴う場合は壊死性筋膜炎の可能性を考えます。

・意識変容を伴う発熱、血圧低下
・皮膚所見に合致しない重度の痛み
・皮膚の病変範囲を超えた皮下硬結
・皮膚の病変範囲を超えた浮腫や圧痛
・捻髪音(組織内のガスを示唆する所見)
・水疱形成
・皮膚壊死、紫斑
・初期の抗菌薬治療に反応しない

(Clin Infect Dis. 59(2):147, 2014、PMID: 24947530)

とはいえ最初期の壊死性筋膜炎と蜂窩織炎を確実に鑑別するのは不可能です。しっかりとフォローアップして評価しましょう。


②多発性の場合
多発性の場合は静脈うっ滞と自己免疫疾患の鑑別が必要です。
皮膚生検で診断を行います。


皮膚科コンサルトのタイミング

次に皮膚科コンサルトのタイミングについて解説していきます。

①壊死性筋膜炎を疑う病変
壊死性筋膜炎は緊急の外科的処置が必要です。
この場合は皮膚科に限らず、緊急処置が可能な高次施設へ救急搬送してください。

②抗菌薬の効果が乏しい単発病変
単発の病変では、抗菌薬の効果が乏しい場合は静脈うっ滞を考えます。静脈精査が必要なので皮膚科や血管外科へのコンサルトが望ましいでしょう。

③多発病変
多発病変の場合は自己免疫疾患の可能性があり、皮膚生検が必要です。皮膚科へ紹介しましょう。


まとめ

紅斑を見たときの初期対応と皮膚科コンサルトのタイミングについて解説しました。
今回の内容を踏まえて、書籍を読み直していただけましたら幸いです。

お仕事、講演の依頼などはブログからお願いします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?