見出し画像

【脚本】竜馬を殺した女たち:後編


   
   明転。
   屋敷。
   中岡、座って酒を飲んでいる。
   忍び、現れて中岡の横にしゃがむ。 

中岡「どうだ? 薩摩の動きは?」

忍び「はい、どうやら西郷は武力で幕府を倒す決断をしたようで」

中岡「(微笑)そうか、やっぱりな……分かった、新しい動きがあったら知
 らせてくれ」

忍び「はっ」

中岡「(頷き立ち上がる)」

忍び「あの、あと一つ気になることが」

中岡「……何だ?」

忍び「先月笠置屋という酒屋を通じてピストルと槍と刀を買い付けた町人が
 いたらしく……」

中岡「町人?」

忍び「(頷く)」

中岡「このご時世だ、武器を調達する奴なんていくらでもいるだろ」

忍び「それが買いつけたのがおなごだそうでして」

中岡「おなご……?」

忍び「(頷く)」

中岡「どこの者だ?」

忍び「(中岡の耳元で囁く)」

中岡「……!」

 

   暗転。
   明転。
   醤油問屋「近江屋」の前。
   さな、イネ、奈津、おりょう、歩いて来る。

 

さな「いいかい? この家の階段を上がった左の部屋にあいつがいる」

イネ「誰も出入りしてへんからあいつ一人のはずや」

奈津「おりょうちゃん、覚悟はいいかい?」

おりょう「(頷く)」

さな「じゃあ、打ち合わせ通り、4人で取り囲んだら一気にやるんだよ」

イネ・奈津「(頷く)」

おりょう「あの、一ついいですか?」

さな・イネ・奈津「?」

おりょう「最初の一撃は私がやってもいいですか?(刀をかかげ)」

さな・イネ・奈津「(微笑)」

さな「いいよ」

おりょう「ありがとうございます」

 

   さな、イネ、奈津、おりょう、ゆっくりゆっくり歩いていく。それぞ
   れピストル、槍、刀、刀を手にしている。
   さな、立ち止まり、部屋の中を覗く。さな、イネ、奈津、おりょうの
   三人に「ここにいるよ」と手と目で合図。
   イネ、奈津、おりょう、頷く。
   さな、扉を開け、部屋に入る。
   イネ、奈津、おりょうもさなに続いて部屋に入る。
   暗転。

 

さな・イネの声「竜馬!」

奈津・おりょうの声「覚悟!」

さなの声「ちょ! ちょっと待って!」

イネの声「あ? なんや?」

さなの声「違う」

奈津の声「ホントだ」

イネの声「……ホンマや……誰やあんた?」

 

   明転。
   さな、イネ、奈津、おりょう、それぞれ武器を手にして立っている。  
   その視線の先、中岡が座っている。

 

中岡「おやおや、お嬢さんたち、物騒なもん手にして何しに来たんだい?」

イネ「誰や、あんた?」

中岡「(微笑)」

おりょう「中岡さん……」

さな・イネ・奈津「?(おりょうを見る)」

おりょう「土佐の中岡さんです」

イネ「中岡って、あの陸援隊の隊長の?」

おりょう「ええ」

中岡「(微笑)おりょうさん久しぶりだね」

おりょう「ええ(苦笑)」

中岡「で、いったいあなた方は何しに来られたんですか?」

イネ「何しにって竜馬に話があってきたんや」

中岡「はなし?」

イネ「そや」

中岡「その武器を持って?」

イネ「そ、そや……」

中岡「(微笑)」

奈津「最近の京都は物騒でしょ? だからこうやって武器持って用心してる
 のよ」

イネ「そう、そういうこっちゃ」

 

   中岡、さなたちをじっと見つめる。
   ドギマギしながらも冷静さを装うさなたち。

 

