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ひとの哀愁(高橋源一郎 『ジョンレノン対火星人』を読んで)

高橋源一郎さんの小説はいくつか読んだことがあるが、その中でも今回取り上げた『ジョンレノン対火星人』など、初期の作品はとくに好きだ。

『ジョンレノン対火星人』は高橋源一郎さんの最初の小説だが、正直あらすじを説明するのもなかなか難しい作品である。。

基本的には全編にわたって「暴力」と「エロ」と「無意味さ」に覆い尽くされているので、好みは分かれるかもしれない。

いわゆる低俗で、卑小で、多くの場合に忌避されるべき要素が、この作品にはふんだんに盛り込まれている。

ただ僕はいつもこの作品を読むと「気持ちが軽くなって、心身に活力が戻ってくる」のを感じる。

最初読んだ時にはそれがなぜだがよくわからなかったが、思うにこの作品には「人間の馬鹿馬鹿しいところや卑小なところも含めて全て丸ごと肯定してやろう」という哀愁めいた優しさを感じるのである。

そして、それは僕が学生時代からずっと大切にしてきたテーマでもある。

あくまでこれは僕の私見だが、何か立派なことをしようとしり、立派な人に向き合うと肩の力を入れなければならないが、それと同じくらい肩の力を抜いてくれるものも、生きていくためには大切に思える。

この作品において「義」を「性交」と同義にしている場面もあるが、それが当人の心身の回復に寄与するものなら否定されるべきではないと思う。

ともすると通俗的な議論になってしまうかもしれないが、僕は啓蒙よりも、人間の卑小なところも含めて優しい眼差しを送っているような作品に出会うと、いつも優しい気持ちになるのである。



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