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【原神】稲妻の和平交渉を見よう!

初めまして、電球と申します。現在、『原神』というゲームにドハマリしています。

最新のアップデート(Ver 2.1)では目狩令を巡る内戦が終結し、珊瑚宮心海(以下、「心海」という)の伝説任務ではその和平交渉の様子の一端が描かれましたが、平和構築に関する研究を未熟ながらもしていた身としては、凄いもやもやすることがありましたので、筆を取った次第です。

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勿論、『原神』は別に内戦をメインテーマにした作品ではなく、稲妻内戦も数ある物語の一つでありますので、突っ込むこと自体は野暮であるのは重々承知しています。そもそも論になってしまいますが、平和構築は通常、国際社会が主導するのに対し、海祇島の平和構築は稲妻幕府が主導することになりますので、厳密には現実世界の「平和構築」とは異なります。色々書いてしまいましたが、ネタとしてご笑覧ください。

今回は、稲妻内戦の和平交渉を通じて、皆さまに平和構築に興味を持っていただけましたら幸いです。

なお、テーマの性質上、ver2.1のネタバレを含みますので、未プレイの方ならびに珊瑚宮陣営(抵抗軍含む)がお好きな方はご覧になられないことをお勧め致します。また、一部未プレイの方には分かりにくいゲーム内用語が入ります。申し訳ございません。

1. 平和構築とは

「平和構築ってなんじゃい!」という方がいらっしゃると思いますので、簡潔に説明しますと「内戦があった国で武力紛争が再発生しないように国家機能の能力を向上させる取組み」です。我が国でもアフガニスタンやイラク、南スーダン等にて各種支援を実施しています。

国連にとって、平和の構築には、紛争管理のあらゆるレベルにおいて国家の能力を強化することによって暴力的な紛争の危機を削減し、持続可能な平和と開発のための基礎を築くことを目標とした広範にわたる措置が含まれる。
                       ―国際連合広報センター

平和構築の取組みは、国家建設、治安部門や司法部門の改革、開発援助など多岐に渡ります。これらについて、簡潔に説明します。本当はもっと細かいのですが、記事が終わらないのでご容赦いただければと存じます。

1-1. 国家建設とは

国家建設とは文字通り、国際社会が立法・行政・司法システムを設立し、一つの国家を作り上げる壮大な事業です。アフガニスタンやイラクでも行われました国家建設ですが、最初は東ティモールの独立のために実施され、次にコソボでも実施されました。

東ティモールはインドネシア、コソボはセルビアの一部地域でしたが、武装闘争を解決し、平和を作る手段として独立国家の建設が選ばれました。その後、米国を中心とした勢力による攻撃で政権が崩壊したアフガニスタンやイラクでも導入されましたが、両国では深刻な問題がありました。治安の不安定化です。これにつきましては、次で説明します。

1-2. 治安部門の改革

東ティモールとコソボでは比較的順調に進んだ国家建設でしたが、アフガニスタンとイラクでは、反政府武装勢力による治安の不安定化が深刻な問題となりました。治安が安定しないと国家建設が進みませんし、開発援助や経済支援も滞ります。そこで、「治安部門改革(Security Sector Reform/ SSR)」と「武装解除・動員解除・社会再統合(Disarmament, Demobilization, Reintegration/ DDR)」は、この問題の解決が期待される重要な役割となり、今日の平和構築で代表的な活動の一つとなっています。

SSRでは治安維持のため、軍事部門・警察部門・司法部門に関わる政府機構の改革を目的としています。軍事部門でいえば、兵士の装備や訓練の強化を通じた軍事力の強化もこれに含まれます。2021年8月のカブール政権電撃崩壊が衝撃的だったのは、戦略もまずかったと思いますが、軍隊と警察を20年間訓練していた成果が一切見られなかったことによります。筆者も昔、「アフガニスタンは米軍が撤退すると持たない」と論文で書きましたが、不幸にも当たってしまいました。