中岡「(微笑)まどろっこしい嘘はやめましょうよ、みなさん竜馬さんを殺
 しに来たんですよね」

さな・イネ・奈津・おりょう「……」

中岡「(さなを見て)千葉さなさん、お父様は北辰一刀流千葉桶町道場の千
 葉定吉さん。竜馬さんが江戸に剣術修行に行った時、あなたは竜馬さんと
 出会い恋に落ち、しかし新しい日本を創りたい竜馬さんはやがて江戸を離
 れあなたとは別れ離れに……しかしどうしても愛する竜馬さんのことを忘
 れられないあなたは竜馬さんを追って京都へやって来てみたら竜馬さんは
 他の女とできていた、そしてあなたは竜馬さんに殺意を抱くようになっ
 た……間違いないですか?」

さな「……」

イネ「(さなを見て)そうやったんか」

中岡「楠本イネさん、長崎で竜馬さんと出会い恋に落ちる。竜馬さんから今
 度亀山社中という貿易会社を作るからそのための資金を援助して欲しいと
 言われ百両を渡す。しかし夫婦になれると思っていたあなたを置いて竜馬
 さんは京都へ旅立ってしまう。竜馬さんを追って京都へ来てみたら竜馬さ
 んはすっかりあなたのことなど忘れて他の女子としっぽりやっていて、あ
 いつ殺したるわ(イネの喋り方を真似して)と思うようになった……そう
 ですね?」

イネ「何であんたそんなに詳しく知っとんの……」

奈津「(イネを見て)あんたも苦労したなぁ」

中岡「和歌山奈津さん、京都の旅籠、寺田屋で働いていた時に泊まりに来た
 竜馬さんと出会いその日のうちに恋に落ちその後毎日のように逢瀬を重
 ね、薩摩と長州を仲直りさせるために金が要ると言った竜馬さんに百両を
 貢いだが、その後竜馬さんが同僚のババア梅さん松さんもともしっぽりや
 っていたことを知って坂本竜馬殺害を決意する……」

おりょう「(奈津を見て)そうだったんですね……」

奈津「フンッ……」

中岡「そしておりょうさん、あなたは今でも竜馬さんを慕っているのにこの
 3人に唆されてここへやって来た」

おりょう「……」

さな「唆したなんて……」

イネ「嫌な言い方するわこの人」

奈津「自分の意志で来たんだよね」

おりょう「はい、最初はそんなつもりはなかったんですけど……みなさんの
 話を聞いて私もあの人を殺さなきゃって、今はそう思っています」

中岡「(溜息)まったく、元気のいいお嬢さんたちだ……女にしとくのがも
 ったいない」

さな「で、中岡さん、いったい竜馬はどこにいるんですか?」

イネ「そや、それを教えてくんないと」

奈津「そうよ、あんたには用はないんだから」

中岡「……そういう訳にはいかないんですよ」

さな・イネ・奈津・おりょう「……」

中岡「いいですかみなさん、あなたたちの竜馬さんは、今やあなたたちだけ 
 の竜馬さんじゃないんですよ」

イネ「は? どういうことや?」

中岡「薩長同盟に大政奉還、それを陰で動かしたのが竜馬さん、あの人で
 す。あの人は今や日本を動かすカギを握っている重要な人物なんです。こ
 の日本に必要な人物なんです。それを、たかがホレたのなんだのの痴話ゲ
 ンカで、そんな大切な人物の命を奪っていい訳がないでしょ」

さな・イネ・奈津・おりょう「……」

中岡「分かっていただけましたか? まぁ、確かにあの人は女にだらしない
 ところはありますから、私もあなた方の気持ちはよーく分かります。で
 も、今ご存じのように日本は激動の時代です、あの人にはまだまだ活躍し
 てもらわなきゃならない、まぁ、そこをよく考えて今日のところは……」

 

   と、下手から竜馬の声が。

 

竜馬の声「おーい、なかおかー、珍しいもん貰うてきたぜよ、良かったら一
 緒に食うき」

中岡「え!?」

おりょう「あの声は……」

さな・イネ・奈津「竜馬!」

中岡「なんで、帰ってきちゃったんだ……」

   

   さな、イネ、奈津、おりょう、目配せして部屋の隅に隠れる。
   竜馬、風呂敷を提げてやって来る。

 

竜馬「よー、中岡、鍋でもしよう思うて八百屋行ったらなぁ、面白いもん貰
 うてきたんじゃ、ホレ、西洋の果物じゃ、バナナっちゅうもんでの(バナ
 ナを取り出して見せる)」

