見出し画像

矢崎エナジーシステム 富士工場編

都市の血管や神経として、私たちの生活を支える電線。
外を歩けば必ず目にしているはずなのに、景色に溶け込んでいるからその存在に気づかない、いわば「見えているのに見ていない」ものの代表でもあります。

このブログでは、電線アンバサダーである筆者が電線のふるさとである全国の工場や会社を訪れ、電線が作られる様子を取材し、記事を通して電線の魅力を発信します。

取材にご協力いただいた富士工場の皆さんです!

今回は、静岡県にある矢崎エナジーシステム株式会社さんの富士工場、沼津製作所を取材しました。アツアツの溶銅炉や電線工場の様子、つくられている電線のことなど、前後編でお送りします!

富士山のふもとに電線のまち

富士工場は192,441平方メートルもの広さがあり、家の中に配線されているVVF(ビニル絶縁ビニルシース平形ケーブル)の製造をはじめ、電線になる前の銅を溶かすところから出荷までのさまざまな工程を自社の工場で完結させています。
沼津製作所は、最新鋭の電線製造機械とオペレーションを備えた工場で、敷地は東京ドームの2.7倍にあたる126,308平方メートルとこれまた広大です。

人生の中でも仕事との向き合い方は、働き方や会社のスタイルによってさまざまです。
今回訪れた矢崎エナジーシステム株式会社は、自動車の中に張り巡らされたワイヤハーネスやドライブレコーダーなどを作る矢崎総業グループの傘下にあり、矢崎総業グループ全体で、仕事と暮らしがセットになるような働き方に取り組んでいます。

閑静な電線のまち

富士工場の近くには、本社施設、単身者向けの社員寮、保育園、プール、海外赴任時に語学研修を受けるトレーニングセンターがある「Y-CITY」があり、海外へ移転した工場跡地につくられた「Y-TOWN御殿場」には、社員寮や家族社宅をはじめ、富士山が望めるジムにレストランなど、ひとつの街のような福利厚生施設があります。
家族がこの会社で働いているのをきっかけに入社する人や、社員同士で新しく家族を持つ人も少なくないそう。
富士山のふもとには、電線のまちがあるのです。

銅を溶かす

23本のバーナーで銅を溶かします

標高461.1メートルと、小高い山と同じくらいの高さに位置する富士工場には、電線工場の中でもめずらしく、銅を溶かすための溶解炉があります。溶かされた銅は、荒引線という直径8ミリの銅線に加工され、電線の真ん中で電気を通す「導体」になるのです。銅が荒引線になるまでの工程を見てみましょう!

火の色を見る

あたためられる前の電気銅たち

溶銅はまず「電気銅」という銅板を熱して柔らかくするところからスタートします。溶解炉は地上22メートルの高さに入り口があり、電気銅が炉に入ると「ガシャン」という大きな音がして、そばにいる人は揺れを感じるほど。

表面が酸化した銅

熱を入れた後の銅は表面が酸化して、真っ黒でゴツゴツしていて溶岩のかけらのようです。

磨かれたピカピカの銅

磨きをかけると、銅ならではの色と艶が引き出され、美しく整った組織が見えるのです。
ちなみに銅には「微量金属作用」という抗菌作用があって、水回りなどに銅製品を置いておくと菌が増えにくいのだそう。花瓶に花を生けるとき、10円玉を花瓶に沈めておくとお花の持ちもすこし良くなりますよ。ちょっと脱線しました。

溶けた銅の温度はおよそ1200度。近くにいるだけで、冬でも熱さを感じます。溶解炉を管理する仕事をしているお二人にお話を伺いました。

勝間田さん

「電気銅は一枚あたりおよそ100キログラムで、一度に30から35枚ずつ溶解炉に投入します。「ガシャン」という音は3トン近い銅が炉の中へ落下するときの音なんです。メーカーによって厚さや形に少しずつ違いがあるため、その日によって、炉の様子にも違いが出てきます。火の温度や色など、モニターで数値化されたものも、そうでないものも含めて、たくさんの情報を目や耳、全身を使って受け取り、炉の調整をするのが私たちの仕事です。」

小森さん

「電線に使う銅には、純度の高さが欠かせません。しかし、溶かしはじめた段階の電気銅には、不純物が混ざっていることもあります。
銅に混ざった不純物を取り除くため、3〜4メートルの長い棒の先に板がついたような道具を使って炉のそばに寄ることもあります。火に近づくときには消防士が着る銀色の防火コートを羽織ります。夏は火のそばに寄ると痛いほど暑いんですよ。」

こうして取材させてもらっている間、お二人ともこまめにモニターを確認しています。火のそばで働くのは、緊張感がありそうです。

左手のモニター室から炉の様子をチェックします

勝間田さん「仕事のうち一番緊張するのは、炉をあたためて動かし始めるタイミングですね。一度うまく動き始めればそのまま流れていきますが、炉をあたためるのにも15時間かかるんです。無事にキャスティングバーが出てくると、本当にほっとします。新人の頃に失敗して、爆発させてしまったこともあります。この仕事を始めて長いですが、今もかなり緊張します。」

同じく溶銅を担当する小森さんは、まったく緊張しないそう。
仕事の内容が同じでも、作業中の感覚は人それぞれです。ものを作るということは、ものづくりに慣れながら、ものを作るための身体をつくることなのかもしれません。

すべての電線は荒引線に通ず

炉からでできたばかりの銅

こうして溶かされた銅は、トロトロに溶けてまぶしく見えるほど!

キャストバーはこの装置を通って荒引線になります

溶解炉から保持炉に移され、900度の高温で出てきたキャストバーは、ロールで圧縮・成型され、およそ40度まで冷まされながら時速90メートルの速さで引っ張られます。

ずらりと並んだ荒引線!圧巻です!

こうして出来たのがピカピカの「荒引線」。荒引線の直径は8ミリメートル。太いものも、細いものも、すべての電線はこの荒引線から始まるのです。

富士工場では村田さんにガイドをしていただきました!ありがとうございます!

街のさまざまな場所で使われている電線も、こんなに美しい金属から作られているのはなかなか知られていません。しかも、銅が荒引線になるまでこんな大変な道のりがあるなんて。
さあ、この荒引線はどのように電線になっていくのでしょう。次回に続きます!

天井に吸い上げられていく荒引線…!

INTERVIEW DATE:2022/12/15

”電線のヒミツ”を探しに行こう!DISCOVERY DENSEN
電線にまつわる「?」や「!」をお届け!石山蓮華の電線ノート


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?