優しさとは何か

僕は、しばしば人に「優しい」と言われることがある。

その時に、いつも、いったい僕のどのあたりが優しいのだろうか？と考えてきた。
自分とって当たり前のことをしているので、あえて考えることをしないと自分の優しさが分からなかったからだ。
自分にとって当たり前だが、人に褒められたり驚かされたりすることは、その人の才能なのだと思う。
故に、僕の才能の一つは、「優しさ」なのだろう。

経験を重ねるたびに、自分や他者の色々な「優しさ」の種類が見えてきている。
そして、自分の優しさのスタイルも、変化していく。
それをできるだけ書いていきたい。

まず、「何が優しさではないか」から考えていきたい。
具体的な例としてすぐに思いつくのは、他者を傷つける言葉を言ったり、人のものを盗んだりすることだろうか。

そうした明らかな「優しさでないもの」はすぐ分かる。

また、日常生活での明らかな優しさもある。
老人に席を譲る、食べ物を分け与える、重いものを誰かの代わりに運ぶ、など。

一方で、なにが「優しさ」であるかを定義するのが難しい場合がある。

他者を傷つける意図がなく、むしろ他者の幸せを願ってした言動や行動が、結果として相手を傷つけたり、相手を悪い状況におくこともある。
親子関係においては、こうした経験はよくあることだろう。
この場合、傷つけた側の人は、「優しくない」のだろうか。
傷つけたその瞬間においては、傷つけられた側から見たら、傷つけた人は優しくないだろう。
ただ、その傷のおかげで、長い人生の中でその人が成長したり、より本人の求める幸せに近づいたとしたら、傷つけた人もある意味で「優しい」のかもしれない。

一方で、その逆に、他者に関心がなく、相手の幸せを何も考えずに身勝手に、自分の利益や欲求の為にした行動が、結果としてその時点での相手を幸せにして、「優しい」と受け取られる場合もある。
この場合、身勝手にやりたいことをした人は、果たして本当に「優しい」のだろうか。

僕の考えは、どちらも優しさであり、優しさでない、という何とも歯切れの悪いものだ。

ある人が、他者にした行為が「優しさ」になるかどうかは、それを観測する人、または状況により変わる。
優しさは、身長や体重や筋力のように、ある個人が内包している性質というよりは、他者との相互関係の中で「発生」するものなのかもしれない。

例えば、もう生きるのが辛いので、延命治療をやめてくれ、呼吸器を外してくれ、とせがむ人がいた時。
呼吸器を外すことが優しさなのか、絶対に治る！という嘘で相手を元気づけ、治療を続けさせるのが優しさなのか。
僕は、どちらも優しさとして成立しうると思う。ただ、相手にその段階で「優しい」と観測されるのは、呼吸器を外すことだろう。
しかし、それは、まだ治る可能性が存在する場合の話だと思う。
もう完全に治る可能性がないのに、延命を続けるのは、患者ではない人間の寂しさからくるエゴだと思う。

子供の幸せを願う親が、親の観点から見た「安定した幸せ」を子供に与えようと、子供の進路を制限すること、これは、優しさのように見えて、親自身の不安をどうにかするためのエゴなのではないだろうか。

例えば、麻薬中毒になり、禁断症状で苦しみ、社会とどんどん孤立していく友人がいたとき。
その人が麻薬を摂取する様子を笑って受け流し、普通に接し、必要あれば麻薬のための金を貸すことは、その時点のその人から観測すると「優しさ」だろう。

その結果、彼の社会の孤立が留まり、友人にこれ以上負担をかけたくない、という気持ちになり、彼が自分で麻薬を辞めようと思い立つこともあり得るし、中毒を深刻化させ、友人である自分や、周りの人を傷つけたのち、死に至ることもあり得る。
なので、この行為が究極的に「優しい」かどうかは、その「結果」が出るまでは分からない。
警察を呼び、刑務所に放り込み、更生プログラムを受けさせることも、その後の中毒者の彼が幸せになれば、「優しさ」になり得るが、場合によっては刑務所から出た後の彼は、優しかった友人に裏切られた、という傷を負い、さらに社会から孤立し、より深みにはまる可能性も捨てきれない。

他者の幸福を考えて行動すること、恐らくそれが優しさなのだろう。
そして、自分の考えるその人の幸福と、その人の考えるその人の幸福が相反するものだった時、「優しさ」にズレが生まれる。
ズレが生まれたときに、何が本当にその人の幸せになり得るか、他人は分かるはずは無いが、個人ができる最大限を考えた上で行動に移すこと、それは、ただ受け入れることよりもより深い「優しさ」だと自分は思う。
結果として出てきた行動が、ただ受け入れることと同じだったとしても、その配慮のプロセスを経ることには意味があることを、自分は信じたい。