中岡「竜馬さん何で帰ってきちゃったんですか!」

竜馬「何でってここはわしの部屋やないか」

中岡「今日は土佐藩邸に泊まるように言ったじゃないですか」

竜馬「あ、そやったかの」

中岡「そやったかのーじゃないですよ、あーもー」

竜馬「いやー、でも、おまんこれなかなか手に入る品じゃないっちゅうで、
 ホレこないして皮むいて食べるらしいき、(バナナを食べて)中岡! こ
 りゃうまいぞ! お前も食べてみ、ハハッ」

   

   さな、イネ、奈津、おりょう、身を隠していた場所からそっと出てく  
   る。

 

中岡「それどころじゃないんですよ!」

竜馬「あ? なんじゃ、おまん、このバナナより大事なもんて……あ、もし
 やお前これか?(小指を立てて)」

中岡「(小指を立てて頷く)ええ……まあ」

竜馬「なんや、中岡お前も隅におけんのぉー、なんじゃこれからここでか、
 すまんすまん、じゃあ、わしは失礼するき」

中岡「いや、今失礼しない方がいいと思いますよ」

竜馬「なんでじゃ……(手を叩き)なんじゃ、三人でやろうっちゅうこと
 か! わしも一緒にか? (笑)おまんもなかなか好きやのぉ」

   

   さな、イネ、奈津、おりょう、怒りに満ちた表情で竜馬の背後に立
   つ。それぞれの手にはピストル、槍、刀、鎌が握られている。

 

中岡「竜馬さん、もうそれ以上、喋らない方が……」

竜馬「三人っちゅうのはわしも久しぶりじゃき、まずどうしようかのぉ、そ
 や、まずわしが後ろからこう行くから(バナナを股間に当て腰を振る)お
 まんは前からこうじゃ(さなたちの姿が目に入るが続ける)、で、わしが
 こうで、おまんがこう、そんでわしが……」

 

   竜馬、「?」と気付き、ゆっくり振り返る。
   さな、イネ、奈津、おりょう、怒りに燃えた表情で立っている。手に
   はそれぞれの武器。
   しばし、見つめ合う、竜馬とさなたち。

 

竜馬「ほな、わしゃ帰るわ(歩き出す)」

さな・イネ・奈津・おりょう「おい!」

竜馬「ああ、おまんらみんな元気やったか、ああ、そりゃ良かったわ、ほ
 な!(歩き出す)」

さな「よくねーんだよバカ野郎」

 

   さな、イネ、奈津、おりょう、竜馬を殴ったり蹴ったり髪を引っ張っ
   たり痛めつける。
   竜馬が手にしていたバナナの皮が宙を舞って床に落ちる。

 

竜馬「痛ッ、痛ッ、もう勘弁、勘弁、暴力反対! 世界平和、平和主義、人
 類皆兄弟」

さな「何訳分かんねーこといってんだよ」

イネ「やっちまえ」

竜馬「中岡、どうにかしてくれよ」

中岡「だから言ったでしょ、何で帰ってきちゃったんですか!」

竜馬「まさか、こんな鬼みたいなやつらがいるとは思わんき」

さな「誰が鬼だとこの野郎!」

竜馬「違う違う」

奈津「何が違うの!」

竜馬「だから……鬼のように……素敵な女性たちっちゅうことや」

奈津「また相変わらず口だけは達者だなぁ、この女たらしが(殴ろうと手を
 あげる)」

竜馬「(奈津の手を制し)いやホンマや、奈津、しばらく見んうちにまたい
 っそう綺麗になったなぁ、わしゃ惚れ直したわ」

奈津「え……? あら……そう……?」

イネ「コラ! 奈津ちゃん、何度も同じ手で騙されちゃいかんでしょ」

奈津「ああ、そうやった、危ない危ない」

竜馬「イネ、そういうおまんも色気が増したなぁ」

イネ「え? ホンマか?」

さな「コラ! イネさん、あなたも気を付けないと!」

イネ「ああ、そうやった、危ない危ない、さすが、さな姉、しっかりしとる
 わ」

竜馬「ああ、さなは昔っからそういうとこあったなぁ、しっかり者でな、わ
 しゃ末っ子で3人の姉に小さい頃から面倒見てもらったき、しっかり者の
 おなごに弱くてなぁ、今日久々にさなの凛とした声聞いて懐かしゅうなっ
 たわ」

