おさるさん・ラプソディー 第4章
これの続きである。
俺は、そのメス猿が彼猿だとすぐに分かった。
マッチングアプリに登録している写真そのままの見た目であったからだ。
ロングヘアーのぱっちり二重である。
(そしてピンクのあひるさんマスク)
薄いピンクのロングコートに白いブーツを履いていた。(かわいい。服が。)
鼻や口元はマスクでまだ分からなかったが、顔を見るのが少し楽しみになった。
(ほんと単純ね)
声も電話した時とほとんど変わらなかった。
やっぱり前もって電話して良かったと思う。
そしてカフェへと到着した。
実は前日に池袋に用事があり、予めカフェの場所は確認しておいた。おかげで道には迷わなかった。
(しかし、実につまらないことをした気がする。ぶっつけ本番でお店を探し、道に迷うなどして、彼猿と少し冒険をした方が仲良くなれたのかもしれないと今となっては思う。人生においては、先を予測し準備をしておくことがほとんどのシーンで重要であろうが、時には出たとこ勝負に挑むことも必要なのかもしれない。)
カフェにて、俺はビールとサンドイッチ、彼猿はチーズケーキを頼んだ。
先にビールとチーズケーキが来た。
これまた彼猿はきちんと躾られているメス猿で、俺のサンドイッチが来るまでチーズケーキに手を付けようとしなかった。
(食べてくれていいのにな)
勿論、俺はビールをゴクゴク飲んだ。
ここで印象的だったことがあった。
コロナなので、今はほとんどの人がマスクをしている。そのため、食事をする際はマスクを外さないといけない。
俺はマスクを外すことに躊躇いが無い人間なので、ビールが来るとすぐにマスクを外して、ゴクゴク飲み始めた。
(単に人として大事な何かが欠けているだけかも)
しかし、彼猿はチーズケーキが来てもなかなかマスクを外そうとしなかった。
かなり躊躇っていたようだった。
勿論、最終的にはマスクを外すことになるわけだが、そこで俺は彼猿がマスクを外したがらなかった理由が何となく分かった。
目元だけだと彼猿はかなり愛らしい見た目をしているのだが、口元と合わせるとそうでもなかった。
歯並びがあまりよくなかった。
(ストレートに言うな)
恐らく彼猿は、自身の容姿に自信をもっていなかったのだろう。
プロフ写真の全てにおいてマスクを着用していたのも、これで納得がいった。
あと個人的に感じたこととしては、彼猿まぁまぁ細かった。というか、顔の大きさと身体のサイズが合っていないように感じた。
体型としては女子の好む体型って感じだった。
スリムと言うべきか。
しかし、体型に合わず顔のサイズが大きかった。
(だからストレートに言うな)
しかも髪がロングなので余計そう見えた。
結論を言うと、チ○ピクしなかった。
村々しなかった。
なので、余計に今日という日を早く終わらせたいという気持ちが強まった。
カフェにいる間は、電話の続きみたいな感じだった。
彼猿の学校での話や、アルバイトの話をひたすら聞いていた。
俺の話はあまりしていない。
というか話してもあまり刺さっている感じがしなかった。話すだけ虚しかった。
なので、カフェ内でのトークはよく覚えていない。
(緊張していたのもある)
(ちなみに、俺と会った前日に別のオスザルと会っていたらしい。俺は2人目に会ったオスザルだそう。1人目は社会人でなかなか話が合わないそうだった。いや俺もやろ。)
カフェでもう一つ印象に残っていることがある。
彼猿が1度フォークを床に落とした。
皆ならどうするだろう。
大体の人は、店員を呼んで別のフォークに変えてもらうという方法をとるだろう。
しかし、彼猿はウエットティッシュでフォークを拭いてそのまま使ったのである。
俺は少し意外だった。
ウエットティッシュで拭いたとしても、床に落としたフォークで食べるのには抵抗があるものだろう。
とはいえ、別に引いたわけではない。
むしろ少しだけ親近感が湧いた。
弱点のようなものを見れた気がしたからだ。
何というか、あのシーンを見たおかげでこちらも変に気を遣わなくて済むと思った。
初めて会う異性との食事なんてかなり気疲れする。
姿勢、食器の扱い方、咀嚼など、普段は何も気にせず無意識で行っていたことに、滅茶苦茶気を遣うようになるからだ。
でも、彼女のあの仕草を見て、肩の荷が降りたような気持ちになった。
