おはよう真夜中さんの新曲を聴いて、バーチャルシンガーが拓くメタバースの可能性を感じた話
私たちが日常を過ごす現実世界とは異なる次元に、メタバースを代表とする、バーチャルな世界が広がっています。そこで活躍する新たな音楽の担い手、バーチャルシンガーたちが、音楽文化に革新をもたらしつつあります。
その中でも注目すべき存在の1人が、おはよう真夜中さんです。「貴方の夜に寄り添う歌を歌いたい」というコンセプトのもと、cluster、REALITY、YouTubeなど様々なプラットフォームで活動し、オリジナル曲の制作や歌ってみた動画の投稿、さらにはバーチャルライブやミュージカルの開催まで、幅広い表現活動を展開しています。
そんなおはよう真夜中さんは2024年7月7日、新たに「dancing stars」という楽曲をリリースされました。この曲を聴きながら、バーチャルシンガーたちがもたらす新しい音楽文化と、メタバースが生み出す人々の繋がりについて考えていきたいと思います。
インターネットという新しいプラットフォームが切り開いた新しい音楽文化
インターネットという新しいプラットフォームが生まれることで、音楽文化は急速に進化を遂げてきました。まずは、この進化の過程を振り返っていきます。
今回の主題である、バーチャルシンガーという新しいアーティストの存在の起源には、インターネット上で流行した「歌ってみた」というカルチャーがあると思います。
「歌ってみた」は、2000年代中盤に日本で生まれたインターネット上の文化で、当初は趣味で楽曲をカバーする文化でした。このように表現すると目新しさを感じにられないもしれません。ですが、私はそれを大きな革新だったと思います。
それまでは、多くの人に歌声を届けるにはテレビやラジオといったマスメディアを使うしかありませんでした。当然、多くの場合は物理的な肉体を晒す必要があったでしょう。そうすると、歌声だけでなく、ルックスや、どの芸能事務所に所属しているかなど、複合的な要素で評価されていたことは間違いでしょう。
一方、歌ってみたでは、自分のルックスなどを出さずに、歌だけで勝負する事が可能になりました。そして、インターネットの力により、多くの人にその歌を届けることも可能になったのです。
「ボーカロイド」と「ニコニコ動画」による音楽文化の発展
そして、歌ってみたカルチャーと密接な関係があるのが、「ボーカロイド」という新しい表現手法と、「ニコニコ動画」というプラットフォームの存在です。
ボーカロイドとして登場した初音ミクが音楽の表現手法を革新したことは、説明不要でしょう。初音ミクは単なる音声合成ソフトウェア、新しい技術という枠を超えて、新しい音楽文化を生み出しました。その存在は、誰もが音楽クリエイターになれる可能性を示し、音楽制作の民主化に大きく貢献したのは周知の通りです。
そして、ボーカロイドを使って作曲された多くの楽曲は「ニコニコ動画」に投稿され、人気を博しました。
その楽曲を歌い手が歌うことで、相乗効果を生み出し、これらの文化は大きく発展していったのです。
そんなカルチャーから、ボカロPからプロの作曲家へ、歌い手からプロの歌手へ転身する人も多く出てきました。
バーチャルパフォーマーによる新たな表現の可能性
次に登場したのは、YouTubeなどのプラットフォームで活躍するバーチャルシンガー(バーチャルパフォーマー、バーチャルアイドルとも呼ばれる)の存在です。星街すいせいさんや、花譜さんなど、多くの有名なアーティストがいます。
これらのアーティストは、3Dモデルやモーションキャプチャ技術を駆使した新しいパフォーマンスを実現しました。バーチャルだからこそ現実世界では考えられないような表現もできます。そういう意味では、バーチャルな存在でありながら、リアルな感動を届けられる新しい表現者と言えるでしょう。
そんなバーチャルパフォーマーの中でも、メタバース空間を中心に活躍するバーチャルアーティスト、バーチャルシンガーがいらっしゃいます。今回、この記事を書くきっかけになったおはよう真夜中さんはその1人です。
メタバース空間では、従来の2D画面の制約を超えて、観客と共に3D空間を共有しながらパフォーマンスを行うことができます。これにより、アーティストと観客の間にこれまでにない一体感が生まれ、新たな音楽表現、そして新たな音楽体験が可能なのです。
このように、バーチャルアーティストの進化は、テクノロジーの進歩だけでなく、新しい才能の発掘と成長の場の変遷とも密接に結びついているのです。メタバースは、次世代の音楽シーンを担う才能たちの登竜門となる可能性を秘めています。
次世代の音楽プラットフォームとしての「メタバース」