さな「……(ボーっとした表情)」

奈津・イネ「ちょっとさな姉! 大丈夫!」

さな「(ハッとなり)あ、危ないとこだったわ、おりょうちゃん、あなたも
 気を付けて」

おりょう「はい、もうこの人と喋るのはやめましょう」

イネ「そやな、早いとこやっちまったほうがええわ」

奈津「そやな」

さな「ああ」

おりょう「わたしがやります」

 

   おりょう、刀を構えて竜馬に近付く。
   後ずさりする竜馬。

 

竜馬「おりょう、おまんはやっぱり一番きれいやなぁ」

おりょう「聞こえません」

竜馬「おりょう、おまんと行ったハネムーン楽しかったなぁ、ホレあの薩摩
 の砂蒸し風呂、また一緒に行こうや」

おりょう「梅さん松さんとも一緒にいったらしいですねハネムーンに! 薩
 摩は一番格安だそうで」

竜馬「いや、そんなことないって、おまんはわしが唯一夫婦になったおなご
 じゃき」

おりょう「さっきみなさんから聞きました、みんなあなたから夫婦になろう
 って言われてエンゲージリングも貰ったって」

 

   指にはめたエンゲージリングを見せるさな、イネ、奈津。

 

竜馬「いや、それは……なんちゅうか」

おりょう「私の他にもこの人たちと夫婦になる約束してたのは本当なんです
 ね」

竜馬「いや、それは、だからな」

おりょう「だからなんですか! 梅さんに松さん、あのババア二人にも同じ
 こと言ってたんでしょ!」

竜馬「いや、そりゃあれじゃ、四民平等っちゅうて……そのある意味……ある
 意味な、わしゃ、さなも、イネも、奈津も、おりょうもみんな等しく愛し
 とる」

イネ「何が四民平等じゃ!」

さな「おりょうちゃん、こいつにゃもう何言っても無駄だよ、やっちまい
 な」

おりょう「はい」

 

   おりょう、刀を振りかぶる。

 

竜馬「おりょう、待て、わしゃホントにお前のことは特別やと思うちょる、
 な、だから、そんな物騒なもの置きや」

おりょう「ヌオー(叫ぶ)」

 

   暗転。
   明転。
   おりょうが振り下ろした刀、竜馬の後ろの壁に突き刺さっている。

 

おりょう「……(激しい息遣い)」

竜馬「…………」

おりょう「ちくしょー(泣く)」

奈津「おりょうちゃん……」

イネ「どしたんや?」

おりょう「出来ない……(泣く)」

さな「おりょうちゃん……」

竜馬「おりょう……」

おりょう「こんなに憎いのに……わたしにはこの人を殺せません」

 

   おりょう、膝から崩れ落ち泣きじゃくる。
   竜馬、おりょうの肩を抱く。

 

竜馬「すまんな、おりょう……これからおまんのこと大事にするき……」

おりょう「竜馬さん……(泣きながら竜馬に抱きつく)」

 

   抱き合うおりょうと竜馬。
   それを白けた目で見ているさな、イネ、奈津。

 

イネ「なんやこれ……」

奈津「曽根崎心中かよ」

さな「フンッ、こうなったらあたいたちでやるしかないね」

イネ「そやな」

奈津「(頷く)」

 

   さな、イネ、奈津、それぞれピストルと槍と刀を構える。

 

おりょう「駄目!」

 

   おりょう、竜馬をかばうように立つ。

 

さな「おりょうちゃん……」

おりょう「駄目です、この人をやるんなら私を殺してからにしてください」

奈津「何言ってんだいおりょうちゃん、ついさっきまであたしが竜馬を殺す
 って、そう言ってたじゃないか?」

おりょう「さっきはさっき、今は今! わたしはやっぱり竜馬さんのことが
 大好きです、この人を殺すなんて出来ません」

竜馬「ありがとう、おりょう、やっぱり、おまんが一番じゃ、わしゃお前を
 一番思うちょる」

イネ「あんたは黙っとき!」

竜馬「(おりょうの後ろに隠れる)」

 

