「あったかもしれない結末」


「善と悪というのは同じものだね?」
「そうだ」
「では人殺しも正義なのだね?」
「そうだ」
「そうだそうだってやる気があるのかね君は」
「そうだ」
「ありゃ壊れちまった。」
「そうだ」
「うるさい!だまれ」
「そうだ」
「質問させてくれたまえ」
「君の言う通りだともソクラテス」
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ソクラテスは死んだ。孤独死であった。


この作品が収録されているのは「短い短い小説」です。

短い短い小説たちだけを集めた小説集。1分で読めること請け合い。10秒で読めるものもあります。ピリリと聞いた皮肉と諧謔、そしてブラックユーモアは読むマリファナ、見る抗鬱剤。                  筒井康隆、江戸川乱歩、Oヘンリー、オスカーワイルドオマージュ作品集。どれがどの作家をオーマジュしているか。当てられたあなたは超一流。

計17作品収録 25000字

恐るべき幸福/結構おじさん/コンクリートはスバラシイ/美しい殺人/美人の本懐/キッス/真面目な強盗団/応酬/幸福/騒音はどこだ/日本人と銃/楽しみ/彼と僕との相違点/ピエロと月と過ごした夜/お決まりの話/自由とは/アマチュア/切り返し

お楽しみあれ。



短い短い小説集


「恐るべき幸福」
ある日ある時ある場所に一人の悲観主義者がおったそうだ。しかしこの男、たいして不幸な生い立ちでもないくせにふさぎこんでいて、自分の不幸を自慢にしていた。そして自分は不幸でございという顔をしながら腹の底では幸福者を蔑んでいた。そんなクソったれの悲観主義者の前に神が現れてこう言った。
「おまえはかわいそうだ。幸福者にしてやろう」
「いいえ神さま、結構です。わたくしは不幸でいたいのです」
「それではあまりに不憫で寝覚めが悪い。幸福をお前に与えてやろう。」
「わたくしは何だって我慢できますが、幸福な日々だけは我慢できません。それだけはどうかご勘弁を」
「俺はもう引かんぞ。幸福をお前に与えてやろう、暖かい気候、従順な嫁、賢い子供!十分な年収に、名誉もやろう!金は潤沢にあり、無二の親友もいる!」
「ああ!やめてくだされ、特に賢い子供なんていりませんで、子供は妻よりずっと賢く、私より少しバカでいてくれなければ困ります」
「うるさい!この神が幸福を与えると言ったらあたえるのだ!」神は杖で男をポカリと殴った。殴られて悲観主義者は少し嬉しがった。
「ああ、わたくしが何をしたというのです」
「お前はずっと悲観主義にかかずらっていたからな、褒美に幸福を与えるのだ、毎日つらいつらいと漏らしていただろう」
「それは言葉の綾ってもんです」
「何をいうか!あれだけ幸福者を羨んでいたくせに」
「あれは羨んでいたのではありません、蔑んでいたのです。」
「そんなもんは知らん!とにかく幸福にしてやるから覚悟しておけ」
「そんな殺生な!悲観主義者に幸福を与えるとは、すなわちもぐらの目を無理矢理開かせるようなもの!まぶしすぎて失明してしまいます!プラトンだってそんなひどいことはしなかった!」
「だまれい!だまれい!貴様を幸福の刑に処す。ククク耐えられるかな?」
「とても耐えられません、どうか!どうかもっと不幸をお与えください!周りの不幸な連中よりももっと不幸をくだされ!子供を殺してくだされ!母を認知症にしてくだされ!娘を輪姦してくだされ!誹謗中傷をくだされ!でなければ耐えられない!こんな幸福な人生にはもう耐えられません!!!!!」
悲観主義者は自殺した。己の不幸を自慢できなくなったからだ。誰もかわいそうだとは思わなかった。ただ悲観主義者の仲間たちは彼の自殺を羨んだ。

「結構おじさん」
ある日ある時ある場所に「結構おじさん」と呼ばれる小太りのおじさんがいました。このおじさんはみんなからの要求に結構結構と答えて許してしまうのでした。

「強盗?結構結構」
と言って結構おじさんの家は荒らされて、タンス預金1000万円が盗まれてしまいました。老後の資金がなくなってしまっても結構おじさんはノホホンとしていました。

「市中引き回しで結構」
と言って結構おじさんは後ろ手に縛られて市中を引き回されました

「娘を輪姦?大いに結構」
と言って結構おじさんの娘は不良100人、オタク3000人に輪姦されました。

「銃乱射で結構」
と言ってとち狂ったいじめられっ子が学校に乗り込み300人が犠牲になりました

「結構おじさん、もうやめてくれ、悪かった、謝るから!すまなかった」
「核戦争?大いに結構」
そうして第三次世界大戦がはじまりました。
「平和条約?大いに結構」
人々はフゥと一安心。結構おじさんが言うことはすべて叶えられるのでお願いをしにいろいろな人が来ました。

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