閑話休題。この改革では国際人権法や国際人道法を遵守する方向で導入されます。SSRの実施主体が欧米諸国になりますので、良くも悪くも、必然的に国際社会で認められた価値観に則ります。ある程度は当事国の文化や伝統が尊重されますが、「ウチは伝統的に容疑者を拷問して取調べしてんの!!」とか「疑わしきは罰せよ」とか言われても困りますから。

次にDDRの話をする前の大前提としまして、主権国家のみが合法的に暴力装置を独占しています。この説で有名なのがマックス・ウェーバーですね。つまり、暴力装置(軍隊や警察等の公権力)は主権国家(正統政府)のみが有するものであり、主権国家の管理下に無い武装勢力の存在は治安維持における脅威以外の何物でもありません

DDRではその名の通り、武装勢力に参加していた兵士が「武装解除」し、「兵士としての任を解かれ(動員解除)」、兵士以外の方法で「社会復帰(社会再統合)」することが治安維持で不可欠となり、現代の平和構築で非常に重要な役割となります。ここで失敗すると武装勢力が国内に残り、何かと正統政府(主権国家)の活動を妨害する危険があり、法令無視により国家が不安定化する要因となります。因みに、アフガニスタンの平和構築で日本が担当した分野でもあります。

なお、正統政府とは、国内外から認められた正式な政府を指します。国家の構成要件は、1933年モンテビデオ条約にて「恒久的な住民の存在」「固有領土の存在」「政府の存在」「他国との外交能力」を規定しています。但し、実際には規定こそありませんが、4要件に加えて、「国際社会が当該国家を国家として認めること」も必要とされています(国家承認)。稲妻でこれら全てに合致するのは稲妻幕府のみです。

1-3. 司法部門の改革

「司法部門の改革って、SSRとどう違うの?」と疑問に思うかもしれません。簡潔に説明しますと、司法部門の改革は「法の支配の確立」と「内戦中の戦争犯罪の処遇問題」と考えてください。

まず「法の支配の確立」についてですが、SSRで警察の能力を上げたとしても、「法の支配」が根付かなければ意味がありません。詳細は後述しますが、抵抗軍は一切の証拠無しに商人を拘束しようとしていました。また、国家も法に基づいて運営されます。内戦により滅茶苦茶になった社会秩序は、普遍的な法規範を設けることで回復することが期待されます。

次に「戦争犯罪の処遇」ですが、基本的に残虐な行為が行われた場合に実施されますので、必ずしも全ての平和構築で行われるわけではありません。必要に応じて戦争犯罪法廷が開催されたり、国際刑事裁判所に提訴されます。

1-4. 開発援助

「開発援助」と聞きますと、産業支援といった経済成長目的を想像される方もいらっしゃるかと思います。勿論それもありますが、平和構築では社会のあらゆる分野の問題を解決することを目的としています。行政支援、教育支援、インフラ整備、医療施設、保健制度などです。開発援助で特に重要なのが「能力開発」です。政府職員や専門家の能力向上することにより、国内の安定化を目指します。

しかしながら、開発援助は非常に多分野の活動であり、全国規模で展開されることもあるだけに、武装勢力が存在すると非常に危険な活動となります。2020年までにアフガニスタンでは、最低284人の開発援助に従事したアメリカ人が亡くなっています。援助職員を守るために兵士を配置すると、地元住民から警戒されたり、武装勢力の標的になるなどのジレンマもあります。

余談ですが、アメリカ政府の対外援助機関はUnited States Agency for International Development(アメリカ合衆国対外開発庁)です。略すとUSAID、つまり「米国の援助」となります。アメリカは略語を上手く活用しますよね。

以上、平和構築における主な要素を簡単に述べました。稲妻では雷電将軍・三奉行が健在であることと和平交渉の議題から、SSR、DDR、司法改革、開発援助が焦点となります。

なお、平和構築についてより詳しく知りたい方がいらっしゃいましたら、『平和構築入門-その思想と方法を問い直す』(篠田英朗)が読み易いと思います。

2. 稲妻内戦のおさらい

 「稲妻内戦ってなんじゃい!」という方がいらっしゃるかもしれませんので、簡単におさらいします。本記事では幕府軍と抵抗軍による内戦を「稲妻内戦」と便宜上呼称していますが、作中でそのように呼ばれたことはなく、あくまでも本記事のみでの表現になります。

