歯医者の風景

カリエスの真実②

どうも勤務歯科医師のかずぴんです。

ご覧いただきありがとうございます。

今日は、以前に書いたカリエスの真実の続編です。

前回このレントゲンを載せましたが、この画像に含まれるあまり知られていない事実を話していきます。

前回、旧来の虫歯発生論の矛盾点を、私の私見から指摘しました。今日は、論拠について自分なりの考えを述べていきます。

私の提唱する理論は

「カリエスの発生主因は、歯牙に加わるあらゆる破壊的力がもたらす微小構造の破壊、即ちマイクロクラックへのう蝕病原細菌の侵入感染である。」

というものです。

う蝕病原細菌体は約1マイクロメートル程度の大きさと言われ、象牙細管のエナメル側での径は約1マイクロメートル程度、そこから歯髄に向かい径が拡大していきます。つまり歯牙の中心側では象牙細管は細菌の侵入に十分な広さをもつ構造である、といえます。

この状況において、もし、何らかの理由でエナメル質が破壊され細菌感染に十分な径をもつ感染経路が確立すれば容易に歯牙内部に細菌感染が成立します。このエナメル質を破壊し象牙細管を露出させ、細菌感染を引き起こす事態が、これまで言われてきた歯牙表層からの脱灰により進行するのではなく、力により生じると考えるのが私の立場です。

力の発生は特に指定せず、物理的な外力すべてと考えます。外傷、強大な力の生じる歯ぎしり食いしばりなどの悪習慣、箸噛み、大工仕事で釘を加える、などあらゆる状態を想定します。

論より証拠、

別症例を載せます。


これも、あるカリエスの症例です。特記すべきことのない、一般的な症例と考えてください。偶然ですが、前述した症例と同じく左上4が病変です。お分かりになりますか。

別角度から見てみます。

このように示すと、左上4遠心に垂直性にクラックが生じ、クラックの歯頚側で褐色の病変の形成を確認できます。しかし、普段からこの病態を想定し診査を行わないと発見は難しいと考えます。このように発生するカリエスは咬合面の構造を破壊するほどに進行し発見される場合は治療も容易ではないと思われます。

この後患者に上記の状態を写真で明示し同意のもと治療介入していきます。

MIコンセプトを心がけ介入します。充填形成途中の状態を示しました。ここまで切削すると、象牙質に及ぶカリエスははっきり視認できます。そして、当然ながら病変の底部には、病変に連なるクラックが生じているわけです。

左上3の遠心クラックおよびC1、左上4近心にもクラックの発生を確認できますが、この時点では拡大鏡視野においても明らかなカリエスを形成しておらず介入はしていません。この患者の口腔においては左側に力が発生しやすい状況があると想像します。

また、証拠を示します。上記2症例とは別症例です。

メンテナンス来院の患者です。写真の通り、歯肉に炎症所見もなく、清掃良好です。しかし、左上1の遠心に水平方向へのクラックを認め、透照診においてクラックの走行位置から歯頚部にかけて黒変の構造が存在します。象牙質に達するカリエスの発生を確認できます。この症例は即日無麻酔に充填対応しました。

このようなケースに遭遇したとき、あなたは、患者に清掃不良を原因とするカリエスであると説明しますか。矛盾しますよね。

私の提唱する力による歯の破壊、細菌感染論は、このような清掃良好の患者においても、しかもメンテナンス管理中であってもカリエスが発生しうることを矛盾なく説明できます。

余談ですが、この写真の歯列不正すらも、歯牙に緩徐に加わる力が病的矯正力となり歯牙移動を生じたと考えると矛盾なく病態の成立を説明できると考えます。うつ伏せ寝などの悪習慣などがこのケースでは想定されます。

これが、新しい虫歯発生論です。

これまでの理論をさらに進め、

このようなケースにおいても、術前から右上に連続した歯牙破壊の形跡(治療痕)、垂直性骨吸収像、歯髄の狭窄などの状況証拠から右側が特異的に破壊されている状況であるという分析、そして、無麻酔に右上4が治療可能であるという結論を導き出します。

世界に、この右上4のカリエスを無麻酔に治療可能であると判断し実際に実施可能である歯科医師は多くはないと自負しています。

もちろん、患者には術前に十分な説明を行いますし、治療操作も愛護的に慎重に行います。MIコンセプトを最も基本とします。

今後、さらにこの理論の先について書いていきます。

新しいカリオロジーを考案し、さらに考察を進め、患者ごとの固有の口腔破壊の状態を分析することで患者個別のカリエス発生の傾向を導き出し、過去現在未来をある程度推測していく考え方

私は患者の持つ口腔破壊の歴史を「オーラルヒストリー」と呼称していますが、

「オーラルヒストリーに基づく歯科治療」

を実践しています。

さらに、オーラルヒストリーを導き出すための情報を口腔内所見のみならず、患者の顔面形態、姿勢、生活習慣、などあらゆる角度から分析する手法を考案しています。

口腔内を診査する前の段階において、ある程度口腔内の状態を想定することが可能です。

今日はここまで、

ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?