【要約】ブラック・スワン 第9章 お遊びの誤り、またの名をオタクの不確実性

ここでデブのトニーが登場します。ネロの友達です。トニーは楽しい性格で、成功している非オタクです。問題はひとつだけ体重です。

トニーは苦も無く楽しんでお金を儲ける驚くべき習慣を身に着けています。トニーのモットーは「カモを見つけろ」。

それに対してドクター・ジョンは、几帳面で筋が通っていて紳士的、仕事に真剣です。元エンジニアで今は保険会社のアクチュアリをしています。

ここでタレブが二人に同じ質問します(思考実験です)。

タレブ:「公平なコインがある。99回投げたら全部表だった。次に投げたら裏が出る確率は?」

これに対して、ドクター・ジョンは、「くだらない質問だな。もちろん半分だ。オッズは50%で、一回一回結果は独立だって仮定したよね」

これに対して、デブのトニーは、「もちろん1%もないよ」

タレブ:「どうして? 公平なコインって言ったでしょ。つまり確率は毎回50%ってことだよ」

トニー:「てめえいい加減なこと言うな。99回投げて99回表が出るようなコインは細工がしてあるんだ」

タレブ:「でもドクター・ジョンは50%だって言ってるよ」

トニー:「銀行にいたころこういうオタクがわんさかいたよ。こいつらトロすぎる。ちょろいぜ。簡単にだませるぞ」

ドクター・ジョンは完全に与えられた枠の中でものを考えます。それに対してデブのトニーはほとんど完全に枠の外です。なお、ここでオタクと言うのは、どうしようもなく枠の中でしかものを考えられない連中のことを言っています。

ドクター・ジョンとデブのトニーの答えは、それぞれプラトン的知識と非プラトン的知識と呼ぶ2種類の知識に根ざしています。ドクター・ジョンみたいな人たちは、月並みの国の外で黒い白鳥を起こすことがあります。彼らの頭はがちがちに固まっています。彼らの一番ひどい幻想をタレブは「お遊びの誤り」と呼んでいると言っています。私たちが現実の生活で出くわす不確実性の性質は、試験やゲームに出てくる消毒された不確実性とほとんど関係はありません。

タレブは、シンクタンクから招待を受けたシンポジウムに参加した話を第1部の終わりのここで紹介します。タレブは、純粋に内省的に、誠実な頭でランダム性を扱えるのは、軍関係の人だとつくづく思ったと言います。最近、黒い白鳥の考え方は軍関係者の間で広くいきわっており、「未知の未知」と言う言葉をつかっています(対語は、「既知の未知」)。

このシンポジウムにプロのギャンブラーを率いている人がいたと言います。タレブは、「カジノは私が知っている中で、確率がわかっていて、 #ガウス分布 (つまりベル型カーブ)に従い計算のできる唯一の場所です」と言う文章を準備していたと言います。

タレブの考えでは、ギャンブルは消毒されて飼いならされた不確実性だと言います。カジノではルールがわかっているからオッズが計算できるし、あそこで出くわす不確実性は、弱い種類で、月並みの国に属します。

それなのに、私たちは自然に自動的に、偶然をああいうプラトン化したゲームに結び付けます。

しかし、現実の日常ではオッズはわからないし、不確実性がどこから来るのかもわかりません。さらに「計量可能」なリスクなんて現実の日常にはほとんど関係がないわけです。

にもかかわらず、カジノの外の世界では、いまだに不確実性や確率をギャンブルの例で学ぼうとしているわけです。