なお、海祇島は魔神オロバシを信仰する人々が居住する地域ですので、作中では描写されていませんが、元来非常に高度な自治権を与えられている可能性がありますが、本稿では基本的に自治権が無いものと仮定して考察を進めます。

【主要勢力】
〇天領奉行(稲妻幕府・稲妻)
・稲妻国内の軍事及び治安維持を任務とした三奉行の一角
・「神の目」の押収を目的とした「目狩令」の執行者
・トップは九条孝之(三奉行は問題がない限り世襲制)
〇抵抗軍(海祇島・稲妻)
・目狩令に抵抗する人々が集まって組織された、「海祇島」を本拠地とする軍隊
・神の目を押収された人、押収を恐れた人が合流しているものの、実態はかつて稲妻への侵攻を試み雷電将軍に倒された魔神オロバシを信仰する民族が主体
・トップ兼軍師は海祇島の現人神の心海
〇ファデュイ(スネージナヤ)
・七神が所有する「神の心」を収集するスネージナヤの組織
大体こいつらが悪い

【時系列】(特に記載がない限り、主語は旅人)
・1年前 雷電将軍が目狩令を発令
・現在   稲妻に上陸
      雷電将軍に「永遠の敵」として目を付けられ指名手配
      抵抗軍に匿って貰う
      雷電将軍を論破
      雷電将軍が目狩り令を廃止
      幕府軍と抵抗軍が和平交渉開始←イマココ

最終的に旅人の活躍によって目狩り令は廃止され、抵抗軍の目的は(結果的に)達成されました。そうなると片付けなければならない問題があります。

抵抗軍の存在意義です

抵抗軍が目狩令以前から反雷電将軍組織として存在するならいざ知らず、反目狩り令組織として発足した以上は、目的を果たした時点で存在意義を失います。心海の伝説任務では和平交渉が行われますので、筆者もどのような結果になるのか期待していました。

結論から述べますと、致命的な選択をしていました。

では、何故そのように考えたかについて、実際の交渉を細かく見ながら説明していきます。  

3. いざ、和平交渉!

さて本番です。抵抗軍の心海と天領奉行の九条裟羅が和平交渉を行います。現実世界でも交戦した当事者達が和平交渉を経て「和平合意」を結び、紛争後の秩序構想を制度化することがあります。

但し、「和平合意」と言いながら実態は秩序構想の制定が主目的で、当事者達の「和平」がないとされることもあります。例えば、和平合意とされるアフガニスタンに関する2001年ボン合意では、国際社会が戦ったタリバンを含んでいませんでした。和平?

今回の会談はどちらになるんでしょうね。

3-1. 交渉の証人となった旅人

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和平合意をする上で、中立的立場の人または国家が参加することはあります。旅人は外国人なので適切な人選でしょう。

まぁ、旅人はメカジキ二番隊隊長なので全く中立的じゃないんですけどね。

でも裟羅が認めたので大丈夫です。嘘です。実際は抵抗軍に傾いてるので全然大丈夫じゃないです。実際に旅人は、予想通り会談襲撃した抵抗軍ではなく、応戦せざるを得なかった天領奉行を先に制止していたのがその証左でしょう。証人としては不適格だと思います。もう先行き不安ですね

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止めるのはそっちじゃないよ、蛍ちゃん。

3-2. 海域の管轄権

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裟羅:鳴神島における海祇島漁師の活動制限は解除。但し、収穫は鳴神島の税法に則る。
心海:了承。但し、鳴神島付近で漁をする漁師は、天領奉行の庇護下に置かれ、治安問題で損失があれば率先して解決すること。

戦時中の海上封鎖を解除するのは当然なので、特に問題のない議題ですね。治安問題は恐らく海賊関連でしょう。抵抗軍は鳴神島付近まで進出できないので、天領奉行に安全保障を委託したと思われます。ん?

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海祇島付近での安全は一体誰が?