   おりょう、武器を持ったさな、イネ、奈津としばしにらみ合う。

 

イネ「どうする? さな姉?」

さな「フンッ、そこまで言うならしょうがないね、おりょうちゃん、一緒に
 死んでもらうよ」

おりょう「……」

奈津「おりょうちゃん、逃げるなら今だよ」

おりょう「(首を振り)いえ、私は覚悟は出来てます」

竜馬「ええ!? いや、わしゃ覚悟は」

おりょう「(竜馬に)あんたは黙ってて!」

竜馬「はい」

イネ「ホンマにええんか?」

竜馬「(首を振る)」

おりょう「(頷く)」

竜馬「(えー? という表情)」

さな「仕方ないね、じゃあ、いくよ」

おりょう「(頷く)」

イネ、奈津「(頷く)」

さな「竜馬!」

イネ、奈津「覚悟!」

 

   暗転。
   SE、一発の銃声。
   明転。
   中岡が銃を構えている。
   中岡が撃った弾がさなが手にした銃を弾き飛ばす。
   手を押さえ驚くさな。
   おりょうたち一同、一斉に中岡の方を見る。

 

中岡「今だ! 竜馬さん、逃げて!」

 

   音楽IN。
   (全員動きがスローモーションに)逃げる竜馬。
   立ちはだかるおりょうを投げ飛ばし、竜馬を追い駆けるさな、イネ、
   奈津。
   槍で竜馬を突こうとするイネ。
   それをかわす竜馬。
   鎌を振り下ろす奈津。
   それをアクロバティックにかわす竜馬。
   (スローモーションで)しばしコミカルな追い駆けっこが続く。
   竜馬の着物をつかむさな。
   竜馬、床に落ちていたバナナの皮で足を滑らせすっ転ぶ。
   竜馬の着物がはだけ上半身裸に。
   音楽OUT。

 

竜馬「あーイッタ―、なんやこのバナナっちゅうのはえらい滑りよるなぁ
 ー、ああ、頭うったぜよ」

イネ「ハハッ、神様はちゃんと見てはんのや、バチが当たったんや」

さな「逃げようたって無理よ」

奈津「そや、観念し!」

竜馬「ちっきしょー、ついてへんなぁ」

 

   竜馬、胡坐をかいて観念した様子。
   おりょう、竜馬の肩をじっと見つめている。

 

おりょう「竜馬さん……入れ墨はどうしたの?」

竜馬「あ……?」

おりょう「二人の愛の証にって、肩にお互いの名前を彫った、あの入れ墨
 は?」

 

   おりょう、着物をはだけて右肩を出すと、そこには「竜馬命」と彫ら
   れた入れ墨が。

 

奈津・イネ「あ! あんたもか!」

 

   奈津、イネ、お互いの顔を見て、

 

イネ「……? もしかしてあんたも……?」

奈津「……え? イネさんも……?」

 

   イネ、奈津、着物をはだけて肩を出すとそこに「竜馬命」の文字が。

 

奈津「じゃあ、もしかして……」

 

   奈津、イネ、おりょう、さなを見る。
   さな、黙って着物をはだけ右肩を見せる。そこには「竜馬命」の文
   字。
   しばしお互いの肩を見つめ合うおりょうたち。
   その間にこっそりと着物を着る竜馬。

 

イネ「ちょっとあんた! なに隠してんねん!」

奈津「そや、もう一遍見せてみ!」

 

   イネ、奈津、竜馬の着物を脱がせる。
   入れ墨のない竜馬の肩が現れる。

 

イネ「どうゆうことや!」

おりょう「おりょう命って彫ったはずでしょ」

奈津「奈津命って、うちの名前書いてあったやないのここに(竜馬の肩に触
 れ)」

イネ「いや、イネ命って」

さな「もういい!」

おりょう・イネ・奈津「!」

さな「(竜馬にピストルを突きつけ)説明しな」

竜馬「いや、それは……なんちゅうか……いろいろあってな」

おりょう「説明してください!(刀を構え)」

竜馬「……」

 

