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「宇宙大作戦」10YEARS AFTER劇場版のつもりで観る「スター・トレック(1979)」

 Amazon プライム・ビデオでスタートレックの映画が軒並み無料になっていた。「ピカード」配信開始に合わせてのことだろう。ありがたい。ジョーカー合わせの「キング・オブ・コメディ」とかも大変良かった。

 せっかくだから懐かしの劇場版第1作「スター・トレック」でも観ようかな……と再生しかけたが、その時ふと気付いた。そういえばおれ、この映画はじめて観たとき、オリジナルの「宇宙大作戦」履修してなかったわ。知識として主要キャラを知ってる程度で観て、2作目「カーンの逆襲」の時ですら「カーンって誰?」とか思ってたわ。

 でも今は違う。オリジナルシリーズは再放送でひと通り楽しんだし、キャラへの愛着も生まれた。一旦終わったTVシリーズがなかなか再開できなかったこととか、それがスターウォーズの超ヒットに後押しされて一足飛びに劇場版になったとか、そういう事情も理解している。
 そこで今回は「10年ぶりに映画で復活した『宇宙大作戦』をお迎えする(一方でスターウォーズをめちゃくちゃ意識してる)」というマインドセットで観ることにした。


TVショウ比で映像がすごい

 そしたらオープニングでクリンゴンの戦艦がゴゴゴゴゴと登場してひっくり返った。お前もかスタートレック! お前も悪の宇宙戦艦ゴゴゴゴゴで幕を開けるのか!
 しかも奥から手前に飛んで来たり、アオリじゃなく俯瞰だったり、撮り方がスターウォーズの逆張りだ。そんなことしなくてもいいんだよ! 先輩なんだから自信持って!(マインドセットの副作用でスターウォーズっぽい要素に過剰反応してます)

 まあそれはそれとして、映像クオリティの上がりっぷりは素直にうれしい。オリジナルシリーズの素朴なSFXを懸命に脳内補完したり、デジタルリマスター版でCGに差し替わったシーンを見て「そうだよね……このくらい控え目なリニューアルじゃないと、他のシーンとの整合性がね……」と複雑な心境で頷いた身としては、絵ヅラでスターウォーズの向こうを張れる時点で感無量だ。宇宙の脅威がちゃんと脅威に見えるぞ!

同窓会に若返った奴が来た

 画面に映る最初のオリジナルメンバーは、シリーズの顔とも言えるミスター・スポック。一番見たい人を真っ先にお出しされた。信頼できる仕事だ。
 続いて、提督に出世したカークとヒゲオヤジになったチャーリーが登場(吹替版で観てます)。みんなそれぞれ年取ったなあ……と、オリジナル履修前は味わえなかった感慨に浸っていると、逆に若返ったエンタープライズがバーンと現れて度肝を抜かれる。

「スターウォーズ」が大ブレイクさせたプラモ部品ペタペタ複雑ディテールを歯牙にもかけぬ、この ↑ リニューアルっぷり。そうだよそれでいいんだよ元が最高なんだから!(スターウォーズを過剰にライバル視してます)

 表面の細かい塗り分けが醸し出すスケール感。オリジナルデザインの良さを維持しつつ強調されたスピード感(後退翼めいた末広がりのパイロンがスゴイ好き)。そして何より、自分で自分をライトアップする手法は天才の所業だ。いささかナルシスティックではあるものの、これほどのグッドプロポーションなら余裕で許せる。

 白く滑らかな船体をカメラが執拗に舐める。直線的で暗いドライドックとの対比を強調する演出は、古民家で撮影するグラビアDVDのようだ。見応えはあるけどさすがに尺が長すぎでは? とおれは訝しんだが、その真の意味にはまだ気付いていなかった。

カークだけ高解像度

 クリンゴン艦や惑星連邦のステーションを蹴散らしつつ、地球に迫る謎の巨大宇宙雲。これを迎え撃つべくエンタープライズに復帰したカークがブリッジに顔を出すと、チェコフ、ウラ、ミスター・カトーといった懐かしの面々が嬉しそうに駆け寄る。久々に大学のサークルに顔を出したOBのようだが、カークの表情はいまいち冴えない。既にエンタープライズには若き新艦長デッカーが着任しており、まずは彼を副長に降格して指揮権を握る必要があるのだ。

 案の定デッカーにめちゃくちゃ噛みつかれるカーク。「後任に推しといて悪いけど、キミ経験不足だからここからは俺が仕切るわ。そこどいて」と言ってるのだから無理もない。降格の前にまず地球の危機を説明しろよ! とも思うが、艦長に復帰したい下心を既に見透かされてる以上、説明しても結果は同じかもしれんね。

 いっぽうカーク以外のレギュラーメンバーはというと、特に悩みもなくTV版の役職のまま楽しそうにやっており、退役者が復帰しても特に軋轢はない(※1)。なぜかカークにのみ俗世間の力学が働き、ムダに偉くなって艦長の座から引き離されたあげく、若者の突き上げを食らうのだ。人生の解像度がひとりだけ高くない?「プーと大人になった僕」のクリストファー・ロビンか、はたまた逆「劇画・オバQ」か。

※1:チャペル看護婦がドクターになってもマッコイは気にしなかったし、スポックの後任になるはずのヴァルカン人は偶然にも転送事故死した。

 どんよりとそんな事を考えてたら、リニューアルされたワープ演出が素晴らしすぎて、瞬時にどうでもよくなった。星々ではなく船体がビューンと伸びるさまはミレニアム・ファルコンの逆張りめいてはいるが、セルフライトアップとの相性が最高で全然気にならない……なに? ワープ中のトラブルでカークとデッカーがケンカを始めた? もういいほっとけ!