3-3. 人の往来と貿易活性化

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裟羅:貿易活性化のため、双方の貿易取引を担当する商人を社奉行から選定する。
心海:貿易取引は互いの意思疎通が必要であり、双方の商人が参加するべき。社奉行に完全委任はできない。

正直なところ、この議題についてはよく分かりませんでした。戦時中の移動制限を解除したならば、後は商人に自由に取引させれば済む話ですので。商工会みたいなもの作って経済活動を活性化させることが目的でしょうか。内戦直後の不安定な地域ですので、幕府が一部商人に経済活動を依頼し、そこを起点に徐々に活性化させることが目的かもしれません。余談ですが、政府が民間企業に「アレやれ」「ッス…」ていうのマジであります

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裟羅:海祇島はあらゆる物資が不足。社奉行による統一管理は有益。
心海:物資不足は独自に対処する。海祇島は資源が豊富であり、商人に事欠かない。加えて、本件は神里家と相談すべきことであり、天領奉行は権能がない。

順序は逆転しますが、まず最後に出てきた権能について論じます。社奉行の領域に踏み込む交渉をするならば、普通、彼らが認められる/認められないことを確認し、委任を得た上で代表が交渉に臨みます。簡単に言いますと、特命全権大使のようなものです。「天領奉行だから社奉行の領域は議論できんやろ」は通りません。心海が各奉行とそれぞれ和平交渉するという非常に非効率かつ非合理的な和平交渉を求めているなら話は別ですが(三奉行同席を要求することもできますが、天領奉行への「貸し」となり、交渉で不利になることも懸念されます)。

おまけに裟羅は社奉行管轄の議題を提案した側ですから、天領奉行が代表として交渉することを社奉行も承認していると見て然るべきです。心海の言動は相手に要らない不快感与えるだけです。

何故か裟羅は引きましたが

「もしかして調整してない?」とも思えますが、心海の食い下がりが面倒なので優先度が高い方から議論を進めようとしたとも考えられます。実際、内戦の和平交渉における重要課題は、治安管理ですから。裟羅の対応は、心海の喧嘩腰の言い方を冷静に流した大人の対応と言えるでしょう。

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なお、交渉後に「商人の件を社奉行と相談する」と伝えましたが、これだけでは事前調整がなかったとは言い切れません。先方から新しい提案があったことを共有するのは普通ですから。

次に、「あらゆる物資は不足しているが、資源は豊富なので何とかなる」というのは、戦時中は食糧すら満足に調達できなかった状況を思うと一見矛盾しているように思えますよね。

恐らくその資源は商品として輸出する以外に使えないのだと思われます(真珠とか)。アメリカ南北戦争中でも、綿花輸出を主要産業としていた南部(アメリカ連合国)は、北部(アメリカ合衆国)による海上封鎖(陸海から包囲する「アナコンダ作戦」の一部)を受け、経済が破綻しました。「南部は農業が盛ん」というイメージを持たれる方がいらっしゃるかもしれませんが、農地はほぼ綿花なので詰みです。主な食料生産は北部だった上に、海上封鎖で輸入困難となったため、南部は飢餓状態に陥りました。海祇島でも島民は飢えていましたね。対照的に、鳴神島は普通に食事やお祭りを楽しめるなど、大分豊かでした。鍋遊びでケーキぶち込む余裕まであるし

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海祇島の主な取引相手だったであろう鳴神島とは交戦中、さらに鎖国令と海上封鎖も相まって取引相手がいなくなったので、海祇島経済は崩壊したと思われます。内戦後は「商人に事欠かない」かもしれませんが、抵抗軍という武装勢力の存在は大きな足かせになると思います。これにつきましては、次項で触れます。

3-4. 治安問題

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裟羅:海祇島の治安部隊を天領奉行の管轄下に戻す。
心海:当分不可能。
裟羅:天領奉行が稲妻の治安を管理する以上、海祇島を例外にできない。
(注)ここでいきなり抵抗軍が、「天領奉行はファデュイと結託している」と叫び、裟羅に武器を向けて会談が中断

