ひとくちレビュー 『灰原くんの強くて青春ニューゲーム1』(著:雨宮和希先生、イラスト:吟先生)
灰色の青春から虹色の青春へ。
22歳から17歳へバック・トゥ・ザ・ユース!
灰色だった青春時代をやり直したいと願う主人公、灰原くんが知識と経験をそのままに、高校生活もう一回やり直すお話。題して、虹色青春計画!
なのだけど、やり直す前の大学時代の実技スペックが高いのなんの!
料理が上手くて、歌も上手くて、高校時代から引き続きバスケも鍛えていて……これだけでも虹色の大学時代にはならなかったのか!!
……と、ちょっと不思議に思ったけど、内面に大きな劣等感というか青春時代の傷を抱えていたようで。さらに、高校時代に好きだった子に未練があると!
これはあれだよね、青春をやり直して彼女にアピールするんだよね?
それとも、本命ヒロインである陽花里の方からアタックしてもらえるように、立ち回るのかな?
さっそく、狙い目の青春純愛が来る……(ドキドキ)
(読了後)……かなり慎重な話運びだったよ!(ソワソワ)
やはり1巻目だからなのか、読者への説明不足にならないように、人間関係と世界観の構築が優先されているのかもしれません。
全体的には、ラブコメのラブ色はちょっとひかえめ。青春友情に重点を置き、ところどころで軽めの恋愛が展開された感じ。あえて一つを強調するならば、灰原くんが「青春をやり直したい」と願った理由の一つでもある、かつて憧れの存在だった竜也との友情関係がメイン、ともいえるかな。
とはいえ、グループの男友達、ヒロインの皆さま、ともにいい子たちばかりなので、僕みたいな大人の読者からしたら、ちょっと高めのところから俯瞰しつつ、学生たちの微笑ましいトークを楽しめた。ヒロインたちは、どれも学内でモテそうな、可愛らしい高校生といった感じで期待は高まる。
みんなで外に遊びに行ったり、一緒に勉強をする場面は、なんというか青春の一ページ感がちゃんと出ていてほっこり! 読んでいて、とっても心地がいい!
このあたりは、さすがHJ小説大賞2020を受賞した作品。描写や展開、キャラの掛け合いは素晴らしいと思う。
※読了後、気になって先生の他の著作『英雄と魔女の転生ラブコメ』も読んでみたけど、(物語の高揚感はともかく)やはり文章はとても良かった。
この物語の一番のキモは、「無双しているけど、灰原くんが思い描いたとおりに事が上手く運ぶとは限らない」というところだと思う。
バスケの一対一のシーンでも、経験の差(しかも相手にとっては初対戦)から竜也を圧倒するわけだけど、その結果が灰原くんの狙い通りの展開にはならない。無事に勝利を収めてバスケっ子ヒロイン詩への好感度はぐっと上がったけど、負けた竜也の心境は複雑に。
バイトでは、無自覚にもさりげなくアピールして、もう一人のヒロインである唯乃と仲良くなっている気もする。一方、メインヒロインの陽花里との距離感は、1巻ではあまり描かれていないから、イマイチわからない。(いい感じの会話はあるけれど!)
灰原くんのこの「青春やり直し」は、いわゆる過去と全く同じ世界線にタイムリープしたわけではなさそうで、過去の経験をもとに、彼は登場人物たちの行動を完璧には予測できない。
だから、彼は自分に悪いところがあったら、なんとかしようと努力するし、自分に不手際がないか、再び灰色の青春に転落しないかどうか、恐れたりもする。
考えてみれば当然だけど、強くてニューゲームとはいえ、内面が強くなったわけではないので、自分の納得できる人生を歩むためには、ただ外側だけ強くなってもあまり意味がないんだなぁ、と妙に納得してしまった。
なかでも、中間試験で二位に圧倒的な差をつけて首位をとっても、浮かない顔をしていたのがとても象徴的なシーンだった。彼は「俺Tsueee」して女の子にモテまくりたいとか、学校で大活躍したいとか、そういうことは望んでいないのだ、と。
「ただ強くても、意味がない」
ここが最初の予想とはちょっと違った驚きがあった。
タイトルの「強くて青春ニューゲーム」というのはあくまで「知識と経験をそのままにやり直しをする」という意味合いで使われているだけで、灰原くんは”ゲーム感覚”ではなくて”本気”で自分の青春をやり直して、自身の望む虹色の青春を手に入れたいと願っている。
実際に、雨宮先生のあとがきで、改題前の当初タイトルは「灰色少年の虹色青春計画」だったと知って、なるほど、と思った。
彼は強くてニューゲームをしている"完璧"な自分を演じたいわけではないのだ。そんなことを続けていたら、きっと疲れてしまうし、いつかは破綻してしまう。
ありのままの、とまでは言わないものの、自分をさらけ出して、理解してもらって、素敵な仲間たちと共に青春を駆け抜けたいと思っている。
これは、そのための計画なのだ。
だから終盤で灰原くんが落ち込んだ時の重苦しい雰囲気と、それを打開するために彼が取った勇気ある行動は、「強くてニューゲーム」の印象に反して、共感できるし、彼らの未来が一歩虹色に近づいたような気がした。
なかなかどうして現実的なオチが来たなぁと、すとんと腑に落ちた。
そんなわけで、仲間たちと相互理解を深めて、一つの大きな壁を乗り越えた灰原くんの虹色青春計画の第一章、面白かったです!
自分の求めていた「ラブコメ」としてみるならば、この1巻だけではちゃんとした評価は難しいかもしれない。
けれど! この高いラノベ表現力をもって、次巻でヒロインたちとの関係(ラブコメのラブの部分)を進展してくれるならば、きっと太鼓判をポンっと押せる気がする!
だから、もうちょっと続きが読みたい。
それに、無視できない事案が一つ!
幼馴染の美織が灰原くんの青春アドバイザーとして登場してくるけど、彼女が4人目のヒロインなのかどうか掴み切れず……幼馴染がどういった立ち位置にいるのか、かなーり気になる!
「がんばっているあなたも好きだけど、本当のあなたも好き」って……美織さん、それヒロインの台詞ではないでしょうか?告白と受け取ってもよろしいでしょうか?
そんなこと言われたら(灰原くんはわかりませんが、読者は)勘違いしちゃいますよ。勘違いしても良いですか? 良いよね? え、ダメ? 単なる灰原君のサポート役? そっかぁ……になりそうだから、解釈を早まらないように、大人しく次巻を待ちます!
ヒロインたちとの恋愛模様を、次巻で読めたら嬉しいな。
そう、願いを込めて。
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