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できすぎデス・スター

 デス・スター非実在説って聞いたことある? ……ああ大丈夫、このワインは一杯目だ。僕はまだ酔っ払っちゃいない。ヤヴィンの戦いが反乱同盟軍のでっち上げで、そもそもデス・スターは存在しなかったなんて与太話、僕だって本気で信じてやしないよ。

 でも一方、デス・スターの存在を疑う気持ちもわからなくはない。なにせあの恐ろしいバトルステーションは、ルーク・スカイウォーカーの若き日の冒険譚にとって、あまりにも“できすぎた”存在だったからね。

 どういうことかって? そうだな……順を追って話そう。でもその前に、コレリアン・ワインをもう一杯頼んでもいい?

 ルークがオビ=ワン・ケノービと共にタトゥイーンを発った時、当面の目的は何だったか知ってる? そう。デス・スターの設計図を託されたドロイドを、オルデランに届けることだ(プリンセス・レイアがオビ=ワンにそう頼んだからね)。そのためにオビ=ワンは、まだ密輸業者だった頃のソロ将軍に、1万7千だか8千だかの大金を支払う約束をしたんだっけ。

 でもルークは、オルデランに着いた後どうするつもりだったのかな。伝説によれば既にジェダイの騎士になる決意を固めてたそうだけど、それは人生を通しての目的だ。直近の行動指針にはならない。
 とりあえずオビ=ワンのお供をして、行く先々で修行をつけてもらえばいいって? うーん、悪くはないけど、若きヒーローの進む道にしてはずいぶん消極的だね。言ってしまえば……冒険譚としてテンポが悪い。

 そんな状況に一石を投じたのが、かのデス・スターだ。奴はオルデランに先回りして、KABOOOM! 彼らの目的地を宇宙のチリにしてしまった。惑星ひとつと引き換えに、中だるみしそうな物語に活を入れたってわけだ。
 それだけじゃない。ミレニアム・ファルコンを拿捕して、ルーク達に新たな、より強力な目的を与えた。自分の中に囚われたプリンセスを助け出して、みごと脱出してみろってわけさ。おまけに暗黒卿とオビ=ワンを引き合わせ、“師の喪失”まで演出してのけた。なんとまあ盛りだくさんの展開を用意してくれたもんだ!(いや、もちろんオビ=ワンは気の毒したけどさ)

 さて。デス・スターの内外を舞台にした大冒険の末、ルーク達はついに同盟軍の秘密基地、ヤヴィン4にたどり着いた。デス・スターの設計図はすぐさま解析され、その弱点が明らかになった。
 オーケー。で、いつ攻撃を仕掛ける? もう少し戦力が整ってから? デス・スターの居場所がわかってから? 冗談じゃない、それじゃまたテンポが落ちてしまうよ。

 答えは……今すぐさ! だってそうだろ、デス・スターはわざわざヤヴィン4の近くに現れて、今にも同盟軍をスーパーレーザーで吹っ飛ばそうとしてるんだぜ? これだけ強烈にケツを蹴り上げられれば、どんなアホだってすぐに行動を……ああ失礼。つい頭に血が上ってしまった。別にローグ・ワンの件で同盟軍に不信感があるとか、そういうわけじゃないからね。

 まあ、その後は言わずもがなさ。同盟軍と帝国軍の激しい空中戦。ヴェイダー卿の恐るべき追撃。あまりに劇的なミレニアム・ファルコンの救援。そして、ルークが放つ“奇跡の一発”! KABOOOM!……最高の幕切れだ。

 何十年か前に、ルークの冒険を題材にしたホロドラマがあったんだけど、観たことある? スカリフの戦いの直後、設計図を受け取ったプリンセスが逃げるところから始まってさ。いろいろあってデス・スターを吹っ飛ばしたルーク達が、同盟軍の英雄になるまでちょうど2時間……もう少しあったかな? ともかく、あれだけの内容がそんな尺で綺麗にまとまったのは、少なからずデス・スターのおかげだと僕は思うね。

 話がうまく運びすぎだと言う人もいる。だから信じないって人も。でもいいじゃないか。混沌の銀河には伝説が、あるいは神話が必要だ。僕みたいな連中……伝説の末席にも座れない有象無象にとって、それがどれだけ救いになることか。

 おっと、もうこんな時間か。少しばかりおしゃべりが過ぎたようだ。そろそろ失礼するよ。
 え? そのホロドラマのタイトルを教えろって? ええっと、「新たなる……」何だっけな、まあそんな感じさ。いずれ君にも観る機会が来ると思うよ。フォースの導きがあればね!


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