さて、本題です。元々は天領奉行が海祇島の治安管理をしていたとはいえ、そして内戦は終結したとはいえ、交戦相手が海祇島を再管理下に置くのは、海祇島民の感情的に相当の抵抗が予想されます。裟羅もそこを理解していたがために、海祇島の利益になる議題提案を先にしたのでしょう。

勿論、幕府側としては内戦が終結した以上、海祇島を管理下に戻すのは当然です。おまけに反政府武装組織まで存在していますので、彼らを武装解除し、特産品の生産や収集等の抵抗軍以外の仕事を斡旋して治安回復と安定化を図る必要があります。典型的なDDRですね。

一方、心海が「当分不可能」と断言しているのは、上記のように天領奉行を素直に信頼できないことにあります。幕府も海祇島を占領して終結したわけではないので、この辺りについては仕方がない面が大きいです。妥協点としては、天領奉行と抵抗軍が共同管理をしつつ、徐々に天領奉行に権限を戻していくことでしょうか。

なお、DDRは状況に応じて手法を変えています。例えば、カダフィ政権崩壊後のリビアにおいては、内戦が反カダフィ派の一方的勝利に終わった上に短期間(8ヶ月強)で終結したため、社会復帰が容易でしたので典型的なDDRは実施されず、「再統合」を先に行い、その後に武装解除し、さらに残った人達の再統合を進める形式を取りました(RDDR)。

抵抗軍も1年未満の短期で内戦が終結しましたが、一方的勝利どころか全体的に見ると敗戦気味な上に、目狩り令廃止も旅人が八重神子と協力して対決し、意志を変えたことが理由ですので、抵抗軍が直接貢献したとは言い難い状態です(正直、1旅人としては抵抗軍との関りが薄すぎて帰属意識が全くないんですが)。「目狩り令廃止への意志の強さ」は旅人の戦いに影響しましたが、当の抵抗軍は知らない上に、心海の伝説任務の冒頭を見る限り、雷電将軍との戦い後に海祇島に一度も行っていない可能性すらあります。恐らくそのような「勝利したとは思えない」感情があったからこそ、海祇島民も抵抗軍も戦争継続を求めたのではないでしょうか。

ところで、「天領奉行への信頼がないのなら、天領奉行と共同管理したら摩擦が生まれるのではないか」と疑問を持たれるかもしれませんが、それでもやらざるを得ない理由が2点あります。1点目は「1-2. 治安部門の改革」で述べましたように、主権国家の管理下に無い武装組織の存在は不安定化要因でしかないこと。2点目は抵抗軍に治安維持能力がないことです。

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和平交渉前の描写になりますが、抵抗軍が天領奉行と取引のあった商人に不当な疑いをかけて拘束しようとしていました。こちらはSSR(警察改革)と司法改革(法の支配)の対象です。不当逮捕が横行すると、開発援助や商取引に影響が出ます。「商人に事欠かない」海祇島にとっても大きな不利益となります。だからこそ、稲妻法の支配下にない武装組織は解体し、正統政府の管理下にある組織(この場合は天領奉行)が治安維持をしなければなりません。

この時は心海がクロかシロかの最終判断を下していました。これにつきましては、和平交渉前で天領奉行の管理下に戻っていないので、彼女が判断したり「戦後臨時法令」を発令すること自体は妥当です。現状、治安維持の実権は抵抗軍にありますから。だから次のような問題起こしてるんですけどね

伝説任務中の抵抗軍は商人や天領奉行に疑いをかけては、警察権や武力の行使を行いましたが、全てにおいて一切の証拠を提示していない問題があります。はっきり言いますと、法の支配が行き届いておらず、全て思い込みで行動するなど、治安維持能力が完全に欠如していますので、天領奉行以上に問題がある統治と言えます。天領奉行も問題ある組織として描かれていますが、偽「神の目」製作者、密入国者、目狩令に抵抗した旅人を見る限り、無実の人間を拘束してはいません。

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また、心海は「戦後臨時法令」を理由に件の商人に罰金を科しています。これは適正価格で商品を販売せず、貯めこんだことを理由にしています。

