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現代の寓話 裸の王子様

ある王国に、車好きの王子様がいました。その国の王様は、後継者である王子様を溺愛し、何でも買い与えました。王子様が、あの高級車が欲しいと言えばすぐに注文し、あのスポーツカーが欲しいと言えば、これまたすぐに買い与えてくれました。王様は王子様の車を購入するため、少しずつ税金を上げていきました。王子様の専用ガレージには、車の博物館のように古今東西の名車が並んでいました。

王子様は、自分の愛車を自慢するのも好きでした。王子様は毎週末、お城の外のメインストリートで、愛車を使ったパレードを実施していました。そのパレードで民衆に車をよく見えるようにするため、王子様の命令でメインストリートの街路樹は切り倒されてしまいました。珍しい高級車やスポーツカーのパレードは、最初こそ民衆の注目を浴びましたが、毎週末ともなると民衆の関心は薄れ、いつしかパレードの出席するのは仕方なく動員された一部の市民だけになりました。

王様の溺愛で王子様はどんどん我儘な性格に育っていきましたが、王子様にはその溺愛を助長する王子様直属の二名の家臣がいました。兄弟の居ない王子様は、その家臣を家族のように思っていて、周りの家来たちからは”ロイヤルファミリー”と秘かに呼ばれていました。あるとき、王子様は腹心の家臣達にこう言いました。「誰も持っていないような車が欲しい」と無茶な命令を出しました。

この命令の三日後、腹心の家臣Aが立派な身なりをした高級車ディーラーを連れてきました。そのディーラーはこう言いました。「私共の店では、世界に類のない車を所有しています。その車は乗る人の身分によって見え方が変わります。貧乏なものが乗ればポンコツ車に見えますし、王子様のように高貴な方が乗れば、まばゆいばかりの豪華な車に見えます」。王子様は「それは興味深い。その車を持ってまいれ」とディーラーに言い渡しました。

一週間後、場内に”ボロボロの車”が運び込まれました。ディーラーが言いました。「これが以前お話した車です。まずは、御家来のどなたかに乗って頂きましょう」と言うと、王子様の護衛の一人が指名されました。護衛は車に乗り込みましたが、車の見た目はボロボロのままでした。「それではワレが乗ってみよう」と言って、次は王子様が乗り込みました。しかし、車はボロボロのままでした。ディーラーがすかさず言いました。「何ということでしょう。王子様が乗った途端に、黄金色に輝く外観に変わりました。これも王子様の高貴な血筋の賜物たまものでしょう」。王子様は、国家予算の十分の一もする値段のその車の購入を決めました。

翌日、腹心の家来Bが王子様に進言します。「珍しい車には、珍しいお召し物が必要です。王子様のために、私が良い仕立て屋を連れてまいりました」。目立ちたがり屋の王子様は、興味津々です。その仕立て屋は、次のように言いました。「この服は愚か者には見えない布で作られています。どうです、素晴らしい光沢でしょう」。腹心の家臣二人も口々に、「なんと素晴らしい輝きだ」。「こんな透明感のある生地は見たことがない」と言うので、王子様は「見えない」と言えなくなってしまいました。

王子様のパレードの当日、オンボロ車に乗った裸の王子様を見て民衆は驚きました。しかし、パレードの事前に”豪華な車と衣装”の特徴が知らされていたので、誰も本当のことが言えません。王子様も、すっかり上機嫌でパレードを継続しました。パレードも終盤に差し掛かった頃、一人の子どもが「王子様が裸でポンコツ車に乗っている!」と大声で言いました。無垢な子供の一言が、民衆の目を覚まさせました。

王子様も自分自身の愚行に気付いて、パレードを中断して場内に駆け込みました。その後、苛烈な税金の徴収や王子の浪費に激怒した民衆は、各地で一斉に武装蜂起し、民衆の革命によってその王国は滅亡しました。

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