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コロナ禍に今一度「仕事」について考える【完】 (4) ブルシット・ジョブのない世界

ブルシット・ジョブ(=クソどうでもいい仕事)は、何ら役に立っていない、いつ無くなっても誰も困らない、それどころか無くなったほうが世の中にはいい「仕事」で、自分の仕事がブルシット・ジョブだと思う労働者が4割近くいるということでした。

ブルシット・ジョブにはいくつかの類型があり、大企業でも中小企業でも、また公的なサービス分野でも広がっていることを見てきました。

1.なぜブルシット・ジョブの増殖が問題にされないのか

なぜブルシット・ジョブがなくならないのか、という点で、心理的な要因としての「仕事」に対する考え方に関しても注視しました。しかしながら、今まで見てきたようにブルシット・ジョブが増大しているにも拘わらず、現状をだれも問題視しておらず、またなんら手を打とうとしないのはなぜでしょうか?

その大きな理由のひとつとして、ブルシット・ジョブであろうがなかろうが、生活のためにそれをやらねばならないという労働者側の立場を考えないといけないわけです。社会のためや他人のためではなく、また自己の尊厳のためなどではなく、自分や家族の生活のためなのです。

資本主義の長い歴史の中で、私たちは富を生み出すことをしてきたわけですが、その中で確実にその効率化にもっとも注力してきました。そしてその効率化によって、私たちはより短い時間と労力で「仕事」を行うことができるようになりました。本来であれば、現代では週15時間くらいの労働で十分な富の産出ができるようになっていても不思議ではありません。それなのになぜ今でも、私たちは1週間の大方を「仕事」に振り向けなければならないのでしょうか。

より効率的に富を生み出せるにも関わらず、それが労働者レベルで起こっていない理由は何でしょうか?

それは、資本主義の基本でもありますが、株主を中心とする金融分野のステークホルダーがこの効率化による利得をすべて吸い上げているのです。つまり効率が倍になったからと言って労働者の給与は倍になっていません。それどころか現場では、効率化はそのまま人員削減に繋がる話です。この利得をすべて株主たちが吸い上げ、さらなる効率化を進める原資となっていくわけです。

一方で労働に対する心理的な要因としての、厳しい労働こそ人格を形成させる、という労働美徳説により、単純に労働時間を半分や3分の1にしたいという欲望は非常識なものにされてしまいます。それは怠け者の考えだということになるわけです。

また同時に、昨今多くの人たちが強い信念をもち社会のために安いコストで、また場合によっては全くの無償で、人々の役に立つものを制作したり、サービスの提供をしています。無償のソフトウェア(フリーウエア)などはその一例です。これらにより労働の価値についてはどうしてもある種の混乱が起こってしまいます。それは決して労働の単価を上げるものではなく下げる方向に働きがちなのです。

また、労働者の労働時間が週15時間になって、余暇となった多くの時間を自分の勉強に費やし、より政治や社会の理解を深めることで、様々な政治運動、示威行為に充てられるようになることが考えられます。為政者としては当然好ましく思わないでしょう。労働者はなるべく労働に張り付けておいたほうがはるかに楽なのです

このように考えると、「ブルシット・ジョブ=クソどうでもいい仕事」が果たしている役割をお分かり頂けるでしょう。生産やケア労働に従事するエッセンシャルワーカーの報酬を上げることなく、労働に張り付けておいて、一方でブルシット・ジョブを増産して、これまたオフィスに人を張り付けるということです。エッセンシャルな仕事は限られていますので、当然新たな仕事は、無意味で誰の役にも立たないブルシットなものにしかなりません。

これが意図されたものではないかも知れませんが、現実の姿ではないでしょうか? 私たちはこの現状に対してどのような行動が出来るのでしょうか?

2.ベーシック・インカム

デヴィッド・グレーバーも「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」の中で、ユニバーサル・ベイシック・インカム(UBI)を提唱しています。すべての人に生活のできる最低限のお金を提供する政策です。この大きな目的は、ひとつには、「仕事」と「生活」を分離させることにあります。「生活」のためにブルシット・ジョブを続けるのではなく、少しでも自分自身がやりがいを感じる、また社会や他人に貢献できる、そういった仕事を報酬を気にせず選ぶことができるわけです。

また二つ目に、生活保護や医療費の支援などの福祉に関して、すべてベイシック・インカムに統一することで、数々の補助金や補償のために働いてきた数多くの公務員の仕事がなくなります。それにより公的なサービスのコストが大幅に削減されることになり、ベーシック・インカムの費用に充てることが可能になります。また仕事のなくなった公務員はより満足度の高い仕事を探すことができます。

さらに三つ目として、日本の生産性の低さの理由の一つである中小企業を変えることができます。今までのような雇用を守るためにゾンビ企業を増殖させるような政策は不要となります。多くの時代遅れの中小企業が消えることになるかもしれませんが、べーシック・インカムのセイフティネットがあるため、勇気をもった構造改革が進められるわけです。そして従業員も新しい産業、伸びている産業への転職に挑戦できるので、産業構造の変化にも対応できます。結果として日本の生産性も向上することが見込まれます。

ベーシック・インカムは、様々な形がありうるので、制度設計も簡単ではないでしょう。また国民の理解を得るのにも長い時間がかかる可能性もあります。詳細の議論をすることはこの場ではできないですが、ブルシット・ジョブ増殖に対する対抗策として、ベーシック・インカムは、間違いなくひとつの可能性であり、さらに検討を進めることが重要だと考えます。