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売ってないなら無罪でしょ。「貯めこんだ」ことを理由としても、「値段を釣り上げる目的で保管したこと」を証明する必要があります。商人は少し口走りましたけど、断言したわけでもなく、「なるべく高く売りたい」という気持ちは商人にとって自然な考えですので、証拠能力に疑問があります。

(「3-5. ファデュイ結託疑惑」終了後)
裟羅:管理不足でこのような局面をもたらした。和平交渉継続を求める。
心海:自組織を管理できない天領奉行に海祇島の治安維持は不安がある。
裟羅:治安管理は保留。天領奉行の管理改善後に改めて議論したい。

裟羅さん、謝る必要一切ないですよ。

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真剣な話、和平交渉の場で交渉相手に危害を加えようとした組織の長に「自組織を管理できていない」とか死んでも言われたくないんですけどタリバンですら和平交渉でそんなことしなかったぞ。そもそも、ファデュイとの結託疑惑があれば、交渉材料としてテーブルに出せばいいだけですから。

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あ、証拠ないから交渉材料になりませんでしたね

実は海祇島内で流れていた「天領奉行とファデュイは結託している」という話は、全部抵抗軍継戦派が流したデマです。天領奉行は完全に被害者。裟羅は正式な謝罪要求できるよ。天領奉行側も部下はファデュイの提案を無視したとはいえ上に報告すべきだった失態はありますが、部下を抑えきれずにデマを理由に継戦を訴え交渉相手を実際に襲撃した抵抗軍に比べれば問題のレベルが違います

なんだこの伝説任務と和平交渉

3-5. ファデュイ結託疑惑

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心海:ファデュイと結託している疑惑について、説明を求める。
裟羅:了承。調査する。
(注)裟羅が狼狽する兵士にファデュイと本当に結託しているか確認。結託ではなく、戦争継続で協力提案が出された程度。裟羅は兵士に処分を宣言。

本件でファデュイと結託こそしていませんでしたが、疑惑を持たれる弱みを見せてしまったのは落ち度です。ただ、演出として全く持って不自然なんですよね。それ以上に会談ぶち壊そうとした方がヤバいのにノータッチですから。心海も「状況が変わった」と抵抗軍を抑えていますが、どう見ても心海の指示で壊そうとしたようにしか見えません。

なお、ここで組織管理者としての違いを見せる重要なシーンがあります。

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もういい、戻って罰を待つんだな。
私も戻って天領奉行の内部問題について徹底的に調査しなけらばならない。
                             ―九条裟羅

理由は後ほど。

4. 運命の決断

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本日より、秘密軍隊を設立することに決めました。海祇島の安全を守り、一切の危険を島から遠ざけてください。そして、あなたたちと同じ考えを持つ者の加入を許します。

今回の交渉から見て、九条家も当分の間は平穏を保てないでしょう。平和を望む者もいれば、戦争を望む者もいます。海祇島が平和を望んでいるとはいえ、自分たちを守るくらいの力は必要です。
                            ―珊瑚宮心海

は?

致命的です。

何しれっと特大にヤバい問題決めてるんですかね

抵抗軍存続問題を議論しなければならないのに、「秘密軍隊」を設立させることの問題の大きさが一切理解されていなくて驚きました。火に油注ぐ結果になります。当然、幕府も認知していませんので、幕府は秘密軍隊の鎮圧を理由に海祇島を攻撃する大義名分を持ちます。無論、目狩り令とは異なり海祇島に一切の正義がありませんので、抵抗軍程の求心力を持たず、より不利な状態で戦うことになりますので、海祇島は非常に苦しい立場に立たされることは明白でしょう。最悪、未来なくなるんですが。軍師様は海祇島をどうしたいんですかね……。

この伝説任務を作ったスタッフは恐らく、心海の度量の深さと先を見据える知的さを演出したかったのでしょうが、平和から最も遠い選択を選びました。八重神子や裟羅の評判程、作中での心海の行動は有能軍師にほど遠いものでしたが、筆者の中では伝説任務で彼女の評は完全に地に堕ちました。

