映画を観た記録86 2024年5月11日    ジョン・カサヴェテス『オープニング・ナイト』

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ジョン・カサヴェテスの映画は、基本的に俳優のための映画である。映画のスタッフが主張しているような映画ではない。

映画のスタッフが主張している映画とは、流麗なカメラワーク、人工合成された画面、美意識が突出した美術や構図、物語をスムーズに運ぶための編集などというものとは正反対にあるのだ。しかし、それはスタッフの技能が低いということではない。ただただ、主張しないだけのことだ。カサヴェテスの映画は俳優の演技を見つめる。彼の演技論は即興演出である。

本作は劇映画内の劇である舞台でいかに即興演技ができるのかという試みではあるが、それもまたシナリオ通りである。即興演出とは俳優の可能性を引き出す冒険的な試みなのである。

本作の物語は、ジーナ・ローランズ演じる主人公の女優が、その女優を慕う18歳の若い女の子が豪雨の中、車にはねられて死ぬ。ジーナ・ローランズ演じる女優マートンはそのことで精神的にふらつきだす。もともと、彼女は、老いることに過敏であったのである。マートンは、この女性を演じることで役が狭まる事さえ心配している。その彼女に若い女の子の死は衝撃的であり、彼女に空想の亡霊としてつきまとうようになる。降霊術で若い女の子を追い払おうとした結果、空想の亡霊はマートルに報復にでるようになる。

その精神的不安定な彼女が主人公の劇の演出家をベン・ギャザラが演じる。ベン・ギャザラ演じる演じる演出家マニーはオーソドックスな演出家でもある。彼女の狂態が許せない。

とうとう、"オープニング・ナイト"が近づく。

彼女はいない。

彼女は大幅に遅刻して、劇場に来た。しかも酔っぱらっている。

マニーは1人で歩かせるようにする。

そして、彼女はマートルは舞台に立てるのだろうか。

彼女は舞台に立てたのだが、それが、この舞台のドラマ『第二の女』を即興的に変えてしまう。

即興劇でもというのか、だからというべきか、観客は絶賛の拍手を送っている。

そう。

俳優こそ全てである。

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