ファーストコンタクトが長い

 私が一番エンタープライズをうまく使えるんだ状態のカークをドクター・マッコイが諫める(ミッドライフクライシスのカウンセリングに見えてきてヤバい)が、二人だけだとどうも雰囲気が硬い。そろそろこの場にいないもう一人が恋しくなってきたぞ。
 ……という絶妙のタイミングでミスター・スポックが合流、カーク以下旧メンバーの歓迎を受ける。スポック大好きチャペル嬢なんかニッコニコでブリッジに上がってきたのに、本人は(観客の期待通り)完全なる塩対応。そのくせ無言の間だけはたっぷり取って、「やだなあホントは嬉しいくせに」とツッコむ余地を残してくれる。

 スポックが速攻で修理したワープエンジンでカッ飛ばし、エンタープライズは宇宙雲に接近。だが依然としてその正体は不明、彼我のパワー差は圧倒的。一瞬で艦ごと破壊されかねない状況下、前進するか否かでスポックとデッカーの主張が食い違う。
 なんだなんだまた新旧艦長でモメるのか? と思いきや、そうはならなかった。オリジナルシリーズのレギュラーが集結した今、ブリッジのアトモスフィアはTV版に染まりつつある。人類に残された最後の開拓地をさんざん渡り歩いてきた連中にとって、ここで足踏みする選択肢などあろうか。颯爽と前進を命じるカークの背後に、劇場版テーマ曲がファンファーレめいて鳴り響く(※2)。ここからが本番だ!

※2:吹替版だけの仕様っぽい。

 かくして宇宙雲の内部に突入したエンタープライズは、謎めいたエネルギー体の中を延々と進む。スクリーンに映し出されたアブストラクトな光景を、緊張の面持ちで見つめるブリッジクルー。ひたすら奥へ……奥へ……

 宇宙雲の最深部で彼らが遭遇したのは、全体像が把握できないほど巨大な異星宇宙船だった。スクリーンに映し出された有機的な船体を、緊張の面持ちで見つめるブリッジクルー。ひたすら奥へ……奥へ……

 見応えはあるけどさすがに尺が長すぎでは? と再び訝しんだ瞬間、スターウォーズを気にするあまり曇っていたおれの目にも、ようやく真実が見えた。この映画が意識してるのはスターウォーズではなく、オリジナルシリーズの同級生(※3)「2001年宇宙の旅」だ。前半のエンタープライズ舐め舐めカメラが「美しく青きドナウ」に、いま観せられている幻想的なSFXシーンはスターゲートに相当する。なるほど長くもなろうて。

※3:「2001年宇宙の旅」が全米公開されたのは、オリジナルシリーズのシーズン2が終了した翌週である。

 とはいえ故シド・ミード御大がデザインした異星宇宙船は、余裕で長尺に耐えるオリジナリティと美しさ。前半でさんざん巨大感をアピールしたエンタープライズが豆粒にしか見えない強烈な対比もいい。大スクリーンに映えるだろうなあ。でも映画館で観たら寝るかもなあ……。


超大型宇宙船ヴィジャーの謎 c/w 2001年

 気づいてしまった以上は仕方ない。おれはスターウォーズを棚に上げ、マインドセットの軸足を「2001年宇宙の旅」に移して視聴を続けた。

 そしたらまあこれがハマるハマる。映画の元ネタになったTV版のエピソードと「2001年」が合体したら、まさにこんな感じだろう。
 スポックとカークが赤と黄色の宇宙服で船外に出るだけでもう「AE-35ユニットだ!」となって楽しいし(※4)、初見時に戸惑った強引な展開は、「そこだけ解像度がTV版になっている」と解釈することで、のどごしが劇的に向上した。ゴクゴクいける。
 ストーリーの終盤、巨大宇宙船=機械知性体ヴィジャーの正体を巡る謎解きには観客10人中10人がツッコミを入れると思うが(※5)……これだって見ようによっては、まるでTV版のノリの再現だと考えられることも、できなくはなかった。

※4:宇宙服のデザインがヘルメット一体型なところもポイント倍点。これなら船内にヘルメットを忘れる心配もないね!

※5:建て増す物件は工事前に掃除しておきましょう。

 ただしこの視聴法には副作用がある。壮大なラストシーンの最中、デッカー副長がボーマン船長(※6)に、元カノ転生アンドロイド・アイリーアのスキンヘッドがスターチャイルドの隠喩に見えてくるのだ。ニューロンに悪いので、皆様におかれましては程々にご利用いただきたい。

※6:でも実際、見た目を意識的に寄せてるよね。


久々に観た感想としては

 スタートレックの歴史において意義深い作品であったことはひしひしと感じられたし、オリジナルシリーズを踏まえたメタい旨味も存分に味わった。十分以上に面白いSF映画ではあったが、それでもなお「カークの強引なリーダーシップをもっと見たかった」とか「バトル要素が欲しい」とか「そもそも一発もフェイザー砲ぶっ放してないじゃん」とか、血の気の多い注文を出さずにはいられない。スターウォーズマインドセットの副作用だ。野菜より肉を食いたかったのだ。

 そんな(当時の観客も抱いたであろう)要望への回答として、続編「カーンの逆襲」がいかに完璧だったか、あらためて実感した。

 飛び交うフェイザー砲! 火を噴く船体! カーク絶対殺すマンvs悪知恵クソ野郎カーク(決まり手が大体だまし討ち)! ヤバい寄生生物! ヤバい超兵器! 戦艦と戦艦の有視界戦闘! 暴力! 人が死ぬ! コバヤシマル!

 あとでこっちも観ようっと。

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