裟羅も心海の言うこと飲まずに反論すべき点は幾つもありましたが(特にファデュイとの結託の言いがかりや調査要求は「証拠出せ」で一蹴でき、襲撃を理由に治安問題で有利な立場に立てました)、心海程酷いとは思いませんでした。彼女程持ち上げられてはいませんでしたし、促されたとは言え、狼狽する兵士を見て疑う観察眼と部下を叱責し処分を与える点は良かったです。特に後者。メタな話しますと、心海の伝説任務なので彼女を「有能」に見せる犠牲になってます。

「心海は心優しい人物」と描きたいことは明白ですが、軍事組織のトップとして致命的でしょう。良く言えば「心優しく調和を重んじる指揮官」、悪く言えば「感情に流される指揮官」です。会談襲撃した継戦派を処分せず、逆に幕府軍と戦うことを是とした判断をしましたので、発言力を持って暴走することが懸念されます(大日本帝国軍かな?)。この点については裟羅に加えて、「九条家の覚悟を認めるが、それはそれとして失脚は免れない」とした雷電将軍と真逆だったのが印象深いところです。

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「信賞必罰の信念」どうしたんですか?キャンプファイヤーの燃料にした?

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また、海祇島は「平和を望んでいる」とのことですが、過激派がかなりいた現実を見せつけられたのに、こんなこと言われても困るんですが。会話した海祇島民19人中9人が過激派(9人に襲撃参加者含む。10人は穏健派または戦争の話せず)でしたが。そもそも先に戦争を望む姿勢を和平会談の場で明白に見せつけたのは紛れもなく海祇島側でしたよね

秘密軍隊に関するさらなる問題として、海祇島が幕府管轄下にある以上、財務報告を幕府(勘定奉行)に行わなければなりません。秘密軍隊を設立・維持するには当然費用が必要になるわけですが、幕府に秘匿する以上、馬鹿正直に関連費用を計上できる筈がありません。従いまして、珊瑚宮は幕府に対して不正会計をすることになります。嘘をつくには別の嘘をつく必要がある好例。

余談ですが、心海の秘密軍隊設立を「自衛隊のようなもの」と解釈している方を見ましたが、全く違います。稲妻における「自衛隊のようなもの」は「幕府軍」ですので、秘密軍隊はただの非合法武装組織です。はっきり言えば、反政府武装勢力です

5. ところで…な責任問題

ヤシオリ島は魔神オロバシの残滓が残っており、雷電将軍はそれを鎮めるために「鎮め物」を設置しました。ところが、抵抗軍が内戦の最中に鎮め物を破壊し、ヤシオリ島は潰滅しました。

従いまして、ヤシオリ島民への賠償は抵抗軍の責任となります。鎮め物の破壊は抵抗軍に潜入したファデュイ工作員(ネイサン)が主導して行いましたが、結局、抵抗軍(実行者)が破壊したことに変わりないので、責任から逃れる事はできません。

本件に関して、九条政仁は「戦が有利なら交渉材料になった」、「珊瑚宮が内通者を厳正に処罰して評価を高めた」と言及していますが、内戦は消極的な形で終結したので有利不利関係なく交渉材料にできましたし、未然に防いだならともかく、全て手遅れになった状態で内通者を見つけて処罰したと言われても評価は上がらないのではと思います。また、「内通者」が「ファデュイ工作員」を指しているかも不明です(ファデュイは「閣下」の脱出に最大限の力を注いでいるようでしたので、脱出できたと思います)。ここでも稲妻恒例の珊瑚宮を高く評価するムーブですが、作中の珊瑚宮評は全く当てにならない過大評価と言えますので、信憑性は低いでしょう。

6. 海祇島はどうすればいいのでしょう……

①抵抗軍の武装解除(又は共同管理から始めて段階的削減)
②稲妻幕府の管理下に戻る(稲妻法のみに基づいた管理)
③稲妻幕府による開発援助を受ける(経済支援、海祇島民の能力育成)
虎の巻を捨てる

