映画を観た記録102 2024年6月15日    小津安二郎『風の中の牝雞』

Amazon Prime Videoで小津安二郎『風の中の牝雞』を観る。

本作品は、一般的に流通している小津映画の印象を覆す大胆な作品である。なにしろ、田中絹代演ずる時子の階段落ちがある。もっとも落ちていくのはスタントである。そしてスタントを小津安二郎が使ったのは本作品だけである。

物語自体が激情の塊である。時子は、出征した夫が帰ってくるのを待っている。待っているひとり身のとき、息子は大腸カタルにかかってしまう。入院代を出せない。妻は、知り合いの女性に紹介され、曖昧宿で買春をしてしまう。

当時は、国民皆保険がまだない時代である。

そして、佐野周二演ずる夫が帰ってきて、妻は話してしまう。

そして、夫婦の亀裂が走る、というストーリーが階段落ちまでにつながるのである。

ちなみに曖昧宿の場所の設定が小学校の隣というのがエグすぎる。

やはり、本作品もまた笠智衆が出演している。

『東京物語』が1953年、『風の中の牝雞』が1948年。

笠智衆は『風の中の牝雞』のとき、44歳で年相応の役、『東京物語』のときが49歳で老父である。

本作品は、戦後日本人がいかに苦闘して生きて来たか、如実にわかる映画である。『東京物語』も戦争の影が色濃く残り、本作品は更に濃厚である。

佐野周二演じる夫が、妻の売春の曖昧宿で女性を「買う」が行為はしない。その女性もまた、家族を養うためにからだを売らざるを得ない。21歳である。その彼女は川辺で弁当を食べるのである。カラダを売るような女性が弁当を食べるという演出に私はショックを受けた。戦後3年過ぎても、日本は相当、貧乏だったのか。貧乏なので、ボロボロの障子紙である。

日本人は「貧乏」だったことを本作品を観て、疑似体験してもらいたい。

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