[奇談綴り]獅子舞

実家にはお正月に獅子舞が回ってきていた。
毎年愉快なお囃子とともに訪ねてくるので、その時家に居た人間はお布施を渡して獅子頭にかじってもらっていた。
無病息災を願っての正月の行事である。

あるとき、ふと「そういえばどこが獅子舞をやっているんだろう」と気になった。
地元の大きな神社といえば八幡宮と神明宮で、どちらも獅子舞は関係ない。
毎年来るのでそういうものだと思っていたのだが、冷静に考えると不思議だった。

獅子舞にお布施を渡しているのは祖母だったので、なんとなく由来を聞いてみた。
「獅子舞ってどこがやっているの? もしかして愛宕神社?」

実家の近所には愛宕山と言われる小高い丘があり、まるごと公園となっていて愛宕公園と言われていて、祠レベルの小ささながらも愛宕神社がある。
いつも公園の方から来ている気がしたので、念のために聞いてみたのだ。

「違う。あれはソウゼン様だ」

私の予想はまるきり外れていた。
だが公園の方から来ているというのは気のせいではなかったらしい。

「あれはソウゼン様という神様で、町内会の集会所のあたりに集まる場所がある。
特に何かをするわけではなくて、今は正月の門付け(獅子舞)だけやっていて、徐々に廃れてきているようだ」

ソウゼン様が何かは祖母もよく分かっていないらしい。馬関係だとか。
地元青森はイタコだの◯◯の神様だの不思議な風俗がたくさんあるので、なるほどそういうものなのか、とあまり気にせずに話を聞いた。

祖母はふと思い出したように話を続けた。
「あれでも神様の行事だから、不思議なことがあるらしい」という。

「獅子舞を踊っている人に話を聞いたことがある。
門付けは縁起物だから、それほど深い意味を考えずに毎年回っているそうなのだが、獅子頭がとても重い家がたまにあるらしい。
頭を持つのが辛いほど重いそうだ。そういう家は、その年に不幸があるらしい。
どこまで本当か分からないが、そう言っていた」

できれば関係者内で永遠に伏せておいて欲しい話が出てきてしまった…。うちの祖母じゃなくて、地元と全く関係のない怪談や風俗の収集家あたりに話してほしかった。
もしかして家も重いことがあったんだろうか。
まあ三世代同居で親類も多い都合でいわゆる不幸はそこそこ起きていたので、重かった年もあったんだろうな…。

後年、思い出して調べたところ、馬の産地を中心に「蒼前信仰」というのがあったらしい。北東北には地名としてちょいちょい残っている。

壇ノ浦の合戦の頃の平家にいた藤原有家卿が元になっているという話もあるし、馬を育てるのに尽力した有力者が元になっているという話もある。
馬に関する神様であることは間違いないようだ。

縁起物というのもなかなか侮れないな、と思ったものである。

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