さて、予定ではカフェで1時間ほど話してから映画に行くつもりだったのだが、俺の頼んだサンドイッチが全然来なかった。
結局、上映30分前とかになってサンドイッチが来た。(映画館までの移動時間は10分弱)
しかも、まぁまぁ大きかったのでそんなすぐには食べれなかった。
そのせいで映画には10分程遅れることになった。
(あればかりは本当ふざけんな)
そしてお会計時、彼猿が本当に払ってくれた。
勿論、俺も払おうとはしたのだが、頑なに断られて結局彼猿にご馳走になってしまった。
まさか本当に払ってくれるとは思わず、アーメンがちょっと出た。少しだけ惚れそうになった。
映画館には遅れて入った。
上映中に席に着くのはなかなか気まづいものがある。
そのせいで、上着を脱ぐことが出来なかった。
そして、途中から尿意がすごかった。
暑いしトイレに行きたいしで映画には全然集中て出来なかった。
(すずめは可愛かった)
そして、映画が終わった。
俺は今日一日をやり切ったという達成感や解放感の中にいた。
ようやく全てが終わる。
今日一日のプログラムを全部やり切ったのだから。
そんな時、彼猿から「この後どうしますか??私明日休みなんで時間ありますよ。」と言われた。
確実なことは分からないが、今考えればあれは所謂OKサイン的なやつじゃなかったんだろうか。
元々は、お互い初対面だし映画だけで終えるという認識だった。というか、メッセージの段階でそういう約束だったはず。
なので、彼猿の方からそんなことを言われるとは思わず、びっくりした。
最後に夜飯にでも誘おうかと思ったが、もはや体力的にも精神的にも疲れきっていたため、帰るつもりだと話した。
マジで何も気力が湧かなかった。
すると、彼猿も「本当ですか。私もここで帰るつもりだったので〜。」と言い出した。
(どっちやねん)
なんかすごく勿体無いような、申し訳ないような気持ちがしたが、本当に早く帰りたかった。
(逃げ出したいくらいだった。)
彼猿とは駅で別れた。
帰りの電車の中で、お礼のメッセージを送った。
向こうからもお礼の返事が来た。
そしてそれっきりだ。
後日、俺は逃げるようにアカウントを消した。
今思えば、夜飯までは頑張ってもよかったと思う。
なんなら居酒屋とかに行ってお酒を飲めば、少なくともカフェよりは楽しく話せたと思う。
なんならその後も勢いでワンチャンあったのではと思う。
(それにあのメス猿翌日休みって言ってたしな!!)
しかし、それ以上に疲れきっていた上に、彼猿自体にも村々しなかったので帰ってしまった。
とはいえ、リ○ルート創業者の言葉のように、自ら機会をつくることは出来たので、とりあえずヨシとしている。
(自らを変えることまでは叶わなかったが。)
以上をもって、サルになろうとしてなり切れなかった男の哀れで虚しい物語(おさるさん・ラプソディー)をここに終結する。
(振り返ってみれば、俺自身かなり充実しているんでしょうね。実家暮らしで、高校や大学の友人ともたまに会ったりしてますし、会おうと思えば誰かしらとすぐに会える。
でも今回デートしたあの子は、大学の寮で一人暮らしなんすよ。マッチングアプリをやったのも、勿論チ○ポが欲しいってのが1番なんでしょうけど、慢性的な寂しさを抱えていたのかもしれませんね。
寂しいからチ○ポが欲しくなるという可能性もありますね。
俺も最近、両親が旅行に行っており、4日間家で1人という状態にありました。さすがにこの歳なので親がいないこと自体は平気なのですが、やはり家に1人でいるというのは意外と寂しいものがありました。大学の講義を1人で受けるとか、1人で飯を食いに行くとか、誰も知り合いのいないバイト先に入社することなんかが今まで苦じゃなかったので、俺は1人が平気な人間なんだと思ってました。
でも普段当たり前に誰かがいる環境から、突然人が居なくなると、なかなか寂しいものがあります。
俺がサルになりきれなかったのは、誰かに埋め合わせて欲しくなるほど慢性的な孤独を感じていなかったことが大きな原因かなと思いますね。
あとやっぱり彼女にムラムラしませんでした。
てか俺スレンダー体型に興奮しないわ。)
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