あらゆるところで繰り返し書いていますが、私はメタバースを次世代のプラットフォームだと考えています。そして、ニコニコ動画も当時から見ると、次世代のプラットフォームであったことは間違いありません。ニコニコ動画から多くの才能が見つかり、活動の場をさらに広げていったのは先ほど述べた通りです。
さらに、YouTubeという新しいプラットフォームから生まれたバーチャルYouTuberという文化から、YouTubeで活躍するバーチャルシンガー、バーチャルアイドルが生まれました。
それらのプラットフォームと同様に、メタバースという新しいプラットフォームは新たな才能の宝庫となる可能性を秘めています。物理的な制約にとらわれないメタバースでは、他のプラットフォームと同様に、これまで埋もれていた才能が発見され、その才能を開花させる可能性を持っていると思うのです。
そして、メタバースは、新たな才能の発掘だけではありません。音楽表現における新たな地平を切り開いています。このバーチャルな空間は、アーティストたちに可能性と自由をもたらしています。
というのも、メタバースにおける音楽表現は、現実世界の物理的制約から解放されています。バーチャル空間でのパフォーマンスでは、現実では難しい表現もできます。
これまでは、どうしても物理世界で、自分自身の物理肉体を晒し、物理世界の制約に縛られた表現をすることしかできませんでした。しかし、メタバースはこの制約を取り払い、技術力と熱意次第では無限の可能性を持った表現活動ができる。
重力を無視した動きもできますし、アバターを使えば見た目を変えることができます。さらに、パフォーマンス中に簡単に姿を変えることもできますよね。あらゆる物理的な制約に縛られない、人間の根幹である魂で活動し、自分の表現に集中できる。それはメタバースの利点です。
そして、魂で活動できるのは、観客も変わりません。ここまではバーチャルな世界で活躍するアーティストにフォーカスしてお話ししてきましたが、私はこの世界で無理になんらかのアーティストや活動者になる必要はないと思います。単に観客として参加することも、この世界の過ごし方だと思います。
ただ、それらに共通するのは、現実世界での制約(例えば、地理的な制約や時間的な制約、物理的な肉体の制約)から解放され、世界中のどこにいても、好きな時間に活動することができます。
このメタバースという空間で過ごす全ての人々は、物理的な肉体から解放された、自分を構成する最もプリミティブな存在である魂で活動することができるのです。
魂で繋がるメタバースが生み出す新しい音楽体験
多くの制約から解放されることで、現実世界という次元とは違う、バーチャル世界という次元で、次元を越えて人々は繋がることができます。これは、従来の音楽体験や人間関係とは全く異なる新しい形の交流を生み出しています。
そんな魂の世界で、この世界で暮らす多くの人々の魂を揺さぶるのが、メタバースで活躍するすべてのアーティストであり、狭い表現をするとメタバースで活躍するバーチャルシンガーなのです。彼らの音楽は、物理的な制約を超えて、直接観客の魂に響きかけます。
”ゆらめく魂を持ち寄って今この瞬間を共に同じ音楽で身体を揺らしていることの不思議”。この感覚こそが、メタバースにおける音楽体験の本質を表しているのかもしれません。
メタバースは音楽文化においても大きな可能性を秘めています。新たな才能を発掘できる可能性もそうですし、新たな表現手法の可能性、そして物理的制約から解放されるからこそできるあらゆる創造の可能性。
これまでの技術の進歩と、新しいプラットフォームの誕生が私たちの音楽体験を変え、新しい才能を生みだしてきたように、メタバースもまた、私たちの音楽体験を革新してくれることでしょう。
そして、そんなメタバースで活躍するバーチャルシンガーは、それだけ多くの可能性を秘めていると思うのです。そういう意味では、バーチャルシンガーは、単なる音楽の発信者ではないのかもしれません。
私は、この歌詞に、メタバースという新しい空間で生まれる魂の繋がりの可能性と、それがずっと続いて欲しいという希望を感じました。
この先、バーチャルに関連するあらゆるxR技術が発展し、もしくは、そんなレベルではない新しい表現手法が生まれて、そこに、現在メタバースで活躍しているあらゆる表現者、そしてバーチャルシンガーが絡み合う時が来るでしょう。その時にどんな新しい芸術表現が生まれるて、私たちの魂をどう震わせてくれるか。
メタバースとバーチャルシンガーがもたらす新しい音楽文化と、それをきっかけに人々が魂で繋がる時代は、まだ始まったばかりで、そこには無限の可能性があります。
この新しい技術による革新は、人類の限界を外し、本来の創造性を見せてくれる。それが人類にどんな進化をもたらしてくれるか、私はそんな未来が楽しみでなりません。
ライター:咲文でんこ
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