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「反脆弱性」講座 8 「経済・政治の専門家の予測の成績はいつも0点!」

タレブ氏は、2009年韓国でのシンポジウムに出席し、大手国際機関の人物のプレゼンテーションを聞いて、激怒したと言います。そして、演壇に駆け上がって、「スーツ姿の人物(金融機関か政府の人物、または経済学者か)が未来予想をしたときには、過去の予測を見せてもらいなさい」と言ったとのことです。

そうすれば、こういう専門家が予測があんまり得意でないこと、それどころか、政治や経済のまれな事象を予測することにかけては、専門家の予測は0点に近いなんてものじゃなく、完全に0点なのです。

タレブ氏がなぜ怒ったかというと、このいいかげんな予想が「医原病」をもたらし、リスクをとる人たちにとって有害でしかないからです。

予測はいったい誰に必要なのでしょうか? 反脆いシステムや頑健なシステムは、脆いシステムほどに正確に予測が必要ではないのです。冗長性を設けること、つまり余分な現金があって、地下室にいろいろ取引可能な品物が備蓄されていれば、どういう事象が問題につながるかを正式に予測しなくてもいいわけです。つまり、戦争、革命、地震、不況、疫病、テロなど何が起こるかわからないが、それを正確に予測する必要はないのです。

それとは逆の立場である、脆いシステム、脆い人たちは、はるかに正確に先々のことを予測しなけばならないのです。

従い、正確な予測ができない以上、大事なことは脆さをコントロールすることです。つまり、脆さと反脆さを見極めることです。この方が事象を理解するよりずっと簡単です。要は、私たちが失敗しても崩壊しない(更には崩壊を逆手にとるような)システムを築くことなのです。

さらに、 #ブラックスワン のような事象が起きた後、私たちが反省すべきなのは、その事象そのものを予測できなかったことではなく、脆さや反脆さを理解していなかったことについてなのです。「どうして私たちはこの種の事象にこれほど脆いシステムをつくってしまったのか?」を考えるべきなのです。

津波や経済危機を予見できないのは仕方がない、でも津波や経済危機に対して脆いシステムをつくっているのが罪なのです。

一方で、数千年も前から社会を危うくしてきた、人間の欲望や欠点を排除するのは難しいのです。人間は昔からそれらを排除しようとしてきましたが、何も変わっていません。私たちがすべきなのは、欲望に対して強い世界をつくることなのです。

私たちは月に人を送り込み、惑星の軌道や量子物理学の微細な効果を予測できるのに、同じくらい高度なモデルを備えた政府は、革命、危機、財政赤字、気候変動はおろか、数時間後の株式市場の終値を予測することさえできません。

私たちの世界は、ブラックスワン的な事象が予測不能で重大な影響をもたらす世界と、希少な事象が深刻でない世界(希少な事象が予測可能であるため、または重大な影響を及ぼさないため)に分けられます。

何度も言いますが、ブラックスワンの世界のランダム性は手に負えません。どれだけ高度な統計学やリスク管理手法をつかっても到達できない知識の限界があります。

それなのに、昨今、ブラックスワンという考え方が発見されたため、 #カオス理論 や、 #複雑性理論 や、#カタストロフィー理論 や、 #フラクタル理論 などから複雑なモデルをつくりだし、ブラックスワンを予測したり、予測可能化したりしようとしています。

しかし、やっぱり答えは単純で、データもモデルも少ないほどいいのです。いまこそ(できもしない)予測を忘れて、脆さ・反脆さに目をむかるべきなのです。