   イネ、奈津も武器を手に取る。

 

竜馬「ああ、分かった! もう説明するき、おりょうに入れ墨彫ろう言われ
 てな、こりゃ困ったことになったなぁ思うて、そんでエゲレスの外交官の
 パークスさんっちゅう人にな、ちょっとこれ(小指を立て)のことで揉め
 ちょるって相談したんよ」

 

   竜馬、上手へ。
   上手にスポット。
   パークス、現れる。

 

パークス「(笑)そうですか、いやー、さすが竜馬さんはプレイボーイです
 ね」

竜馬「いやいや、パークスさん笑いごっちゃないぜよ……ああ、まったくお
 なごっちゅうのは困ったもんぜよ、まったく」

パークス「分かります」

竜馬「え? なんじゃ、パークスさんもおなごで失敗した経験あるんか
 い?」

パークス「(笑)ええ、こう見えて私も若い頃はプレイボーイでしたから」

竜馬「なんやあんたもヤリチンか(笑)」

パークス「イエース、私もヤリチンでした(笑)でも竜馬さん、我々の国の
 技術でそのお悩みを解決出来るかもしれません」

竜馬「ほんまかい!」

パークス「ええ、これです」

 

   パークス、服を脱いで右肩を見せると「お松命」と書かれた入れ墨
   が。

 

竜馬「なんや! パークスさんも入れ墨しとったんか!」

パークス「イエース」

竜馬「しかもお松ってもしかしてあの寺田屋のお松さんかえ?」

パークス「イエース」

竜馬「あんたもようあの婆さんに手出したな」

パークス「イエース、わたし熟女大好きです」

竜馬「まったく(笑)」

パークス「でも竜馬さん、よく見ててください、これ実は剥がせるんです」

 

   パークス、入れ墨と見せかけたシールを剥がしてみせる。

 

竜馬「ウワッ! なんじゃこれ」

パークス「これは西洋の最先端の技術、シールというものです」

竜馬「シール?」

パークス「これがあればいくらでも浮気できます」

竜馬「パークスさん、これわしにくれ! 頼む!(土下座する)」

パークス「(微笑)分かりました、その代わり幕府を倒すのに協力してくだ
 さい」

竜馬「ああ、分かった分かった協力するき」

 

   上手、スポットOFF。
   パークス、去る。
   竜馬、舞台中央へ。

 

イネ「ウソ! じゃああの入れ墨は」

奈津「そのシールだったってこと?」

竜馬「ああ、まあそういうことじゃ」

さな「まったく……」

竜馬「いや、すまん、許してくれ、この通りじゃ」

 

   土下座する竜馬。
   刀を取るおりょう。その手が怒りに震えている。

 

おりょう「許せない……」

さな「おりょうちゃん?」

おりょう「絶対許せない……(刀を手にフラフラと竜馬に向かって歩き出
 す)」

イネ・「どないした?」

おりょう「殺す」

奈津「おりょうちゃん……」

おりょう「竜馬―!」

竜馬「!」

 

   おりょう、竜馬に斬りかかる。
   暗転。
   SE。バサッと竜馬を斬る音が部屋に響く。
   竜馬「ウッ」と叫び倒れる。
   明転。
   おりょう、刀を振り上げた姿勢のまま驚いて立ち尽くしている。
   おりょうの前にいるのは中岡(竜馬を斬ったのは中岡)。その手には
   刀。
   中岡、立ち尽くしている。

 

さな「中岡さん……」

中岡「竜馬さん……あなた、愛しているのはお前だけだと言ってくれたじゃ
 ないですか」

竜馬「(微笑)す……すまんのー中岡……」

 

   中岡、着物をはだけると右肩には「竜馬命」の入れ墨が。

 

おりょうら一同「え!?」

おりょう「中岡さん……」

中岡「竜馬さん、土佐にいる頃から俺はあんたのことが好きだった……俺は
 これまで、あんたのためだから必死でついてきたのに……薩長同盟も大政
 奉還も……そんなことどうでもいい、俺はあんたに気に入られたくて全部
 やったのに……」