①~③は改めて詳述する必要はないかと思います。海祇島は稲妻の一地域ですので内戦が終了した以上は、稲妻の統治下に戻るのが当然の流れです。独立戦争ではないんですから。稲妻内戦は幸いなことに稲妻幕府が機能していますので、抵抗軍を解体して天領奉行が再管理(または暫くの間、抵抗軍と天領奉行の共同管理に)すれば、新しく軍や警察等の治安機関要員を育成する膨大な手間が省けます。そもそも抵抗軍の警察能力は絶望的ですし。

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④について。伝説任務で「虎の巻」は心海を象徴するモノとしてよく出てきました。ですが、少し疑問に思いませんでしたか。「コイツら、自分の頭で考えてるのか?」と。心海の知的さ・優秀さ・先見性の高さの象徴である虎の巻ですが、実はこれこそが心海のトップとしての無能さの象徴と言えましょう。なぜなら、海祇島も抵抗軍も、判断及び意思決定過程の全てを心海に依存する、組織として致命的な欠陥を抱えているからです

勿論重要な決定事項はトップが決めるものですが、心海は現場で判断すべきものですら虎の巻を配布することによって、自ら考える力を奪っています。平和構築では、現地職員の能力向上も重要です。虎の巻を支給する心海がトップである以上、海祇島民の能力向上は全く期待できず、将来性がないと言えます。政治交渉でも軍事作戦でも困難に直面した時、相手に「虎の巻を読解するから待っててくれ」とお願いするんでしょうか。パイモンも虎の巻に翻弄され、緊急時に対応できないことを証明しました。だからこそ、虎の巻は廃止すべきなのです。

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しかも意味がなかったので、完全に心海の無駄な労力と化した模様。

7. まとめ

描写されているシーンだけを見ますと、両者の和平に関する議論が抜けており、内戦後の秩序回復構想が主題となっていましたので「2001年ボン合意」スタイルではないでしょうか(まだ事前調整の段階であるからかもしれません)。海祇島も秘密軍隊設立するなどの火種を自ら作り上げているので、心海の海祇島指導には疑問が残ります。

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また、海祇島民も「和平交渉をするべきではない」「主導権を握るべき」と訴える人がいましたが、海祇島の能力を見る限り、正直無理なんですよね。基本的に、外交と武力はセットで運用されます。海祇島と幕府は国力差が大きく、作中でも抵抗軍は負け戦、ファデュイの支援が無ければ食糧も満足になく、そもそも雷電将軍に対抗不可能という詰み状態でした。

仮に幕府から「は~?要求飲まなければ交渉中断しますけど~~~??」と言われて一番困るのが継戦能力のない抵抗軍です(幕府軍は目狩り令廃止に伴い戦争遂行目的が無くなりましたが)。

海祇島の未来の方がわたしにとって大切なことなのです。将軍が約束を守り、幕府との間にこれ以上いさかいが起きないといいのですが…もし再び、将軍が人々の願いを無視するようなことがあった場合、私たちは決して黙ってはいません。
                            ―珊瑚宮心海

いずれにせよ、真に平和を求めるならば、心海と抵抗軍は早々に武装解除するべきです。「秘密軍隊」なんて以ての外。秘密軍隊の保有がわかれば、幕府軍は海祇島を攻撃する大義名分を得る上に、反目狩り令とは異なり抵抗軍を支持する人もいません。雷電将軍も珊瑚宮派が鳴神分社を破壊したことの責任を心海が取ることを求めていますが、海祇島民は強硬に反対するでしょうし、その際には秘密軍隊が投入されることでしょう。反目狩り令の時でさえ雷電将軍への対抗手段が存在しなかった抵抗軍です。またメカジキ二番隊隊長に丸投げする「策」を講じるのでしょうか。

「策を弄する軍師・珊瑚宮心海」としてデビューした彼女の選択は、常に後手に回るか行き当たりばったりでした。伝説任務で軍師としての能力を示してくれることを期待しましたが、彼女が残したのは「平和構築の礎」はなく、「内戦再発の火種」でした


PS. 心海の伝説任務、抵抗軍が余りにも酷過ぎて「メカジキ二番隊隊長」としてもてはやされるの本当に止めて欲しいと思いました。真剣に縁を切りたい。あんなのと一緒にしないで欲しい。「栄誉騎士」は誇らしいのに……。

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