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まずは、学生が答えられる質問を。それが、寄り添うことへの第一歩。

学校法人 電波学園
東海工業専門学校金山校 建設学部 統括科長
荒居 秀征 先生

クラス全員が同じように理解するのは難しい。意欲のある学生にはしっかり応えたい。

東海工業専門学校建築設備科、建築研究科(現:建築ライセンス科)を卒業後、設備系の会社で5年間勤務。これからの暮らしについて考え始めたころ、母校から声がかかった。
「業界的にもかなり忙しい時代で、夜も遅いし休日出勤も多く、自分の時間が取れないことについて悩み始めていました。ちょうどその頃、子供もできて、転職も考え始めたタイミングで、母校から『教員にならないか』とお声がけいただき、チャレンジしてみることにしました。
入職した当初は、学生たちとも年齢的にそれほど離れていませんでしたから、自分たちの学生時代とギャップがなく、やりやすかったですね。ただ、クラスの中には、意欲の高い学生もいれば、そうでない学生もいます。まずは、意欲の高い学生の期待に応えるために、ひたすら伝えるべきことはしっかり伝えようと授業に取り組んでいました。意欲の低い学生には、現場に出てからかわいがってもらえるように、最低限の用語が理解できるレベルを目標にしていました」。

考えられないような“やんちゃ”をしでかす学生には、もう笑うしかなかった。

「ホールで学生と喋っている時、急にマジな顔で『先生、知ってますか?』と聞いてきて、何のことかと思ってると、『天井見てください…』と。見上げると、パッと見、何か分からなかったんですが、よく見ると天井をデジカメで撮ってカラー出力した紙が貼ってある。感心しましたね。それまで、まったく気づきませんでした。『なんで、こんなことになったのか?』と聞くと、『いやぁ、ジャンプして穴開けたら、キノコが出てくるかと…』怒るより先に、笑ってしまいましたね。結局怒るんですが(笑)」。
このあと、実習室にある天井材できれいに修復したと言う。

何かしら発信してくれる子は受け止めればいいが、話してくれない子には、こちらから拡げていかないと、気持ちの輪に入ってきてくれない。

「エレベータを止めたり、裸で懸垂したり、奇声を上げて弁当を買いに行ったり、やんちゃだけども発信力のある子は、受け止めてあげることで前に進めていけます。でも、自ら話しかけてこない子に対しては、こちらから気持ちの輪を拡げていってあげないとポツンとしてしまう。まずは、答えられることを聞いてあげる。たとえば、製図の課題が溜まってるなと分かっていても、あえて『何か抱えてることある?』と尋ねるんです。そうすると、ちょっとずつ入ってきてくれる。根気よく接していく中で個を知り、何がその学生にとっての困難なのか、何に消化不良を起こしているのかを、一気に畳み掛けるのではなく、雑談の中で相手が入ってこれる分を少しずつ拡げていくことが、僕の性格にも合っている。そうでないと、それぞれに対して、どう接していいか分からないんです」。

全体の授業の中では、まったく聞けないし、理解できないが、個別に教えていくと理解できる学生が増えているように感じる。

現在はクラスを持たない立場の中、他の先生方から「個別指導にかかる負担が増しているように感じる」と聞く。
「全体の授業の中では、漠然と授業を眺めているような感じで、まったく聞けていない。個別に教えていくと理解できる。そんな声を先生方から聞くことが多くなりました。確かに、10年前と比べても、集団行動の機会が減り、個の環境というか空間というか…。そんな中で過ごすことが多くなっている世代では、個別の対応が強く求められ、それにかなりの負担がかかる傾向は否めないと思います。今後、この傾向が加速していけば、先生方のチカラ技で乗り切る以外の『体系的な仕組み』が必要になってくると感じています」。

どれだけ一緒の時間を過ごせるか、どれだけ一緒に楽しめるか。寄り添えるかどうかは、そこにかかっている。

「自分自身が、あまり積極的に人に対してコミットしていくタイプではなかったので、一見控えめな感じの学生の気持ちもなんとなくつかめます。どれだけ立ち入れるかが難しい時代ではありますけど、先程述べたように、少しずつ少しずつ関わっていく。そして、自分自身もその関わりを楽しむことができたら、学生にとっても自分にとっても新しい環境が芽生え始めていくんだと思います。挨拶一つにしても、入学時には大抵の子はできません。それが、毎日毎日『ウザイなぁ』と思われながらも繰り返しているうちに、なんとなくできるようになってくる。そうなれば、挨拶無しではなんか気持ち悪くなってくる。最初は距離があっても、地道に根気よく関わっていけば、必ずこころの輪が重なるところが見つかると信じていきたいですね」。

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