竜馬「……ハハッ……中岡……すまん……」

中岡「利用したんだな俺を……」

竜馬「……(首を振る)」

中岡「許せん」

 

   中岡、「あー」と叫んで刀を振り下ろす。
   暗転。
   SE、ブスッと刺す音。
   明転。
   さな、中岡の背中に刀を突き刺している。

 

おりょう「さなさん!」

中岡「……」

 

   さな、ハッとして中岡から離れる。
   中岡痛みに苦しみながらおりょうに対し太刀を振りかぶる。

 

中岡「この野郎……」

イネ「こなくそ!」

 

   イネ、中岡を槍で刺す。

 

奈津「うちの竜馬になんてことすんねん!」

 

   奈津、刀で中岡の腹を突き刺す。
   奈津に続きおりょうも「あー」と叫んで刀を中岡の腹に突き刺す。
   中岡フラフラと倒れる。

 

中岡「竜馬……さん……(絶命する)」

 

   しばし、呆然と立ち尽くすおりょう、さな、イネ、奈津。

 

竜馬「おりょう……さな……イネ……奈津……」

おりょう・さな・イネ・奈津「?」

おりょう「竜馬さん、大丈夫?(竜馬を抱き上げ)」

竜馬「いや……わしゃもう駄目じゃ」

イネ「何言うてんねん、まだ大丈夫や」

竜馬「いや、もう、ダメじゃ、お迎えの神様がそこまで来ちょるわ……おま
 んらの手でトドメさしてくれ」

さな「え?」

奈津「何言うてんのよ」

竜馬「(笑)おまんら、すごいおなごじゃのぉ、薩長同盟と大政奉還を成し
 遂げた海援隊の坂本竜馬と陸援隊の中岡慎太郎をひとまとめに殺したん
 や……歴史に残るぜよ……」

奈津「(泣く)何言うてんの」

イネ「そや、あんたはまだ死んでへんわ」

おりょう「またハネムーンに連れてってください! 格安の薩摩でもいいか
 ら、ドレスを買ってください、他の人と同じでいいから! わたしだけの
 竜馬さんじゃなくていいから!」

竜馬「すまんのー、わしゃもう疲れたき……いかしてくれ……」

イネ・奈津「竜馬!」

おりょう「竜馬さん!」

さな「いかせてやろう」

おりょう・イネ・奈津「え!?」

さな「私たちの手で、楽にしてやろう」

おりょう・イネ・奈津「…………」

竜馬「ありがとな……さな……」

さな「(頷く)」

 

   さな、イネと奈津とおりょうに目で合図。
   イネ、奈津、おりょう、ゆっくり頷く。
   おりょう、さな、イネ、奈津、それぞれ武器を手に取る(ピストル、
   槍、刀など)。

 

竜馬「(笑)面白かったなぁ、ほな……」

さな「いくよ!」

おりょう・イネ・奈津「(頷く)」

おりょう・さな・イネ・奈津「りょうまー!」

 
   おりょう、さな、イネ、奈津、武器を構える。
   暗転。
   SE。銃声、ブスッと刺す音。
   音楽IN。
   音楽OUT。
   明転。
   字幕「八年後」。
   料亭田中屋・2階の部屋。
   おりょう、窓際に腰かけている。
   阿部、おりょうの話を聞いている。

 

阿部「……じゃあ、竜馬さんを斬ったのは新撰組でも京都見回り組でもな
 く……?」

おりょう「(微笑んで頷く)」

阿部「…………」

 

   しばしの間。
   竜馬(幽霊)現れる。ニヤニヤしながらおりょうの前をうろつく。

 

阿部「そうですか……あの坂本竜馬さんが……」

竜馬「(頭を掻きながら申し訳なさそうにうろつく)」

おりょう「これで分かってもらえたかい?」

阿部「ええ……分かりました。確かにあなたが仰ったように、坂本竜馬は」

阿部・おりょう「坂本竜馬は、ろくでもないクソ野郎です!」

 
   おりょう、阿部、竜馬をどつく。
   音楽IN。

 

                                                                                《完》

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?